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ハンバーガー業界の常識を破る事業を展開 元主婦の社長が率いる「ドムドム」の勢い

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
ドムドムバーガーのアイコン「どむぞうくん」(ドムドムフードサービス提供)

今年はハンバーガーやフライドチキンのファストフードショップを新規に出店する事例が相次いでいる。その要因の一番は、このコロナ禍でマクドナルドやKFCをはじめファストフードの業績がまさに「特需」のように好調であることが挙げられる。さらに好調組のキーワードとして「まとめ買い」「テイクアウト」「デリバリー」「日中の営業」が挙げられるだろう。

ここで紹介する事例もこれらの路線を踏襲したものと想定されるが、非常に独自の路線を歩んでいる。

好評を博した企画を実店舗で実現

それは株式会社ドムドムフードサービス(本社/神奈川県厚木市、代表/藤﨑忍)である。

同社が設立されたのは2017年4月であるが、その前身はダイエーの事業としてスタートした。ダイエーでは米国マクドナルドと交渉して日本でマクドナルドを展開しようとしていたが出資比率で合意に至らず、独自にハンバーガーショップの「ドムドム」を開発し1号店を1970年にオープンした。藤田商店による日本マクドナルドの1号店は1971年であることから、ドムドムは「日本最古のハンバーガーチェーン」を標榜している。ドムドムの運営会社はいくつか変わり、現在のドムドムはホテル経営等の株式会社レンブラントホールディングスに引き継がれている。現在ドムドムの店舗数は27となっている(8月末現在)。

象を型どったドムドムのアイコンである「どむぞうくん」がかわいらしく、これが今同チェーンのブランディングに大きく役立っている。

さて、同社の新規出店で話題となっているのは8月2日東京・新橋にオープンした「TREE & TREE’S」。飲食店街の表通りの路面にファサードを構えている(店舗は1階と地下1階)。

営業時間帯をモーニング、ランチ、ディナーと分けて、ランチとディナーで提供するハンバーガーは「和牛バーガー」がメイン。これを「塩」「醤油」「山葵」「紫蘇」「チーズ」「アボカド」「アボカドチーズ」のバリエーションで1350円~1690円(税込)で提供している。パティは100%和牛、店内で手切りして注文を受けてから焼成する。ソフトシェルクラブをはさんだ「丸ごとカニバーガー」1390円や、豆腐の厚揚げをはさんだ「厚揚げバーガー」990円といったユニークなハンバーガーもある。ハンバーガーの全商品に北海道産マチルダ(ジャガイモの品種)のフライドポテトが添えてある。決済は完全キャッシュレスとなっている。

8月2日、東京・新橋にオープンした「TREE &TREE’S」。2019年に開催したイベントで和牛プレミアムバーガーが好評を博し、リアル店舗の出店が叶った(筆者撮影)
8月2日、東京・新橋にオープンした「TREE &TREE’S」。2019年に開催したイベントで和牛プレミアムバーガーが好評を博し、リアル店舗の出店が叶った(筆者撮影)

和牛バーガーのパティは店内で手切りして整形する。こちらは「和牛バーガーアボカドチーズ」1690円(税込)(ドムドムフードサービス提供)
和牛バーガーのパティは店内で手切りして整形する。こちらは「和牛バーガーアボカドチーズ」1690円(税込)(ドムドムフードサービス提供)

ソフトシェルクラブを丸ごとはさんだ「丸ごとカニバーガー」1390円(税込)(ドムドムフードサービス提供)
ソフトシェルクラブを丸ごとはさんだ「丸ごとカニバーガー」1390円(税込)(ドムドムフードサービス提供)

同店がオープンしたきっかけは、2019年9月に六本木で開催したイベント「DOMDOM in 六本木」でのこと。「(港区で人気の)高級バーガーをドムドムがやってみたら」をテーマに3種類の和牛プレミアムバーガーを販売したことであった。2日間の開催であったが、これが好評で翌月の10月に追加で3日間開催した。

このアイデアは前年の2018年8月に社長に就任した藤﨑忍氏が立案したもの。このイベントでの反響を受けて、藤﨑氏は「日本生まれのハンバーガーショップが日本で食べられる最高のハンバーガーを提供する店をつくろう」と企画を立ち上げて、出店の機をうかがっていた。

そして、同社のグループ会社が新橋にビルを構えることになり、出店を名乗り出たことで「最高のハンバーガー」の出店が実現できた。

主婦が外食企業の社長になるまで

この藤﨑氏は実に多岐に及んだ人生を歩んでいる。このことは自著の『ドムドムの逆襲』に詳しく述べられている。

ドムドムフードサービス代表取締役社長の藤﨑忍氏。同社に入社して9カ月で社長に就任した(ドムドムフードサービス提供)
ドムドムフードサービス代表取締役社長の藤﨑忍氏。同社に入社して9カ月で社長に就任した(ドムドムフードサービス提供)

生まれは、1966年7月東京都墨田区の下町。生家はさまざまな商売を営み祖父の代からの地方政治家の家庭で育った。青山学院に初等部から通い、青山学院女子短期大学を卒業後、1987年墨田区議会議員に当選した恋人と結婚、専業主婦となる。

しかしながら、2005年の夏に夫が病に倒れる。そこで藤﨑氏は家計を支えるために働きに出ることを決意。友人の紹介でギャルの聖地「SHIBUYA109」のアパレルショップの従業員となる。この時、藤﨑氏は39歳であった。

この店では店長(専務)となったが、オーナーの方針が変わり2010年9月に退任することとなった。

すぐに、新橋の居酒屋でアルバイトを始める。得意の料理の腕がかわれて厨房全般を任されるようになった。

5カ月後の2011年2月、アルバイトをしていた居酒屋の同じフロアの斜め前のスペースに空きが出たことから、独立して出店することを決意。翌3月に居酒屋をオープンした。料理がおいしいことから評判を呼び、予約必須の人気店となる。翌年、隣のゲームセンターが撤退したことからその物件に2店目を出店、洋風の居酒屋に仕立てた。

2つの繁盛店を営む忙しい日々を過ごしていた2017年5月のある日、常連のお客様から「ドムドムハンバーガーで、メニュー開発のアイデアを提供して欲しい」と依頼される。その人物はレンブラントホールディングスの専務であった。

そこで、ドムドムフードサービスと顧問契約を結び、メニュー開発にいそしむ。9月に藤﨑氏が発案した「手作り厚焼きたまごバーガー」が採用される。

そして、専務から正社員になることを打診され、2017年11月同社に入社する。経営していた居酒屋2店舗は創業当時から一緒に働いていた人物に任せて、藤﨑氏は店舗運営にノータッチのオーナーとなった。

同社の社員となった藤﨑氏は精力的に働き、2018年4月スーパーバイザーに就任。そして2018年8月代表取締役に就任した。入社して9カ月後のことである。

次々と打ち出される斬新な試み

藤﨑氏は社長に就任して以来、同社にとって、またハンバーガー業界でも試みられることがなかった施策を展開していく。それらを箇条書きで紹介しよう。

・2018年10月2日、3日「ゆかりっくFES ’18 in JAPAN」に出店

幕張メッセで開催された声優、田村ゆかり氏のイベント、1日の動員数が6000~8000人ほどの規模で、計2日間開催。ここで販売した「ゆかりチキンバーガー」が1日500個、2日間で計1000個を販売する予定が、1日で1000個、2日間で2000個を販売。

・2019年夏、ビギグループのブランド『FRAPBOIS』(フラボア)とのコラボ

「ハンバーガー屋が洋服をつくってどうするの」という声もあったが、藤崎氏は「消費者へのブランド認知拡大を想定して「絶対にやるべき」と判断した。

ビギグループのブランド『FRAPBOIS』(フラボア)とのコラボ(ビギグループのホームページより)
ビギグループのブランド『FRAPBOIS』(フラボア)とのコラボ(ビギグループのホームページより)

・2019年9月、「丸ごと!!カニバーガー」を発売(DOMDOM in 六本木で先行販売)

同商品は翌10月に正式発売。2カ月半~3カ月分の在庫を用意したが、約1カ月で売り切った。店の売上自体を120~150%底上げした。

・2019年10月、「ポパイ」とのスペシャルコラボレーション

2019年「ポパイ90周年」、2020年「オリーブ100周年」とアニバーサリーイヤーでのコラボレーション。同社運営の一部施設で提供。

・2020年5月、「どむぞうくん」のマークが入ったマスクを店舗で販売(1枚350円)

コロナ禍でマスクが不足していた当時、スタッフを守るために独自に作成して配布していたものを、お客様にもお分けしようとレジ横で販売を開始した。ECショップを立ち上げオープンしたところ公開1分で完売した。

・2020年5月、「浅草はなやしき店」オープン

「浅草花やしき」より常設テナントしての出店を打診される

・2020年秋、「BEAMS」とコラボ

「ジャンルを超えて絶え間なく個性の創造に邁進する」というBEAMSの理念と「新しいことにチャレンジする」というドムドムのハンバーガーの理念を化学反応させて「面白い商品ができるはず」と確信しコラボ商品の展開を行った。「どむぞうくん」やハンバーガーなどのデザインが好評となった。

「BEAMS」とのコラボで誕生した商品(BEAMSのPRtimes資料画像より)
「BEAMS」とのコラボで誕生した商品(BEAMSのPRtimes資料画像より)

・2020年12月、「NECレッドロケッツ」とコラボ

神奈川県川崎市を本拠地とするバレーボールチーム「NECロケッツ」とのコラボレーション商品を12月4日、5日にとどろきアリーナ(川崎市)で行われるホームゲームで発売。

・2021年3月、「市原ぞうの国店」オープン

「どむぞうくん」と象つながりで出店を打診される。

・2021年7月、「イオンモール新利府北館店」オープン

「コロナ禍で沈みがちな社会だからこそ、経済活動を共創するという意義が高い事業」と位置付けて出店。

・2021年7月、「ドムドムハンバーガーPOP UP STORE」展開

新業態「TREE &TREE’S」が8月2日オープンすることを記念して、生活雑貨専門店「ロフト」とのコラボレーションで「どむぞうくん」と「TREE &TREE’S」のロゴをあしらったTシャツやポーチなどを限定販売。ロフトでは7月30日より全国のロフト58店舗及びロフトネットストアで発売開始。商品がなくなり次第順次終了。

ロフトとのコラボで誕生した商品(ドムドムフードサービスのPRtimesの資料画像より)
ロフトとのコラボで誕生した商品(ドムドムフードサービスのPRtimesの資料画像より)

今日新業態として出店が相次いでいるファストフードショップは、「早期にFCで店舗展開」と掲げているが、ドムドムフードサービスの場合はそれとは一線を画している。特に、アパレルや生活雑貨とのコラボレーションが注目される。また、さまざまなイベントでの出店も意義あるものだ。

このように飲食に拘泥することなく事業を広げていく同社の方向性は、この業界に新しい可能性をもたらしたと言えるだろう。同社がトップに頂く女性、藤﨑氏の柔軟な発想と行動力の賜物であろう。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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