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「国際試合」を観ることができる春季キャンプ【NPBキャンプレポート】

阿佐智ベースボールジャーナリスト
スタンドから海、山、空の合わさった絶景を望むことができるタピックスタジアム名護

 プロ野球のキャンプも後半に入り、実戦中心となってきた。今やキャンプの中心地となった沖縄本島では、2月1日にNPB6球団がキャンプインしたが、中旬以降、13日にロッテが石垣島から、15日に広島が宮崎・日南から、16日に巨人が宮崎から移動。さらにキャンプイン時から恩納村に腰を据えているサムスン・ライオンズを皮切りに、月末になるとNPB入団と入れ替わるように韓国プロ野球の4球団が沖縄にやってくる。

 先述のように、キャンプが実戦中心になりつつある中、興行試合であるオープン戦の前に「練習試合」を組む球団が増えてきているが、対戦の多い同一リーグのチームに新戦力を見せたくはないのが各チームの本音だ。そこで、各チームは、他リーグのチームとの練習試合を組むことが多いのだが、その中で、国外のチームもその対象となってくる。

 過去には、「アジア・スプリング・ベースボール」(2011-13年)と銘打って、キャンプ時の日韓球団による練習試合をひとつのイベントとして盛り上げていこうという試みもあったのだが、プロだけでなく、アマチュアチームも沖縄でキャンプを実施するようになると、プロレベルの球場の確保の問題も生じ、結局、現在ではサムスン以外の球団は、NPB球団と入れ替わりで沖縄入りするようになったため、今年で言えば、練習試合で日韓球団が相まみえるのは、サムスンが7試合、ロッテ・ジャイアンツが2試合、ハンファ・イーグルスが1試合のほか、宮崎でトゥサンが4試合を行うのみで、それらがひとつのイベントとして捉えられることはない。それでも、近年のキャンプ見学ブームもあいまって、この「国際試合」には週末となると、熱心な韓国人ファンを含む多くのファンが足を運んでいる。

 近年の「生観戦ブーム」の効果もあるのだろう。キャンプを通したスポーツツーリズムの波も起こっているようだ。沖縄へのLCC便にはキャンプ目当てとひと目でわかる旅行客の姿が目立った。

 昨日17日は、新庄体制3年目を迎えた日本ハムが「春のホーム」、名護にサムスンを迎えて練習試合を行った。日中は初夏を思わせる好天の土曜日とあって、多くのファンが2020年に新装なった、「タピックスタジアム名護」に足を運んだ。

 2年前の「BIG BOSS」ブームもだいぶ落ち着いたようだったが、それでもこの日は試合日とあって、試合開始1時間前にはスタンドには多くのファンが詰めかけていた。試合後の球団発表では2200人が観戦に訪れたということだった。

日本ハムファイターズの「春のホーム」、タピックスタジアム名護
日本ハムファイターズの「春のホーム」、タピックスタジアム名護

 11日のDeNA二軍戦を皮切りにすでに3試合の実戦を行ってきた試合相手のサムスンだったが、この日はとにかく投手陣が悪すぎた。日本ハム先発の新外国人・マーフィーが力のある球をしっかりコントロールしていたのとは対象的に、各投手とも球に勢いが感じられず、制球も安定しなかった。7四球にはさずがの新庄監督もおかんむりだったが、これに加えて8四球では試合にならない。日本ハムはこの15四死球に14安打を加えて計18得点の圧勝。

この日の好投でローテーション入りに名乗りを挙げたマーフィー
この日の好投でローテーション入りに名乗りを挙げたマーフィー

 3番サードに入った野村がレフトに実戦2本めのホームランを放つなど、とにかく打線が元気だった上、走塁面でも盗塁を数多く仕掛け、ことごとく成功させるなど、開幕に向けて得点力の向上を予感させるシーンが目立った。

3回にレフトにホームランを放った野村
3回にレフトにホームランを放った野村

 ただ、この試合の3失点の内、4回にマウンドに登ったオリックスから移籍の黒木が、2失点と期待を裏切ったのが気になった。

 KBO最多の17回の韓国シリーズ出場を誇る名門サムスンだが、昨シーズンは10チーム中8位に沈むなど低迷。その点では昨年、パ・リーグ最下位に終わった日本ハムの姿と重なるところがある。しかし、日本ハムは12日のビジターでの試合でもサムスン相手に13対1の圧勝。かつては国際大会において、日本の前に立ちはだかったライバルであった韓国だが、昨年のWBCに象徴されるように、ここ近年は国際野球シーンにおいて日本の相手ではなくなってきている。練習試合とは言え、両国リーグの前年度下位チームの対戦におけるこの大量得点差は、近年の両国の野球レベル差の拡大を暗示しているようでもあった。

サムスン打線の中にあって気を吐いていた前西武のマキノン
サムスン打線の中にあって気を吐いていた前西武のマキノン

 試合後は多くのファンが、選手たちを「出待ち」していた。シーズン中に比べはるかに選手と接しやすいキャンプならではの光景だ。その中には、多くのインバウンドの韓国人旅行客が含まれていた。お国柄なのだろうか、韓国のプロ野球ファンは、日本のファンよりかなり熱心な上、選手もそのファンたちに対しフレンドリーだ。試合後、バスに乗り込む際、めかしこんだ若い女性ファンの呼びかけに多くの選手が応え、一緒に写真に収まるのだが、彼らはもう手慣れたもので、ファンのスマホを受け取ると、自ら「ツーショット」のシャッターを切っていた。

 冬には首都・ソウルを流れる漢江が凍ってしまうという寒冷地の韓国では4月の開幕前に国内でトレーニングすることは難しい。だから、KBO各球団は、日本をはじめ、台湾、オーストラリア、米国でキャンプを張り、現地球団とテストマッチを組んでいる。

 なにかと軋轢の多い日韓関係も背景にはあるのだろうが、侍ジャパンのテストマッチにもこの隣国は声がかかったことはない。そういう意味では、このキャップ時の練習試合は、野球ファンにとってももっと注目されていいと思う。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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