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【最新研究】赤ちゃんのアトピー性皮膚炎を早めに治療すると食物アレルギーを防げるかもしれない

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

食物アレルギーは、世界中でとても大きな健康の問題となっています。特に子どもの間で多く見られ、アナフィラキシーという危険な症状の主な原因にもなっています。食物アレルギーは、患者さんとその家族の生活の質を大きく下げてしまうのです。

食物アレルギーを防ぐためには、生後4~6ヶ月から、アレルギーの原因となる食べ物を口から少しずつ与えることが大切だと言われてきました。しかし、実際にはなかなか難しいことがわかってきました。口から食べ物を与えるのは生後4~6ヶ月からですが、そのアレルギーの原因は、もっと早く、生まれてすぐから肌を通して体の中に入ってきている可能性があるのです。したがって、口から食べ物を与えて免疫をつけるまでの間、肌からアレルギーの原因が入らないようにすることが大切だと考えられています。

実は、アトピー性皮膚炎という肌の病気は、食物アレルギーの大きな原因の一つだということがわかっています。アトピー性皮膚炎の子どもの3割くらいが食物アレルギーを起こしているというデータもあります。

家の中のホコリや、「天然由来」などと書かれたスキンケア商品にも、食物アレルギーの原因が含まれていることがあります。ピーナッツやナッツなどのアレルギーの原因は、家の中に広がっているかもしれません。ベッドのシーツや子どもが遊ぶ場所からも、食物アレルギーの原因が見つかったという報告もあります。

【皮膚のバリア機能が弱いと、アレルギーの原因が入りやすくなる】

健康な肌は、体の外からアレルギーの原因が入ってくるのを防ぐバリアの役割をしています。しかし、アトピー性皮膚炎ではこのバリア機能が弱くなっているのです。

赤ちゃんの肌は、大人に比べて外から物質が入りやすく、バリア機能がまだ未熟です。肌の水分が失われる量(TEWL)は、肌のバリア機能の目安の一つですが、赤ちゃんでは生まれてからだんだん減っていき、5歳くらいで大人と同じレベルになると言われています。生まれたときや赤ちゃんの頃に水分が失われやすいと、その後アトピー性皮膚炎になりやすいことがわかっています。また、赤ちゃんの肌のpH(すこし酸性に保つのが健康的)は大人より高く、健康的なバリア機能に必要な「酸性の膜」ができるのに数週間かかります。アトピー性皮膚炎の人の肌のpHは、健康な人より高いことが知られています。

このようなことから、赤ちゃんの肌に早めから保湿剤を使って、肌のバリア機能を良くしていくことが大切だと考えられているのです。保湿剤は、もともとアトピー性皮膚炎が悪くならないようにするために使われていましたが、最近では、生まれてすぐから保湿剤を塗ることで、アトピー性皮膚炎だけでなくアレルギー全体を防げるのではないかと期待されています。動物を使った研究でも、バリア機能が弱い肌にアレルギーの原因を塗ると、アレルギーに関係する免疫の反応やアレルギーの抗体が作られ、その後、口から同じ物を食べると急性のアレルギー症状が起きることが確認されています。

【まだはっきりとしたことは言えないけれど、これからの研究に期待】

保湿剤を使うことで食物アレルギーを防げるかどうかについては、まだ結論が出ていません。これまでの研究では、実際に食物アレルギーを防ぐことができるとは言えていません。ただ、研究ごとに使われた保湿剤の種類や塗り方がバラバラだったことが、結果がはっきりしない原因の一つかもしれません。

例えば、セラミドという成分を含む保湿剤を1日2回全身に塗る方法で研究した場合、アレルギーになるリスクが下がる可能性が示されました。一方で、保湿剤を週4回顔だけに塗った研究や、オリーブオイルなどの天然の油を使った研究では、はっきりとした効果は得られていません。どの保湿剤を選んでどのように使うかが、とても重要なポイントだと言えるでしょう。

また、ほとんどの研究が食物アレルギーを防ぐことを主な目的としていなかったので、参加者の数が十分ではなかったことにも注意が必要です。さらに、比較のために保湿剤を全く使わないグループを作ることは、倫理的に難しいことが多く、多くの研究である程度のスキンケアを認めざるを得なかったことも、グループ間の差が出にくかった原因の一つかもしれません。

これからは、肌のバリア機能を改善することが確かめられた保湿剤を使って、塗る場所や回数などをしっかり決めた、大規模な研究が行われることが望まれます。一方で、肌のバリア機能を悪くしてしまう可能性のあるスキンケア商品は避けるべきでしょう。

食物アレルギーを防ぐために、”肌の敏感化”をコントロールすることは大切な考え方ですが、人を対象とした研究はまだ十分とは言えません。しかし、たとえ食物アレルギーを防ぐ効果がはっきりしなくても、アトピー性皮膚炎の発症や悪化を防ぐことは、患者さんの生活の質を上げるためにとても意味のある取り組みです。肌の健康を保つスキンケアは、アレルギーが次々と起こることを抑えることにつながることが期待されます。

炎症を抑える作用のある保湿剤など、アトピー性皮膚炎の原因に直接アプローチする新しい選択肢も出てきています。これからの研究が進むことで、しっかりとした根拠に基づいたスキンケア戦略が確立されることを願っています。

参考文献:

Braun C, et al. Skin-centered strategies in food allergy prevention. Pediatr Allergy Immunol. 2024;35:e14130. doi:10.1111/pai.14130

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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