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コロナ禍の飲食業界に光差す、フェイクミート、ヴィーガンのトレンド

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
「焼肉ライク」で1月15日から始めた「フェイクミート弁当」(焼肉ライク提供)

飲食業界にとってコロナ禍は大きな災難であり、特に二回目の緊急事態宣言下ではあい路に立たされると言えまいか。しかしながら、この中にあっても新しい食材を取り入れて、顧客の開拓にチャレンジし、ポスト・コロナの展望につなげている事例が見られている。その新しい食材とは「フェイクミート」である。これは、大豆や小麦、エンドウ豆などを使った肉の代替食品のこと。ベジタリアンやヴィーガン、また健康に気遣う人が求める食品である。

ここで注釈だが、前述のベジタリアンとヴィーガンの違いについて。ベジタリアンは「肉や魚を食べない」ということだが、ヴィーガンは「卵・乳製品・はちみつも口にしない」というライフスタイルを持つ人々だ。海外では健康や美容、そしてメンタルのセルフメンテナンスライフスタイルに取り入れる人が増えている。

さて、このフェイクミートやヴィーガン対応を取り入れている飲食業の事例を二つ紹介しよう。

焼肉店の間口を広げる

まず、焼肉のファストフードをうたう「焼肉ライク」の事例。

同チェーンは2018年8月29日(肉の日)の東京・新橋に1号店を出店して以来、全国に50店舗(2020年12月末現在)展開している。焼肉店は「ハレの日需要」が多かったが、同チェーンの特長は、客単価が1350円と大衆価格に設定していること。注文してから提供されるまで3分間と短いこと。ロースターが1人1台で設けられて「ひとり焼肉」にしていることだ。これらによって焼肉が気軽に食べられるようになり、特にこれまでひとりで焼肉を食べることに躊躇していた女性客から大いに歓迎された。

焼肉ライクは、この度のコロナ禍に際して「客席全体の空気が2分30秒で入れ替わる」など安全な環境であることをアピールしながら、これを機に新しい客層を開拓するチャレンジを連発している。

その概要を述べると、「1番人気商品の値下げ」「ごはん無しサラダたっぷりのセット」「学割セット」「肉1ポンドでご飯が無限」「松阪牛50g500円」「朝焼肉セット」等々である。これらの中でもフェイクミートを導入して大きな商機を見出している。

このメニューは「NEXTカルビ」50ℊ290円(税抜、以下同)、「NEXTハラミ」50ℊ310円。「本物のお肉の食感や味わいを再現」「一般的な焼肉と比べると脂質が半分以下で、タンパク質は約2倍」とアピールしている。

フェイクミートを着眼したきっかけについて、株式会社焼肉ライク代表取締役社長の有村壮央氏はこう語る。

「フェイクミート自体については、アメリカの様子を興味本位で眺めていて、日本の焼肉屋さんで取り扱うものではないと考えていました。それがある人の紹介でフェイクミートのベンチャー企業の経営者を紹介していただき実際に試食しました。この瞬間、この食味に感動して『焼肉好きの人も喜ぶのではないか』と思い、どこよりも早くフェイクミートをメニューに取り入れようと考えました」

10月23日から渋谷店で先行販売して、徐々に取り扱う店を増やしていき、12月14日から全店で提供している。

フェイクミートをメニュー化したことによって、にわかに多くの反響があったという。これまで焼肉ライクを利用していなかったヴィーガンや、健康を意識している人が来店している状況を見て、有村氏は「ものすごい可能性を秘めているのではないか」と考えるようになり、「フェイクミートの市場は広がり、縮むことはない」という手応えを感じているという。

「フェイクミート弁当」は飲食業の中でも先駆けとなる取り組みだ(焼肉ライク提供)
「フェイクミート弁当」は飲食業の中でも先駆けとなる取り組みだ(焼肉ライク提供)

さらに、1月15日よりデリバリー専用のフェイクミート弁当を全店の約半数の店で提供している。「ソイ焼肉弁当」サラダ無し1080円(税込、以下同)「ソイ焼肉サラダ」1290円など4種類と、トッピングで「ソイ焼肉カルビ50g」410円というラインアップである。

有村氏は「フェイクミートは、顧客開拓に取り組んでいる当社ならでは、導入する意義がある」と語る。

新業態でヴィーガンメニューを採用

もう一つは「俺のシリーズ」の事例。

「ミシュラン星付きレストランの料理を価格2分の1で提供する」という「俺のイタリアン」の1号店が東京・新橋にオープンしたのは2011年9月のこと。同店は2時間待ちが当たり前、16坪で月商1900万円を超えるという繁盛伝説をつくった。後に「俺のフレンチ」「俺のスパニッシュ」「俺の割烹」「俺の焼肉」等々、洋食・和食のさまざまな業種を銀座を中心に展開、現在は12ブランド39店舗となっている。

このような俺のシリーズを象徴するメニューは、「牛フィレとフォアグラのロッシーニ」1280円(税別、以下同)、「トリュフとフォアグラのリゾット」980円、「からすみ蕎麦」980円などが挙げられる。特にからすみ蕎麦は、皿の上に盛り付けた蕎麦の上にからすみを振りかけるのではなく山盛りになっている。こんな具合に、一品一品は〝超″が付くお値打ち品である。

「牛フィレとフォアグラのロッシーニ」は俺のシリーズで導入して以来、バルの業態でブームとなった(俺の株式会社提供)
「牛フィレとフォアグラのロッシーニ」は俺のシリーズで導入して以来、バルの業態でブームとなった(俺の株式会社提供)

「からすみ蕎麦」の盛付は俺のシリーズらしい大胆さがある(俺の株式会社提供)
「からすみ蕎麦」の盛付は俺のシリーズらしい大胆さがある(俺の株式会社提供)

その同社が2020年12月15日、新業態の「俺のGrand Market」「俺のGrand Table」をオープンした。場所は昭和通りと晴海通りの交差点で、向かい側に歌舞伎座がある。

同店は1階が「俺のGrand Market」(35坪)というデリカテッセンとセレクトショップ、約500種類の物販、30~40のデリカテッセン、パン6種類などラインアップ。2階が「俺のGrand Table」(50坪63席)という既存店の代表的なメニューを集めたレストラン、スペシャリテ8品目、トータルで約40品目をラインアップ。どちらも「一流シェフ」「高級食材」「生産者の想い」を掛け合わせてメニューや商品を構成している。

「俺のGrand Table」のメニュー構成は俺のシリーズの集大成といえるが、もう一つの話題はヴィーガンメニューを採用していることだ。ここでは「俺んちのサラダ~南部一郎のかぼちゃドレッシング~」780円、「【BEYOND TOFU】カプレーゼ」680円、「ヴィーガンハンバーグ」1280円の3つをラインアップしている。

これらをメニュー化したことの背景について、同社の神木亮氏(常務執行役員 営業本部 副本部長 兼 営業企画部長)はこう語る。

「ヴィーガンハンバーグ」は野菜たっぷりの盛付(筆者撮影)
「ヴィーガンハンバーグ」は野菜たっぷりの盛付(筆者撮影)

「俺のシリーズは『高級料理をリーズナブルに』という顧客イメージが根強くありましたが、この立地柄から国際的な視野も踏まえて、環境保護であったり、世界が取り組んでいることを企業としてしっかりと発信していこうとなりました。そこでヴィーガンの料理もさることながら、1階のテイクアウトの包材も、なるべく脱プラスチックを使用しています」

結束力が強いヴィーガンのコミュニティ

そこでヴィーガンメニューの反響はどうだろうか。

「ヴィーガンのコミュニティの結束力の強さとアンテナの高さを感じています。スタート時は1日1~2食程度でしたが、だんだんと平日で5食程度、土日で10食程度となり、想定していた数量と比べるとかなり高くなっています」

「ヴィーガンメニューをラインアップするということは、ヴィーガンの人も一般の人も同じテーブルで食事を楽しむことができるということです。当店にはヴィーガンのフードメニューの他にヴィーガン認証のワインもあります。ヴィーガンだから『これしか食べられない』というため息をつくような感覚ではなく、『食とはもっと楽しいものだ』ということを、われわれの調理や接客をもって伝えていきたい」

今後メニューをブラッシュアップしていく上で、メニューブックの中に「ヴィーガン」のカテゴリーを設けて、5~6品目程度で構成することも想定している。

「俺のGrand Table」の客単価はランチタイム2000円程度、ディナータイムは3000円台後半となっている。

客数は昨年12月の場合、1階と2階を合算して平日800人、土日1000人を超えていた。比率は1階が6に対して2階が4.緊急事態宣言を受けてから、平日400~500人、土日は700人後半(8対2)となっている。2階では時短営業要請に応じているが、その中でも比較的に集客を維持できているのは、メニュー構成に発信力があるからであろう。

東銀座の歌舞伎座の向かいで外観が映える(筆者撮影)
東銀座の歌舞伎座の向かいで外観が映える(筆者撮影)

国際化の中で一般化しつつある

日本でヴィーガンのライフスタイルが語れるようになったのはインバウンド急増するようになった2017年あたりからだ。国際社会ではフードダイバーシティ(食の多様性)が進んでいるので、ベジタリアン・ヴィーガンにきちんと対応して商機をつかもうということだ。

筆者は2018年9月、ヨコハマグランドインターコンチネンタルが「ホテル内レストランが全てベジタリアン対応できるようになった」ということをアピールする試食会に参加したのだが、その席上同ホテルの総料理長・齋藤悦男氏がこのようなことを述べた。

「1000人クラスの国際会議があると、25%がベジタリアン、15%がハラール、5%がグルテンフリーのお客様です。実に45%がフードダイバーシティなのです」

3年前からして、ベジタリアン・ヴィーガンはマイノリティでは全くないのである。

ヴィーガンの話題の中に、ビートルズのメンバー4人の全員がヴィーガンだったというエピソードがある。

ジョン・レノンは妻のオノ・ヨーコの勧めでマイクロビオテック(玄米菜食)をはじめた。ポール・マッカートニーは動物愛護の観点から、ジョージ・ハリスンは傾倒していたヒンドゥー教の教えから、リンゴ・スターはアルコール依存症の治療のため、という。

食のライフスタイルは、最終的にヴィーガンに行き着くと言えるかもしれない。

最近、ファストフードではモスバーガーが「ソイパティ」、ドトールコーヒーショップが「大豆ミート」を取り入れている。日常外食でのフェイクミートはひたひたと一般化してきている。

今は飲食業の閉塞感を語るのではなく、顧客創造や展望を語るためにヴィーガン、フェイクミートの動向に目を向けてはどうだろう。

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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