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ブログ「おっぱいサバイバー」運営の乳がん患者が考える、ネットの医療情報と向き合う6つのポイント

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
二宮みさきさん近況(ご本人より提供)

大塚:二宮さんはブログ「おっぱいサバイバー」を立ち上げたり、乳がん患者としての発信をされていますよね。

28歳で乳がんになられたということですが、まずは見つかった経緯はどういったものだったんですか。

二宮:2015年の年明けぐらいに、自分でしこりがあるかなと思ったのですが、そのときはそんなに深くは考えていなかったんです。

会社で健康診断が毎年1回、春にあるので、そのときに任意のオプションで婦人科系の検診を付けて、乳がんの検診を受けることになりました。

健康診断に行った病院で、エコーで技師の方に診ていただいたら、ちょっと怪しい様子があったんです。

 「健康診断の結果でも来ると思いますが、できるだけ早めに、必ず再検査に行ってください」とその場で言われました。

その結果を待たずして、自分で病院をネットで調べて再検査を受けました。

マンモグラフィーを受けたんですが、その時点でもうその場で生検しましょうとなりました。

会社の健康診断が4月の半ばぐらいで、再検査が4月の終わりぐらい。1週間ぐらいで結果が出るということで、5月2日にもう1回病院に行ったら、もうその場で「乳がんでした」と言われて、病名を知るという経緯でしたね。

大塚:28歳というと、多分、がんのことなど考えない年だと思うんですが。

二宮:まったく考えていませんでした。

乳がんどころか、その他のがん患者も、親戚や血縁にはいなかったんです。

この後、自分が具体的にどうなるのかがまったくわからなかったので、びっくりしました。まさか自分がという感じでした。

大塚:そういうときは、まずインターネットとかは調べるものですか?

二宮:健康診断で引っ掛かったタイミングですぐ調べました。

大塚:2015年だとすると、検索しても個人の体験談が多かったりするような年ですよね。

二宮:まさにそうでした。健康診断で引っかかった、再検査になったという人や、あるいは家族が乳がんになったという人の体験談が多かったです。

二宮みさき IT企業勤務。2015年28歳で乳がん罹患後、ブログ「おっぱいサバイバー」で闘病中の情報発信を行う。2019年より、がんや難病の5年生存後を伝えるメディア「AFTER5」を立ち上げ活動中。
二宮みさき IT企業勤務。2015年28歳で乳がん罹患後、ブログ「おっぱいサバイバー」で闘病中の情報発信を行う。2019年より、がんや難病の5年生存後を伝えるメディア「AFTER5」を立ち上げ活動中。

大塚:その中から自分で情報を調べていって、何が本当かわからなくなったりしなかったんですか?

二宮:もちろんわからないこともありました。

ただそこは、私は職業柄(注:二宮さんはIT企業勤務)、インターネットというのはそういうもの、ユーザーの投稿するコンテンツはそういうものだと理解している部分がありました。

あとは、再検査に行った病院で看護師の方にアドバイスいただいたことも助かりました。

当時は体験談が多いということもあって、真偽以前にネガティブな情報が多かったんです。

なので、ネット上の情報はうのみにしないでほしいし、心が弱っているときにそういうものを見過ぎないほうがいいと思いますよと看護師さんに言われたんです。

自分の病気について知りたいなら看護師向けの教科書を選ぶ

大塚:情報収集の一環として本屋にも行かれたりしましたか?

二宮:行きました。

それも先ほどの看護師の方が本当にいい方で、「学術論文などは難しいけれど、看護の本なら多分理解することはできるから、もし気になるなら看護師向けの、がんや乳がんの治療の本を読むといいと思います」とアドバイスしてくださいました。

そのまま告知を受けた日にその足で本屋に行って、1、2冊買って読みました。

大塚:今のはすごくいいアドバイスですね。

看護師の医学書を読んでくださいというのは、今までに僕は聞いたことがなかったです。今度からそれを使います。

二宮:その病院では、医師から乳がんという確定診断を受けた後に別室に案内されて、そこで看護師さんとお話しする時間があったんです。

慰めタイムじゃないですけれども、パニックというか、まさかみたいな気持ちのときに、「大丈夫ですよ」とか「仕事は絶対辞めないでください」とか、話を聞いて色々アドバイスしてくださるんです。

そのときに、「インターネットの情報はあんまり見ないでね」とか、「本を買うんだったらこういう本がいいよ」みたいなことも教えてもらえたので、そこがすごく良かったなと思います。

大塚:なかなかそこまでやってくれる病院は少ない気がします。

一般的に患者さんの数が多い科だと、やはり医者と患者さんで接する時間というのはすごく少なくなってしまいます。

看護師さんが告知の後で時間を取ってくれるというのは、ものすごくありがたいと思います。

僕はがん患者さんと普段接していて、患者さんが医者に対して思っている不満が伝わってこないのが不安なんです。

皆さんはいい患者さんであろうとしますよね。

こちらとしてはもう少し不安を取り除いたり、いろいろとできることはしたいと思っているんですが、我慢してしまうというか、何も言わない方がけっこう多いなと思うんです。

二宮:たしかに、それはすごく自分にも当てはまります。

通院で抗がん剤治療をしたとき、ポリ袋を持って吐きながらタクシーに乗って、病室でも吐いている、みたいな状態がありました。

そのときに、つらかったら日付をずらすこともできると主治医に言われたんですが、それまでそんな相談ができるということをそもそも知らなかったんです。

副作用はもう耐えるしかないという刷り込みというか、治療はつらいから我慢しないといけないという思い込みがあったんですね。

いい患者でいたいからというよりは、選択の余地があることを認識していなかったというのは、後から振り返ると思います。

大塚:なるほど。治療に関して選べる、選択肢があるということがわからないということですね。

2回目の抗がん剤投与(二宮さんご本人提供)
2回目の抗がん剤投与(二宮さんご本人提供)

大塚:特にAYA世代(15歳から39歳くらいまでの世代)と呼ばれるがん患者さんはあまり要求や不安を言わないですよね。

二宮:これは私個人の思いなんですが、私は治る前提で治療をずっとしているので、基本的にあまり弱みを出したくない、いつもどおりの自分でいることで自分を鼓舞するという思いがありました。

例えば、抗がん剤のときは髪も抜けたりしたけれども、ウィッグをかぶって、がんになってもできるだけ今までと変わらないというメンタリティーで頑張っていました。

そういうこともあって、弱みというか、つらいとかも言ったら負けちゃうんじゃないか、みたいな思いはあるのかもしれません。

それを言ってしまったらもう立ち直れないんじゃないかという恐怖もあって、気を張っているようなところはあったかもしれないと思いますし、今もあると思います。

大塚:弱みを出すのもなかなか難しいところがあるんですよね。

友人関係などはどうですか?コミュニケーションがうまくいかなくなったり、そういう問題はありましたか?

二宮:もとから本当に仲が良かった友達は、ありがたいことに変わらず接してくれているので、すごく良かったなと思います。

でも、がんになった後に知り合った、がん友といいますか、同じような境遇の友人たちとの付き合いは、また特有の難しさがありました。

特に世代的なものもあると思うんですが、例えば治療後、妊娠できたりできなかったり、あるいは温存できたりできなかったり。

同じ病気だけど、治療法や、その結果の違いで妬みが生じてしまったりして、ちょっとぎくしゃくしてしまう。

最初は「同じ病気だから、一緒に頑張ろう」という感じだったのに、生じてくる小さなギャップに、だんだんとどうやって付き合っていったらいいんだろうという思いが生まれてきました。その後、あまり連絡は取らなくなってしまいました。

大塚:なかなか、誰にも相談できない悩みですね。

医者からすると、「自分はがんじゃないから、最終的に患者さんの気持ちをわかろうと思ってもわからないだろう。

患者会に行けば、何か共感できたり、苦しみをみんなでわけ合えて楽になる部分があるのでは」と思うんですが、決してそう単純なものではないということですね。

二宮:そうですね。

同じ病気で年齢が近いからこその問題かもしれません。

これが10歳とか20歳とか年上なり年下なり離れていたら、あまり自分と比べたりしないのかもしれないのですが、あの人はうまくいったのに私はうまくいかなかったとか、そういうところがどうしても気になってしまうことがあります。

治療法や病状なども自分と近いがゆえに、わかりすぎて気になってしまうんです。

大塚:がん患者さんになってみないとわからないような問題ですね。

そういった経験をされる中で、ブログで発信するきっかけというのはどういったものだったんですか?

二宮:最初の話に戻るんですが、私が病気になった2015年当時は、がんに関する情報はネガティブなものが多かったんです。

がんになってつらい、治療がつらい、副作用どうしよう、家族ががんになってどうしようという具合に。

かつ、大体途中で途切れているんです。

私も最初はネガティブな気持ちだったので、例えばブログの更新が途中で止まっていると、もう駄目だったんだと受け取っていたんですが、実はそうではないんです。

もちろんそういう方も0ではないでしょうけれど、皆だんだん病気から離れていってしまうから更新しなくなるんです。

それもまだネガティブな段階でそうなる。だから私がもし発信するなら、できるだけ明るめに、フラットで、感情的な部分は少なめにして、自分はこうだったという事実を伝えたかったんです。

今自分と同じ境遇の人やこれからがんになる人が、「つらいこともあるけれど、頑張って、なんとか乗り越えて生きている、そんなごく普通の、20代で罹患(りかん)した女性がいるぞ」ということがわかればいいなと思いました。

そして、病気のことが少し頭から離れるようになってくる術後3年とか、そのくらいの時間がたっても、少しは更新したり、あるいはTwitterのリンクを貼ったりして、「ここで生きています」ということを見せるように発信していきたいと思って始めました。

がんに関する情報に向き合う際の6つのポイント

大塚:二宮さんはインターネットをはじめとして、がんに関する情報に向き合う際に気を付けておられることをご自身のブログでもまとめておられますよね。

二宮:はい、自分も含め、情報と向き合う上で気を付けたほうがいいポイントを6つにまとめています。

1. 病気について一番詳しいのは主治医であると信じる。

2. 自分の治療方針は自分で決める。

3. ネットの情報は、調べたり専門家に聞く材料とする。

4. ネットは横のつながりに使う。

5. 体験談は、エモーショナルなものが多いという前提知識を持つ。

6. たった1%の奇跡でも自分がそこに入らない可能性はないし、逆に99%の常識でもそこに入るとは限らない。

出典:おっぱいサバイバー

大塚:とても参考になります。もう一つお伺いしたかったのは、二宮さんが取り組んでいる「AFTER5」という活動です。

がん治療5年後の経過というものに対しての医療情報は確かにすごく少ないと感じています。

二宮:そうなんです。例えば25の人が30になったとき、通常生活の中では劇的な変化があると思うんです。

なのに、病気になった後、仕事はできているんだろうか、結婚はできるんだろうか、そういった情報がないので、若い世代にとってはどうしていいかわからないし、お手本になる人もいない。

そこはなんとかして情報を集めたいと強く思っています。

私がブログを書くのもそういう目的もあるので、長く書いていこうと思います。もちろん、自分のブログだけだと自分のことしか言えませんから、いろんな人の5年、それ以上経っている人の姿を見せていきたいです。

新型コロナ感染症の流行で募るがん患者さんの不安

大塚:最後に、今はどこも新型コロナ問題で持ちきりですよね。

闘病中の患者さんはすごく不安じゃないかなと思うんです。

ひとつはがん患者さんがコロナにかかったら重症化するというリスクの点と、もうひとつは今まで受けられると思っていた治療が受けられなくなるかもしれないということ。

あともうひとつ、本当であれば、治療効果が長く続けば新薬にたどり着けるかもしれないという希望を持って治療を受けていた方たちが、新型コロナ問題のせいで医学の進歩が止まってしまうんじゃないかという不安があるのではないかということ。

実際どのように今の状況を見られていますか?

二宮:そのとおりです。

まさに実感していて、どこかの病院で通常のがんの治療の8割方ができなくなるといったニュースを見ると、自分の病院もなるかもしれないという恐怖があります。

そもそも新型コロナにかかったらどうしようというのも、もちろんありますし。

持病がある立場からすると、その持病の治療はどうなるのか、定期的に通院している場合は、普通に通院が可能なのか心配です。

もしかしたら自分が実は無症状でウイルスを持っていて、病院に持ちこんでしまうかもしれない不安と、病院でもらって来てしまうかもしれない不安。

あと、発熱やなにか症状が出たときに連絡は保健所だけでいいのか、主治医に言ったほうがいいのか、今の薬はどうしたらいいのかといった具合に、細かいことも気になっています。一体誰にどう連絡したらいいのかわからないので、すごく不安です。

大塚:確かに、薬のこと含めどうしたらいいかという相談先にも悩みますね。

新型コロナは怖いし、その対応をどうしたらいいかわからないけれど、声を出さずに耐えている方が多いのかなと感じます。患者さんサイドからして、欲しい情報というのはなんでしょう?

二宮:持病のある人の場合は、持病の通院をいつもどおり行っていいものなのか、行くときに注意することはなんなのか、あるいは、そんなに症状がなくてただ薬を飲んでいるだけの時は、通院を延期した方がいいのか、実は行かずに薬だけもらう方法があるのかとか、そういう情報は知りたいです。

出歩くなと言われている中で大きい病院に行くのはリスクがあると思うので、そこをどうすべきか指針があると助かります。

大塚:これはやはり僕ら医者側から、それぞれの場合についてある程度伝えておくと患者さんも安心が得られるということですね。

二宮:はい。患者からすると、コロナに罹患するリスクと今の治療を続けられないリスクの、どちらのほうが大きいのかがわからないんです。

その判断基準が何かあると、私は持病の治療のほうが大事だから行こうとか、私はちょっと落ち着いているから今はやめておこうとか、そういう判断が各自でできるようになると思います。

あとは、そこの病院や医師がちゃんと意識をもって院内での感染を防ぐ対策していますという、患者さんを安心させる発信はありがたいですね。

大塚:今、医者も新型コロナに必死になっていて、新しく困っている人たちが生まれているというところまで目がいっていなかったり対応できていなかったりすると思うんです。

そこは拾い上げなきゃいけないところで、このままずっとこの状態が続くと、きっと弱い人はさらに弱くなって苦しんでいく状況が生まれるなという危機感を持っています。

二宮:この状態になると、情報を取捨選択できるリテラシーのある人はいいけれども、そうじゃない人は苦しむので、ぜひいろんなところでいろんな医師に発信してもらえるといいと思います。

今回取材させていただいた二宮みさきさんのブログはこちら

おっぱいサバイバー

AFTER5

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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