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皮膚がんの早期発見・早期治療の重要性:意外と知られていない3つの皮膚がん

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

皮膚がんは、早期発見と早期治療が非常に重要です。皮膚は見える部位でもあるため、皮膚がんは一般の方でも見つけやすいものがあります。悪性黒色腫(メラノーマ、ほくろのがんとも呼びます)は、マスコミで取り上げられることも多く、広く知られてきました。しかし、皮膚科医以外の医者でも見逃しやすいタイプの皮膚がんが存在します。今回は、意外と知られていない皮膚がんを3つご紹介します。

乳房外パジェット病

乳房外パジェット病は、年配の方の外陰部(股の部分)にできる皮膚がんです。この皮膚がんが見逃されやすい理由は、「いんきんたむし」に似ているからです。股の部分に赤みがあり、人によっては痒みも出るため、いんきんたむしと間違えられがちです。しかし、放置しておくとリンパ節や内臓にも転移し、さらに進行すれば命に関わります。

乳房外パジェット病に関しては、医者になってから見逃しやすい皮膚がんとして、皮膚科の授業では必ず教えるようにしています。病気を疑うポイントの1つは、1ヶ月以上いんきんたむしの塗り薬を塗っても治らないという点です。また、この病気は皮膚の色が白く抜けることもあります。皮膚科医であれば、いんきんたむしに似たような皮膚病変の中に白い部分を見つけると乳房外パジェット病を疑います。

提供:イメージマート

確定診断は、皮膚生検です。麻酔をして米粒ほどの皮膚を切り取り、顕微鏡で覗きます。このとき、がん細胞が確認できれば確定です。年配の方の治りにくいいんきんたむしは注意が必要です。

皮膚血管肉腫

皮膚血管肉腫は、皮膚にできる悪性腫瘍です。癌は皮膚や粘膜などの上皮細胞からできた悪性腫瘍であり、肉腫は筋肉や血管など上皮ではない細胞からできた悪性腫瘍のことです。皮膚血管肉腫は、血管の細胞が悪性化したものなので「癌」ではなく「肉腫」です。この病気も、進行すれば命に関わります。

高齢者に多い悪性腫瘍ですが、「内出血」と間違いやすいため発見がしばしば遅れます。頭をぶつけたり、転んで顔を打ったりした後、なかなか治りにくい内出血が実は皮膚血管肉腫だったという患者さんが多い印象です。おでこや頭にできた内出血が、まさか悪性腫瘍とは気が付かず、そのまま放置していたために肺に転移してから受診される方も少なくありません。

写真:イメージマート

正確な統計データはないのですが、日本では年間200-300人くらいの新規患者さんがいると予測されます。とても珍しい部類の悪性腫瘍なのですが、早期発見が非常に重要です。

菌状息肉症

菌状息肉症という難しい漢字の病気も皮膚にできる悪性腫瘍です。悪性リンパ腫と呼ばれるもので、簡単にいうと血液のがんです。菌状息肉症はこれまで紹介した2つの悪性腫瘍とは違い、年配の方だけでなく若い人にもできます。

この悪性腫瘍は、「アトピー性皮膚炎」と間違えられやすいです。皮膚にできる赤みや湿疹、痒みが特徴的で、炎症が続くことで、菌状息肉症は容易に見逃されがちです。初期症状ではアトピー性皮膚炎と見分けがつかないことが多く、診断が遅れる原因となります。

写真:イメージマート

菌状息肉症は、免疫系の細胞であるリンパ球が異常に増殖し、皮膚にできる悪性リンパ腫です。この病気が進行すると、リンパ節や内臓にも転移していきます。早期発見・早期治療が非常に重要です。

アトピー性皮膚炎や慢性湿疹の患者さんの皮膚症状が改善しない場合、菌状息肉症を疑い生検を行います。とても見逃しやすい病気なので注意が必要です。

これら3つの皮膚がんは、早期発見・早期治療が非常に重要です。皮膚の変化に対して十分注意し、症状が長期間改善しない場合は、皮膚科医に相談してください。また、皮膚がんのリスクを減らすために、紫外線対策や生活習慣の改善を心がけましょう。

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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