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「日高屋」創業者、神田正会長83歳が若き経営者に贈る戦略の話 連載3回その3

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
「常に感謝の心を持つ」ことを熱く語る神田氏(筆者撮影)

本連載第3回は、6人の若手飲食業経営者(20代~40代)と神田氏によるQ&Aである。若手経営者それぞれが、日ごろ考えていることを、大先輩である神田氏に質問をして、神田氏がそれに答える。まずは、神田氏の口上から。

「私はこうなりたい」と、大きな夢を描こう

私は飲食店の商売や外食産業のことを、誰かから教えてもらったということはありません。全部独学です。ですから、失敗もしました。

特に思い出されるのはこんなことです。若いころ、ラーメン屋がうまくいって、たまたま隣のスナックが空いたのです。ある方から「あなたはスナックをやれば成功できるよ」とおだてられて、スナックをやっちゃったんですね。それが見事に失敗した。

でも、スナックが失敗して本当によかったです。あれが成功していたら、いまのような状態になっていませんね。失敗したから「ラーメン屋を一生懸命にやろう」と思うようになったのですね。

ですから、みなさんにはチャンスがたくさんあります。ただし、大きな夢を描かないといけませんよ。「私はこうなりたい」と、思い続けなければなんにもなりませんよ。

そして、その「夢」があなたの金儲けだったら誰もついてきません。それはやはり社会貢献なのです。これをやることによって多くの人が喜ぶとか。雇用促進の面で貢献できるとか。例えば、1万人の人を雇用するということは1万人の人のためになっているのです。利益に応じた税金を払うと、それは国のためになっているのです。「食で社会貢献をする」というゴールが存在すると、たくさんの人が応援をしてくれますよ。

では、質問のある方は是非。私の経験の中から、お答えできる限りお答えします。

飲食従事者の社会的向上を果たすためには

Q:株式会社BIRCHの高橋光基です。蛇口からお酒がでてくる「テルマエ」という居酒屋を展開しています。

https://birch-inc.com/

BIRCH代表の高橋氏(中央、筆者撮影)
BIRCH代表の高橋氏(中央、筆者撮影)

私自身の目標は、飲食従事者の社会的地位向上を果たすことです。神田会長は、そのために具体的にどのようなことを解決していくべきだとお考えですか。

A神田:それは、会社のカルチャーの部分になると思います。

私はうちのラーメン屋に若い人が入ってきて、「みんなで金儲けしよう」という話をしたことはまったくありません。「みんなが社会に通じる人間になってほしい」と伝えていました。人間性を磨いてほしいと。そのための行動は、自己中心的にならないで、感謝をすること。自分一人で生きているのではない。みんなから生かされているのだということ。このような意識を持って謙虚に生きていかないといい人は集まってこないと思います。

当社の経営理念の中に「私たちは、常に感謝の心を持ち、人間形成に努めます」という文言があります。当社の従業員はこのような想いを抱きながらラーメンを売っているのです。

でも、どんなに社会貢献をしたとしても給料が低いと何にもならない。そこで、そこそこに稼いでいい給料を払う。このように物心両面を追求することが重要だと思います。

厳しい状況に置かれたときの動き方とは

Q:島根と鳥取、そして東京で飲食店を展開している株式会社RC・クリエイティブグループの中村友樹です。東京の居酒屋は「しまね料理とさばしゃぶの店、主水(もんど)」と言います。

https://rcgroup.co.jp/

RC・クリエイティブグループ代表の中村氏(筆者撮影)
RC・クリエイティブグループ代表の中村氏(筆者撮影)

みなさんの状況は存じ上げませんが、弊社も非常に厳しい経営状況を経験して、今日まで踏ん張ってきました。神田会長の場合、これまでどのような思いで動かれていましたか。

A神田: 私がラーメン屋になったのは、何が何でもラーメン屋をやりたいと思ったからではないの。たまたまパチンコに行ったときに、目の前にラーメン屋さんがあったの。その店がすし屋さんだったら、すし屋さんになったでしょうね。

ラーメン屋さんで働くようになって、「これで行こう」と思った理由は二つあります。

一つは、自分にとって向いていると感じたこと。私はラーメンもチャーハンもつくることが出来ました。

もう一つは、お金が先に入ってくること。これがラーメン屋になろうと思ったことの一番ですね。

朝店にいくと、キャベツ買ってこい、肉買ってこいと言われます。そこでオートバイに乗って買いに行くのですが、この場合は店の名前でツケですね。それが、夜になると、みんな現金に化けてしまうの。その支払いはみんな1カ月後、2カ月後なんですね。いまで言うキャッシュフローが非常にいいんだよね。私はこの商売をやって何百億円と投資をしてきましたが、本当にお金で苦しんだことがありません。それは、ラーメン屋の仕事が大好きだからですね。

ただ、給料が払えないことが2回ありました。だけどレジには現金が入ってきますから、1週間から10日くらい待ってもらったら給料を払うことができたの。銀行に行って土下座をして「お金を貸してください」といったことは一度もありません。

上場に向けて面倒なことを乗り越えていくためには

Q:株式会社おすすめ屋の加藤誠庸(みのり)です。時間制食べ放題飲み放題の「おすすめ屋」という居酒屋を展開しています。

https://osusumeya.co.jp/company/

おすすめ屋代表の加藤氏(筆者撮影)
おすすめ屋代表の加藤氏(筆者撮影)

私も上場をしたいと思っています。上場をすると、法令とかいろいろなものを守る必要があって、その時々で、監査法人あたりから厳しく言われることもあると思います。

当社の場合、最近ですと労働環境ですね。パートタイマーさんたちの1分単位の打刻の管理、着替えの時間とか、労務周りのことで言われることが多いです。

神田会長は、今後飲食店を続ける上で、このようなことはどのように変化していくものとお考えですか。

A神田:私が上場した一番の理由は、お金がなかったから。だって、自分で働いて出店する場合は、1店舗を出すためには3年くらいかかります。これじゃ勝負にならないと思ったの。

そこで勉強会に行きました。あるとき、ベンチャーキャピタルの人が1時間講演をしてくれました。聞いたら、担保がなくても、上場をすれば、株を担保にお金を貸してくれるという。

その時、自分の会社はまだ店が10店舗くらいだったから、上場なんて、松下電機とか、トヨタ自動車がやることであって、われわれにはできないことだと思っていたの。

でも、担保がなくてもお金を貸してくれるということに魅力を感じたの。

その後、「株式公開の仕方のセミナーがある」という手紙が来ました。いまから30年前の話。まだパソコンがない時代です。上場するためにトラック1台分の書類をつくるとか言われていました。

このセミナーの後に、その先生が当社に来てくれて、資本政策をつくってくれました。その先生と一緒に二人三脚で取り組んだら、株式公開ができちゃったんですね。

振り返ってみると、こんなことです。書類をつくることは法律に基づいて行うことですから、専門分野の人がいるんですよ。そこで、その人に任せればいいの。

上場するというのは、自分の本職が利益を出せるかどうかにかかっているんです。利益をもたらす源泉がなければならないのです。あとは法律に則って処理をすればいいの。

1分単位の話、私たちも矛盾を感じましたが、できてしまいます。

株主総会もありますが、俗にいう総会屋というのには出会ったことはありません。みなさん当社の応援団ですよ。ですから、公開したことのメリットははるかに大きいですね。

株主さんは、自分で稼いだお金を銀行に預けることをしないで、当社にお金を預けてくださっている。当社はそれを元手に事業を行って、利益を出して配当をしています。銀行は元金が保証されますが、当社に預けていると元金は保証されない。当社がなくなったら預けたお金はなくなってしまう。ですから当社は責任を感じますね。

私は公人だと思っています。自分を律するためにも株式を公開しています。

会社が大きくなる過程で経営幹部に求められる条件とは

Q:株式会社サブコンの野田洋行です。私も蛇口からお酒が出てくるやきとん酒場の「ヤマネ肉店」を展開しています。

https://subcon2018.com/

サブコン代表の野田氏(筆者撮影)
サブコン代表の野田氏(筆者撮影)

これまで、会社の組織が大きくなってきた過程で、神田会長は幹部の方々をどのような考え方で抜擢してきたのか教えていただければと思います。

A神田:私の経験から言うと。店を立ち上げて、会社を引っ張っていくタイプは、いわゆる「いい人」にはできませんね。言い方はよくないですが、人を蹴落としていくような、野性味がないとダメです。けもの道をたくさん通りますから。

しかし、日高屋も大きくなって線路がきちんとできてくると、人間性が重要ですね。人柄のいい人であることが重要です。

人に好かれるし、バランス感覚があるということが重要です。会社が大きくなると、立ち上げ当時の人格の人がリーダーをやるとなると、会社の中に派閥のようなものが出来てしまいます。そこで、人間性が温かいことが重要なのです。

日高屋が店舗展開できる秘訣とは

Q:株式会社KIWAMIの阿波耕平です。武蔵小杉で「きわみ」という炭火串焼きと旬野菜の居酒屋を展開しています。

https://tabelog.com/kanagawa/A1405/A140504/14083915/

KIWAMI代表の阿波氏(筆者撮影)
KIWAMI代表の阿波氏(筆者撮影)

私は以前、中国料理の料理人をしていました。中国料理は調味料を足していく料理で、人に教えるのが大変難しいのですね。その点、日高屋は調理の部分がとても多いことにも関わらず、どうしてたくさん店を出店することができるのですか。

A神田:日高屋が店舗展開できるのは、まず、価格が低いということですね。これで利益を出すことが出来るのは工場を持っているからです。日高屋の店舗では、外から買ってきているものは何もないの。

現場の調理は全部マニュアル化しています。誰がつくっても同じ料理が出来ます。当社に入社して半年もたつと全部のメニューをつくることができるのではないでしょうか。

とても忙しい日高屋があって、その店の調理担当者が40代女性のパートの方で、ランチタイムに全部こなしてしまうんですよ。私が「上手だねぇ」って話しかけたら、「毎日うちで料理つくっていますから、上手なのは当たり前でしょ」と言われた。

そこから私はヒントを得たの。中華鍋を軽くしたり、女性の人が働きやすいような厨房にしたの。そんなことで、日高屋の昼間の厨房はほとんど家庭の奥さんです。家庭の奥さんは社会経験も豊富ですから。職場環境もよくなります。そんなことで、人の採用にはほとんど困らなくなりました。

また、当社では立ち飲み居酒屋を30店舗くらいやっています。なぜこれをやっているか。

それは、日高屋で夜の12時とか翌1時とかまで営業していると疲れてしまうんですね。

焼鳥屋さんだったら10時半とか11時に店を閉めることができるので、元気でいれば70歳過ぎまで働くことができるの。ですから、社員が一生働くことができる店をつくろうと考えたのです。社員の福利厚生のためです。社員のみなさんに喜んでいただいています。みんなで一生食っていけるような店をつくって、儲けなくてもいいんですね。なんてことをいうと儲かっちゃうんですよね。

創業時における経営者のあるべき姿とは

Q:株式会社sommet farmの大塚龍之介です。宇都宮でカフェの「cafe Hanamori」と野菜炒め専門店「ベジ家」を展開しています。

https://sommetfarm-inc.com/index.html

sommet farm代表の大塚氏(左端から二人目、筆者撮影)
sommet farm代表の大塚氏(左端から二人目、筆者撮影)

当社は創業3期目となりまして、私自身が創業時における社長のあるべき姿ということに悩むことがあります。会長は創業当時、どんなことを考えていたのでしょうか。

A神田:創業当時は仕事に夢中だったね。いま振り返ると、あれくらい夢中でやっていたから、何をやっていても成功していたんじゃないかと思いますね。

私は西川口(埼玉県)の店を始めたときに24時間営業をしました。私は朝9時から早番をやって、夜の9時に遅番がやってくるんだけど、この人が来ないとぶっ通しで次の朝までやっていましたから、寝ないで。だって、借金して店をやっていましたから、店を閉めたら借金を返せませんから。

ただ運がよかったのは病気にならなかったことですね。ですから、丈夫な体にしてくれた両親に感謝しています。寝ないで仕事が出来ましたから。

とにかく夢中でした。だから「自分は何者だ」なんて考えることはなかった。人も集まらないし。そこで人を集めるために、養護施設に行ったり、保護観察を受けている子供を紹介してもらったりしていました。

すると、運がよくてバブルがはじけて、うちの店にも人材が入ってくるようになったのです。あれがなかったら、人は入ってこなかったでしょうね。

いま、当社にはベトナム国籍の従業員が2600人くらいいます。ベトナムの人たちに支えてもらっているの。間もなく3000人になります。そこで、これから海外にも目を向けていこうと思っています。

いずれ日本には海外からたくさん働く人がやってくると思うんだけどね。いまの飲食店はタッチパネルオーダーだから。言葉が出来なくても全然大丈夫なんですね。

パート・アルバイトの方たちの「感謝の集い」はホテルとか、いいところでやるんですが、外国籍の人たちはとても喜んでくださいますよ。隠し芸をやったり、本国の歌を歌ってくれたり。

ですから「経営計画発表会」しかり、「感謝の集い」は絶対にやった方がいいです。お金はかかりますけど。ここでの前半は、私がこれからの夢を語って、「みんなで物心両面でやっていこう」と言って。これが終わってから、おいしい食事をみんなでいただきます。この日のために、店を一日くらい休んだっていいじゃないですか。これが当社の成長エンジンになっていますね。

みなさんにお話しして、私はみなさんからエネルギーをいただきました。これからも私は頑張っていきます。

神田氏と講話に参加した経営者のみなさん(筆者撮影)
神田氏と講話に参加した経営者のみなさん(筆者撮影)

■取材協力:株式会社キイストン(代表/細見昇市、『飲食の戦士たち』連載1000回を継続中)、株式会社ミストラル(社長/江川広太)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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