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アトピー性皮膚炎とプロバイオティクス〜腸内細菌叢への影響と治療効果を解説〜

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【プロバイオティクスによるアトピー性皮膚炎治療の可能性】

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下や免疫システム の異常により発症する慢性の炎症性皮膚疾患です。近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)とアトピー性皮膚炎の関連性が注目されており、プロバイオティクス(善玉菌)を用いた治療への期待が高まっています。

過去の研究では、アトピー性皮膚炎患者の皮膚や腸内で細菌叢のdysbiosis(不均衡)が見られ、これがかゆみの機序に影響を与えることが示唆されています。また、プロバイオティクスを含む腸内細菌叢由来の治療法により、一部の患者でかゆみの緩和が確認されています。アトピー性皮膚炎患者の腸内dysbiosis は、細菌の多様性の低下、病原菌の増加、短鎖脂肪酸産生菌の減少などが特徴とされています。

【エジプト人コホートを対象とした比較試験の結果】

エジプト人のアトピー性皮膚炎患者を対象とした前向き比較試験では、プロバイオティクス単独治療の有効性を、ステロイド軟膏を用いた標準治療と比較評価しました。中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者を2群に無作為に割り付け、一方にはステロイド軟膏の漸減療法を、もう一方には2種のLactobacillus 属(L. delbruekii とL. fermentum)を含むプロバイオティクス混合物を投与しました。

3週間の介入後、ステロイド軟膏群では全患者で臨床的な改善が見られたのに対し、プロバイオティクス群では36.36%の患者のみが改善を示しました。また、SCORAD(アトピー性皮膚炎重症度スコア)の変化率から見た治療効果は、ステロイド群で有意に高い結果となりました。この結果は、急性増悪期のアトピー性皮膚炎治療において、プロバイオティクス単独療法がステロイド軟膏に勝るものではないことを示唆しています。

【腸内細菌叢の変化とプロバイオティクスの役割】

試験のサブグループ解析では、両群ともに治療後の腸内細菌叢のα多様性に有意な変化は見られませんでした。β多様性解析でも、治療法の違いによる細菌叢の明確なクラスタリングは確認されませんでした。

Gamal らは、プロバイオティクス単独ではアトピー性皮膚炎の急性期管理に用いるべきではなく、補助的もしくは維持療法として長期的に使用することで効果が期待できると結論付けています。特に、腸内細菌叢に好ましい変化が見られる場合には、プロバイオティクスが追加の利点をもたらす可能性があるとしています。

アトピー性皮膚炎の治療には、スキンケアによるバリア機能の改善や保湿、炎症を抑えるためのステロイド外用薬や免疫抑制薬の使用など、様々なアプローチが必要です。プロバイオティクスは、これらの標準治療を補完する役割を担うことが期待されますが、単独での治療効果には限界があるようです。今後さらなる研究により、プロバイオティクスのアトピー性皮膚炎治療における最適な使用法が明らかになることを期待したいです。

参考文献:

1. Gamal NA, et al. Skin Health Dis. 2024 April 6. https://doi.org/10.1002/ski2.373

2. Moniaga CS, et al. Cells. 2022. https://doi.org/10.3390/cells11233930

3. Song H, et al. J Allergy Clin Immunol. 2016. https://doi.org/10.1016/j.jaci.2015.08.021

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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