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飲食店の感染対策が進化中 「抗菌済み」はお店選びの最大条件になるか

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
専門の担当者が光触媒のコーティング施工を行っている様子。(ONE提供)

消毒液スプレー片手に店内を丁寧に拭いて回る従業員、アクリル板の間仕切りが並ぶ客席…そんな光景がごく当たり前になった飲食業界で、新型ウイルス感染対策が進化を続けている。さまざまな抗菌サービスが台頭し、人気のグルメサイトには「抗菌済み」のお店を集めた特集ページも登場した。ウイズコロナの日常で「家飲み」「黙食」「時短宴会」といった新しい慣習が広がりつつある中、飲食店の安心・安全をアピールする切り札として期待は大きい。

抗ウイルス効果が学問的に示される

「抗菌」サービスをウェブ検索してみると、加湿器やオゾンなどさまざまな手法が見られる。そんな中、人気のグルメサイト「Retty」の「安心・安全なお店特集」に登場したのは「光触媒コーティング」だ。ページには「光触媒コーティング済」というバッジ付きのお店が並んでいる。

「光触媒」とは、太陽や蛍光灯などの光が当たることで触媒として働く物質(小学館『デジタル大辞典』より)で、昨年9月、奈良県立医科大学などが抗ウイルス効果を学問的に示し、注目を集めた。「本研究成果をもとに、学校、病院やその他多くの人が利用する公共施設等における飛沫の付着や人が触れる場所に対して、持続的な抗ウイルス効果が付与させることが可能となると考えられる」と奈良県立医科大学でリリースしている。Rettyでは光触媒とは?のコーナーで「二酸化チタンは、強い抗菌力で食事の場を守ります」などと紹介している。

Rettyと連携したのは、株式会社ONE(本社/東京都台東区、代表/今上政剛)。光触媒サービスを提供する企業の中でも、特に飲食業界に向けて斬新な提案を進めている。

実名型のグルメサイトと連携して「光触媒で抗菌済み」の特集コーナーを作成し、ユーザーはこれを条件としてお店選びを行うことが想定されている。(ONE提供)
実名型のグルメサイトと連携して「光触媒で抗菌済み」の特集コーナーを作成し、ユーザーはこれを条件としてお店選びを行うことが想定されている。(ONE提供)

数あるグルメサイトの中でRettyの特徴は「実名型」であること。これは「SNS型グルメサイト」とも言われていて、ユーザーがある投稿に対して「いいね!」をしたり、フォローしたり、フォロワー同士でメッセージを送信できる。それによって目的とする店についての信頼を深める。そこで「評点」というものがない。ユーザーにとってはコミュニティ的な利用動機となっている。

ONEは2020年6月に設立され、液体の販売先は、不動産業者、塗装業者、光触媒の施工を行っているところを対象とした。そして、コロナ禍で最も悪影響を被っているのかどこか、ということを追求していった。同社COO(最高執行責任者)の小田滉稀氏はこう語る。

「当社のサービスを最も必要としているのは飲食業だと考えました。ウィズコロナ時代に飲食店が抗菌対策を行ったところでどのように発信をしていくか。そこで、グルメサイトと連携することを想定し、ユーザーにとっての目的性の高いRetty様と連携することが出来ました」

ソファ、机、メニューブックなど天井以外はコーティング施工を行う。(ONE提供)
ソファ、机、メニューブックなど天井以外はコーティング施工を行う。(ONE提供)

お店選びに「抗菌済み」をアピール

前述した通り、Rettyのユーザーは「実名型」に共感していることからお店選びをする時にRettyを経由している。

このような仕組みに着眼して「FRESHION FOOD」というセットプランが作られた。これはONEの光触媒コーティング施工サービスを実施した飲食店の情報を、Rettyが「光触媒施工済バッジ付き」で「安心・安全なお店特集」という特設ページに掲載するというものだ。

このセットプランでは、光触媒のコーティング施工の費用として例えば30坪の店で30万~40万円がかかるところを分割払いを可能にして、特設ページには無料で掲載する。ONE、Retty共に「飲食店を支援する」という共通したスタンスに立っていることで可能となった。

営業先では顧客の前で光触媒コーティングの実演を行い、その効果を納得してもらう。具体的には、下の画像にあるような対象物に光触媒をコーティングし、その後ここにどれほどの菌を含めた有機物が付着しているかを数値で示す。光にさらした約15分後、ここの有機物が大きく減少していることを示す。これを何回か繰り返す。このような実演は1回だけではなく、1週間ないし10日間の時間をあけて再度行う。このように営業先の顧客が光触媒による除菌・抗菌の効果を納得した上で契約に至る。

光触媒コーティングの営業先では、顧客の前で実演し、有機物が施工前に対し施行後に大きく減少していることを数値で示している。こちらは「福しん 水天宮T-CAT店」の事例。(ONE提供)
光触媒コーティングの営業先では、顧客の前で実演し、有機物が施工前に対し施行後に大きく減少していることを数値で示している。こちらは「福しん 水天宮T-CAT店」の事例。(ONE提供)

感染対策を徹底する手段の一つ

東京都下で中華料理店「福しん」を約30店舗展開している株式会社福しんでは、「水天宮T-CAT店」にONEの光触媒コーティング施工を行った。同社代表の高橋順氏はこう語る。

「お客様の反応としては、『抗菌をしているから』ということが理由で店を利用しているとは感じていないが、売上は肌感覚で5%は増えてきている。コロナ禍以前からテーブルを拭くなどの除菌をしているので、アルコールスプレーが加わったことは大きな負荷ではない。感染対策は緩めることはなく、抗菌を行うことは新型コロナウイルス対策を周到に行うための一つだと認識している」

最近、新規開業の飲食店や複合施設で「抗菌済」を掲げる事例が増えているが、これらのサービスは顧客をリアルに迎え入れるサービス業にとって定番となっていくことであろう。

チェーン展開をしている飲食企業での光触媒コーティング施工する事例が増えてきている。(ONE提供)
チェーン展開をしている飲食企業での光触媒コーティング施工する事例が増えてきている。(ONE提供)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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