慢性じんましん患者におけるコロナワクチン接種の影響と注意点
【慢性じんましん患者におけるコロナワクチン接種の影響】
慢性じんましんは、6週間以上続く、広範な膨疹や血管性浮腫を特徴とする炎症性の皮膚疾患です。慢性じんましんの多くは原因不明の特発性慢性じんましんで、一部の症例では自己抗体の関与が示唆されています。慢性じんましんの症状は、ストレスや感染症、医薬品などが引き金となって悪化することがあります。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受けて、ワクチン接種が世界的に進められていますが、慢性じんましん患者におけるワクチン接種の影響については十分なデータがありませんでした。そこで、国際的な慢性じんましんセンターのネットワーク(UCARE)が、慢性じんましん患者2,769人を対象に大規模な調査を実施しました。
調査の結果、ワクチン接種後に慢性じんましんの悪化を経験した患者は全体の9%と、比較的少数でした。悪化のリスク因子としては、女性、罹病期間が24ヶ月未満、特発性慢性じんましん、アデノウイルスベクターワクチンの接種、NSAIDsやアスピリンに対する不耐症、ワクチン接種への不安感などが挙げられました。一方、オマリズマブ(抗IgE抗体薬)による治療は、慢性じんましん悪化のリスクを低下させることが分かりました。
【副反応と重篤なアレルギー反応】
慢性じんましん患者の43.5%が1回目の接種後に何らかの副反応を報告しましたが、そのほとんどは局所反応、発熱、倦怠感、筋肉痛などの軽度なものでした。一方、重篤なアレルギー反応を報告したのはわずか7人(0.3%)で、そのうち4人は慢性じんましんの悪化も経験していました。薬物アレルギーやアナフィラキシーの既往、NSAIDs不耐症との関連が示唆されましたが、症例数が少ないため断定はできません。
慢性じんましん患者においても、ワクチン接種による症状悪化のリスクは総じて低く、副反応も軽微なものがほとんどです。感染予防の観点から、慢性じんましん患者にもワクチン接種を推奨すべきでしょう。ただし、接種前に慢性じんましんをコントロールしておくこと、接種後のNSAIDsの使用は避けることなど、いくつかの注意点には留意が必要です。
【慢性皮膚疾患患者へのワクチン接種における留意点】
慢性じんましんを含む慢性皮膚疾患患者では、ワクチン接種に対する不安感から接種をためらう傾向があります。しかし本調査の結果、ワクチン接種を心配していた患者群で、皮疹悪化のリスクが1.7倍高いことが分かりました。不安感それ自体が悪化の引き金となっている可能性があります。
医療者には、エビデンスに基づいた情報提供を通じて、患者の不安を取り除き、ワクチン接種を後押しすることが求められます。併せて、ワクチン接種前の症状コントロールや、オマリズマブなどの治療薬の活用、接種後のNSAIDsの回避といった具体的なアドバイスも重要です。慢性皮膚疾患を抱える患者が、安心してワクチン接種を受けられる環境づくりが肝要と言えるでしょう。
参考文献:
Urticaria exacerbations and adverse reactions in patients with chronic urticaria receiving COVID-19 vaccination: Results of the UCARE COVAC-CU study. J Allergy Clin Immunol. 2023 Nov;152(5):1095-1106. doi: 10.1016/j.jaci.2023.07.019. Epub 2023 Aug 12. PMID: 36872845.