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乾燥でかゆくなってから保湿は遅い… 保湿スタートのタイミング、正解は?

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

ここ最近、一気に肌寒くなり空気も乾燥してきました。冬に近づくにつれ、肌も乾燥し皮膚のトラブルが増えてきます。皮膚科では、乾燥からくる皮膚のかゆみや湿疹のトラブルを診察します。湿疹が悪化すると治った後も肌が黒くなる色素沈着が残ります。今回は病院に来る前に、一般の方ができる乾燥の時期の肌対策4つについて解説したいと思います。

1.汗をかかなくなった=保湿スタートのタイミング

保湿はこの記事を読んだ今日からスタートしてください。寒さがピークの1月になって、腰回りや背中がかゆくなってから保湿したのでは遅いのです。空気が徐々に乾燥してくるのに加え、寒くなることで汗をかかなくなります。汗は蒸発する際の気化熱を利用して体温を下げる働きがありますが、実は保湿効果もあります。汗の中には保湿因子である尿素や乳酸が含まれているのです。じわっと汗をかくことによって、夏場は絶えず保湿されている状態ともいえます。デスクワークを中心とした方々は今の季節に汗をかくことはほとんどないでしょう。そうなると空気の乾燥に加え、肌は一段と乾燥します。汗をかかなくなったタイミングが保湿スタートのサインです。この記事を読んだまさに今日から保湿を開始してください。保湿をしっかりとすることで、冬場の乾燥によるかゆみの多くは予防できます。

2.エモリエントとモイスチャライザーを使い分ける

保湿剤には2種類あるのをご存知でしょうか?エモリエントとモイスチャライザーです。ワセリンに代表されるような、皮脂膜を作って水分の蒸発を防ぐ役割がある保湿剤をエモリエントといいます。エモリエントそのものには保湿成分は含まれていません。そのため、乾燥した肌にこれらを塗っても肌がしっとりするわけではなく、お風呂上がりなど皮膚にうるおいがある状態でエモリエントを塗って水分蒸発を防ぐのがポイントです。一方、モイスチャライザーは天然保湿因子などを含んだ保湿剤で、そのものに保湿効果があります。尿素を含んだ保湿剤や、病院で処方されるものとしてはヒルドイドが有名です。モイスチャライザーには天然保湿因子が含まれていますので、肌が乾燥していると感じたら、その場でさっと塗っても保湿効果があります。もちろん、お風呂上がりなど肌がしっとりしているときに使えばより効果的です。エモリエントはお風呂上がりに塗る、モイスチャライザーは乾燥しているときでも使える、ということも覚えておきましょう。

3.「かいちゃダメ」と言っちゃダメ

お子さんや家族がボリボリと皮膚をかきむしっていると、つい「かいちゃダメ」と言ってしまいませんか?かくいう私も皮膚科医としてこれまで多くの患者さんに「かいちゃダメ」と言ってきました。しかし、「かいちゃダメ」と言うのはかゆい患者さんにとっては逆効果になります。みなさんご存知の昔話「鶴の恩返し」では、心優しいおじいさんも「部屋を覗いてはいけません」と言われ続けた結果、鶴の正体を知ってしまうことになります。「見てはいけない」と制限されたせいで大人気になった映画もあります。映画「カリギュラ」はあまりにも過激な内容で公開中止になったせいで、ますます人気がでた1980年の作品です。この映画の名前をとって、自由を制限されたときに反発する心の作用は「カリギュラ効果」と呼ばれます。正式には心理的リアクタンスというものです。

 話を戻しましょう。「かいちゃダメ」という言葉は、「かきたい!」というカリギュラ効果を呼び起こすものです。家族がかきむしっている場面を見かけたら、「かいちゃダメ」と言わないようにし、お薬を塗ってあげるなど実際に出来ることをやりましょう。

4.メントール配合の薬を塗って、青色を見よう

2021年のノーベル生理学・医学賞は温度受容体および触覚受容体を発見した二人の研究者が受賞しました。受賞者の一人米カリフォルニア大学サンフランシスコ校のジュリアス教授は、温度受容体であり痛みの感覚を担う分子TRPV1を発見しました。このTRPV1は皮膚の末梢神経に存在し、シグナルの入口となって痛みを脳が感じます。実はこのTRPV1はかゆみも担当しています。かゆみは痛みの弱い刺激と考える研究者もいるほど、かゆみと痛みは似ているのです。TRPV1は43度以上の熱で反応しますので、みなさんが熱いお湯を浴びたときに痛痒いと感じるのはこのせいです。乾燥の時期にかゆみを起こさないためには、お風呂の温度を上げすぎず、38度から40度程度に抑えておくことが大事です。ちなみにTRPV1を抑制する効果があるのがメントールです。メントール入りの塗り薬がスッとするのはTRPM8という分子によるものと考えられています。余談ですが、このTRPM8を発見したのが触覚受容体を発見し今年のノーベル生理学・医学賞を受賞したもうひとりの学者、米スクリプス研究所のパタプティアン教授です。

筆者作成
筆者作成

視覚的に色がかゆみに影響するという研究報告もあります(Dermatol Ther. 2021 May 25;e15001.)。仮想空間内を同一色で埋め尽くしたバーチャルリアリティ(VR)にて人々がかゆみをどう感じるか検証した研究があります。興味深いことに、赤系の色はかゆみを誘発し、青系の色はかゆみを抑えることがわかりました。この研究の注意点としては研究参加者も少なく、エビデンスレベルが高い研究ではないものの、例えばアトピーのお子さんには赤系のおもちゃより青系のおもちゃをあげたほうがかゆみを抑える可能性があることが示唆されます。かゆくなったら青系のものを見るのもひとつの対策でしょう

まとめ

乾燥の季節になると肌がかゆくなります。まずは保湿剤をしっかり使い、肌をしっとりに保ちましょう。乾燥が悪化して湿疹がひどくなれば保湿剤だけでは治りません。湿疹後の黒ずみが肌に残らないように必ず皮膚科を受診するようにしてください。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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