Yahoo!ニュース

アトピー性皮膚炎や喘息に苦しむ子供たちへ 〜オマリズマブによる治療の可能性〜

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

今回は、小児アレルギー疾患の治療において注目されている「オマリズマブ」について、最新の研究をご紹介します。

アレルギー疾患は、アトピー性皮膚炎や喘息、アレルギー性鼻炎など、子供たちによくみられる慢性疾患です。原因となるアレルゲンを特定することが難しく、症状が長く続くことも多いため、患者さんやご家族の負担は計り知れません。

そんな中、新たな治療選択肢として期待されているのが「オマリズマブ(ゾレア)」です。オマリズマブは、血中の遊離IgE(アレルギー反応の引き金となる抗体)に結合し、アレルギー反応の連鎖反応を遮断する働きを持っています。

今回、オマリズマブの小児アレルギー疾患に対する有効性と安全性を評価するため、メタ分析(複数の研究結果を統合して解析する手法)が行われました。その結果が論文で発表となりましたのでご紹介します。

【オマリズマブは症状悪化を抑える】

メタ分析に組み入れられた6つの研究では、合計2,761人の患者さんのデータが解析されました。その結果、オマリズマブ治療を受けた子供たちでは、治療開始24週目と52週目で症状悪化のリスクが有意に低いことがわかりました。

具体的には、24週目のオッズ比(OR)は0.10(95%信頼区間:0.03~0.41)、52週目のORは0.27(95%信頼区間:0.09~0.83)でした。オッズ比とは、ある事象が起きる確率を比較した値で、1より小さければその事象が起きにくいことを示します。つまり、オマリズマブ治療により症状悪化のリスクが大幅に減ったということです。

【オマリズマブの安全性は高い】

気になる副作用についても解析が行われました。その結果、オマリズマブ治療中の副作用発生率は、他の薬剤を使用した場合と比べて有意な差はないことが示されました(OR:0.87、95%信頼区間:0.60~1.29)。

このことから、オマリズマブは小児アレルギー疾患の治療において、高い安全性を有していると言えるでしょう。実際に、私も臨床の現場でオマリズマブを多く使っていますが、極めて安全性の高い薬剤と認識しています。

【アトピー性皮膚炎にも効果が期待?】

今回のメタ分析では、主に喘息やアレルギー性鼻炎を対象とした研究が含まれていましたが、アトピー性皮膚炎に対するオマリズマブの効果も報告されています。

例えば、ある研究では重症のアトピー性皮膚炎を持つ子供たちにオマリズマブを使用したところ、皮膚炎の重症度が大幅に改善し、患者さんのQOL(生活の質)も向上したとのことでした。

アトピー性皮膚炎は、痒みや湿疹に悩まされる慢性の皮膚疾患です。オマリズマブによる新たな治療の可能性が示されたことは、多くの患者さんにとって朗報と言えるでしょう。

以上、小児アレルギー疾患に対するオマリズマブの有効性と安全性について、最新のエビデンスをご紹介しました。

従来の治療で十分な効果が得られない場合、オマリズマブは新たな選択肢の一つとなるかもしれません。ただし、医療機関での適切な評価と使用が不可欠です。

また、日本ではまだ小児に対する適応が限られているため、今後さらなるエビデンスの蓄積が望まれます。

<参考文献>

doi: 10.1016/j.heliyon.2024.e29365. eCollection 2024 Apr 30.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

大塚篤司の最近の記事