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NPBファームリーグ拡大策の行方は?:ファーム組織充実の先駆的球団、ソフトバンクの当事者に聞く

阿佐智ベースボールジャーナリスト
ソフトバンクホークスのファーム本拠地、タマホームスタジアム筑後

 26日、かねてより来年度シーズンからのNPBファームリーグ参加を目指していたヤマエグループ九州アジアリーグ所属の火の国サラマンダーズ(以下熊本球団)が、資金不足のため参加申請を断念したことが発表された。2021年のリーグ発足以来2年連続優勝、そして昨年は独立リーグの「グランドチャンピオンシップ」も制覇、参入最右翼と目されていた強豪球団の撤退は、NPBの青写真にも影響を与えかねない。

 そもそも、NPBが二軍に限ってはいるものの、新規参入球団を求めた背景には、巷間叫ばれている「野球人気」の低下があるものと考えられる。観客動員面からみれば、空前の「生観戦ブーム」が押し寄せている感はあるものの、その増加分の多くは、ある意味「ブルーオーシャン」だった女性客の急増が占めている。その一方で、ジュニアレベルでの競技者の激減を見れば、NPBが将来的な危機を感じるのもやむを得ないだろう。

 とは言え、今回NPBがファームリーグ(イースタン、ウエスタンの二軍リーグ)に新規参入チームを求めたのは、現在、イースタン7、ウエスタン5という奇数での運営を強いられていることが一番の理由と思われる。かつては両リーグとも6チームで運営されていたが、2004年限りで近鉄バファローズが消滅し(オリックスに吸収合併)、翌年から仙台に一軍本拠地を置く楽天イーグルスが誕生したことで、ウエスタンリーグの参加球団が1減、イースタンのそれが1増となったのだ。数を揃えることを重視するならば、イースタンリーグのうち最も西に本拠を置くDeNAのファームがウエスタンに転籍すべきなのだろうが、首都圏に6チームがひしめき合うイースタンリーグの現状を考えると、これは現実的ではない。両リーグのチーム数をリーグ戦の組みやすい偶数にするには、両リーグに1つずつ加えるのが手っ取り早い。こうして野球の草の根の拡大という目標も相まって、当面NPB一軍の保護地域(フランチャイズの置かれている都府県)以外の地でのファーム球団新設案が浮上した。

 これに既存の独立リーグの数球団が反応した。また、新規の球団立ち上げを表明した団体もある。複数回行われたNPBの説明会には数団体が参加し、その内のいくつかは、積極的な方向性を示し、来シーズンからNPBの二軍リーグが拡大する予定ではあるが、これに対し、既存の球団の現場はどういう受け止めをしているのだろう。日本球界でいち早く三軍制を本格始動させ、独立リーグの交流戦を行い、今シーズンは四軍も発足させるなどファームの拡大策を推し進めるソフトバンク・ホークスのファーム担当者に話を聞いた。

来年同じリーグで対戦する二軍監督の視点

小久保二軍監督
小久保二軍監督

 現在ホークスの二軍を率いているのは球団のレジェンドのひとり、小久保裕紀である。侍ジャパンの監督として国際大会に出場したこともある小久保の立場は「総論賛成」というものだった。

「まあ僕は歓迎の立場ですね。一番は(現在のウエスタンリーグの)日程的な問題です。もうそこだけなんですよ。やっぱり奇数(5チーム)なんで。シーズン中に3日も試合がないと、ほんと間延びするんですよね。それを練習でどう使うかっていうので悩みます。もちろん、いろいろその時しかできない練習とか考えてやってはいるんですけど、でもネタも尽きるし。そういう点では、球団数が奇数っていうのは、ずっと不便だってずっと感じていました。できれば偶数になってほしいなって」

 小久保は昨年、オフの教育リーグ、フェニックスリーグに参加し、アイランドリーグ選抜チーム、独立リーグ選抜チームと対戦している。その時の印象をこう語る。

「3試合やって全敗でした。まあ一発勝負なんで、知らないピッチャーが出てきたら負けることもあるでしょうけど。そんなことより、独立リーガーのアピールが印象に残っていますね。NPB球団にひとあわふかせてやろうっていうものはすごく伝わってきました。プレーの質はホークスの(ファームの)方が上かもしれないですけど、ハングリーさっていう点では、ものすごい彼らのほうがあったように見えました。確かに彼らがNPB球団に入団してきたら、そんなに目立たなくなるんだとは思うんですよ。でもあの時は見るからに違っていた。だから、試合後は結構きついミーティングしましたよ。お前たちはホークスっていうブランド背負っているんだけれども、そのブランドの価値を下げている側なんだ。この中から一軍に羽ばたいてホークスのブランド価値を上げる選手が出てくれることを願っているけど、こんな試合をしていたら、ブランドを下げてるよっていう話をしました」

 実際に対戦し、その力量を知っているだけに、ファームへの新規参入チームへの期待は大きい。しかし、単独チームでの参戦、あるいはゼロから立ち上げる全くの新規参入球団の可能性もあることに対する不安も交錯する。そのあたりについてはこうコメントした。

「あとはどのレベルのチームが入ってくるのかってことですよね。(三軍監督としてアイランドリーグとの対戦経験のある)小川四軍監督からは、熊本球団なんかはそこそこ強いって聞いていますけど。だからそのレベルだったらいい勝負になるのかなと思います。実際、去年三軍は、独立リーグとか学生にはほとんど負けてましたんで。まあそのぐらいのレベルのチームが入って来るならウェルカムですよ」

 ただ、NPB側は週3日も休みとなると、練習メニューを組むのに難渋するとは言うものの、一方の参入が予想される独立リーグ側は、逆に週当たり3試合が基本。大型連休などで週4試合ともなれば、投手のやりくりに困るという有様だ。さらに言えば、現状の試合数の倍をこなさねばならなくなるNPBファームリーグに既存の独立リーグ球団が参入しても、体力的、技術的にNPBの二軍と伍することができるのかという疑問も生じる。NPB側にすれば、技能的にワンランク落ちる相手と試合をすることに不安はないのだろうか。とくに投手についてはその不安は大きいように思える。

 今シーズンも、NPBファームチームと独立リーグチームの交流戦において、NPBの選手がデッドボールを受けて退場するということがあった。近年、トレーニング技術の向上によって、投手の球速は飛躍的にアップしている。独立リーグレベルでも150キロを計測することは珍しいことではない。そんな彼らがNPBのドラフトにかからなかったのは、制球面の不安があることが多い。そういう相手との試合で、チームの財産である選手に怪我がでる心配はないのだろうか。この疑問については、小久保はこれを一笑に付した。

「そういうことは、今までもやっぱりありましたけどね。そこは野球をやっている以上心配しても仕方ないことだと思います。僕も現役の時に、日本シリーズ前に独立リーグと対戦したことがありますが、そこまでは考えてなかったですね。ただ、選手の時はともかく、選手を預かる立場に立てば、左ピッチャーでとんでもなくボールが抜けるって情報とかが入ってくれば、多少は考慮するかもしれないですけど。だから、レベルがどうかっていうところでは、NPBの二軍リーグとして、例えばその(新規参入の)1チームだけがダントツ最下位になってしまう可能性もやっぱりあると思うんで。そうなった場合、NPBがどう判断するかというところはしっかり吟味してほしいなとは思います」

自ら独立リーグを率いた経験をもつ三軍監督の視点

 現在、ホークス三軍はアイランドリーグと九州アジアリーグとの交流戦を主戦場にシーズンを送っている。その三軍を率いるのが森山良二だ。彼は独立リーグ球団の監督の経験も持っている。いわば内と外から独立リーグというものを見てきている。彼もまた、NPBファームリーグの拡大には賛成派だ。

森山三軍監督
森山三軍監督

「アイランドリーグにあった福岡レッドワーブラーズというチームで2シーズン監督をしていました。もう15年ほど前になりますかね。その何年か前に西武時代の先輩だった石毛宏典さんがリーグを立ち上げられた時に、社会人野球の企業チームがなくなっていく中で、野球を続けたい若者、NPBを目指す選手の受け皿になる。そういった理念でやりたいと。あと地域密着ですよね。それで、実際1人プロに行きましたし(金無英, 2008年ソフトバンク6位)、あと一度ソフトバンクをクビになった山田秋親というピッチャーもロッテに送り出しました。だから、僕としてはすごくいい場所だとは思っています」

 森山が言う独立リーグの利点は、「NPBへの近道」という点と、試合経験を積める場という点である。

「高校卒業して、大学だったら4年間、社会人だったら3年間プロに入れないじゃないですか。それが独立リーグだったら1年でも入れますよね。それに当時いろんなチームのスカウトの方が言われていたのが、高校出て1年目、2年目の若い選手が、プロの二軍にいた場合、なかなか実戦の機会が与えられないけれど、独立リーグだと、試合数も多いので、成長の度合いが違うということでした。当時、アイランドリーグはシーズン80試合くらいあって、現場としても、確かに実戦をどんどんやることによって、体力づくりも含めて伸びていくのがあるなとは思いましたね。もっともワーブラーズはそんなに選手を抱えていたわけではなかったので、全選手に対して何打席、何イニングを与えようとか考えずとも、各選手とも実戦経験は積めたと思います」

 当時もアイランドリーグはNPBチームの交流戦は行っていた。小久保同様、怪我のリスクについて聞いてみたが、その答えは同様だった。

「僕が独立リーグでやっていた時は、全員が全員そのレベルじゃないですけど、技量的にある程度試合で投げさせられるピッチャーはコントロールも良かったので、試合相手をケガさせてしまうという心配はしていなかったです。実際、NPBの二軍の試合でもそういう危なっかしいピッチャーって時々いるし。だから今ホークスにいて独立リーグと対戦するときもそこを気にすることはないです。逆に独立リーグには、実力のある外国人投手もいるでしょう。日本人にだっていいピッチャーって結構いるんですよ。そういう試合では三軍クラスだとやっぱり普通に打てないです。彼らにとっては、そういう投手との対戦はすごいいい経験になると思います」

 とにかく、若い選手には実戦を積ませることが育成の要だと森山は信じているようだ。そういう意味では、現在のホークスは彼の理想に近い育成システムを持っているといえるだろう。彼は、将来的にはNPBファームと独立リーグが一体化して、アメリカのマイナーリーグのようなシステムになればという理想像を持っている。

「他球団だったら二軍までしかないことを考えると、うちの三軍のメンバーは他チームだったら基本的に試合も出られないでしょう。それを考えると独立リーグとの試合はすごくいい経験になると思います。今、NPBのファームリーグは西5チームと東7チームでちょっといびつな形になっていますよね。もしこれが同じ8、8とかになれば、すごくメリットあると思うんです。僕も独立リーグにいた時から、この先、これが広がっていって、NPBだけじゃなく独立リーグについても、二軍、三軍、四軍という、アメリカのようなかたちになっていけないかなと思っていました」

 無論このような理想が一朝一夕に実現するとは森山も考えていない。やはり財政面は大きな課題となることは森山も理解している。実際、ファームリーグとは言え、その参入の障壁は高い。既存の独立リーグ球団のいくつかが積極的な興味を示す一方、専用球場に室内練習場、遠征費の負担などを考えると、メリットはないと参入を見送った、もしくは興味を示さない球団も多い。

「ただやっぱり、実際、僕が独立リーグにいた時も金銭的な問題がありました。NPBファームに新球団が参入した時、お金の部分でそれを補っていくかというのは大事になってきます。NPBが財政支援を新球団にしないといけないかもしれない。だからって全部が全部同じように金出せるかっていったら、それは難しいところなんでしょうけど。将来的にはこういう参画が広がっていったらいいと思いますよね」

三軍のゲームを見守る森山。実戦こそが育成の要だという姿勢からファームリーグ拡大には賛同している。
三軍のゲームを見守る森山。実戦こそが育成の要だという姿勢からファームリーグ拡大には賛同している。

まだまだ山積する問題

 森山が指摘する問題点については、小久保も同様の心配をしていた。NPB二軍リーグに参入する新球団に財政的体力があるのかということである。実際、この問題をクリアする見込みが立たなかったため、熊本球団は一旦挙げた手を引っ込めることになっている。

 NPBの二軍リーグに加入するとなれば、遠征先は東日本、あるいは西日本全域に及ぶことになる。宿泊を伴わない域内の遠征が主となっている既存の独立リーグとは財政的負担が全く違う。現在、独立リーグ球団の年間運営費は約1億円と言われている。NPBの二軍と対等に戦うための人材を確保するためには月10万円前後と言われている選手報酬では足りないだろう。これら遠征費、人件費に加え、NPBが新規参入の条件とする専用球場、練習場の維持費を考えると、その運営費は既存の独立リーグ球団とは桁違いになることが予想される。

 一方の収入面を考えると、昨年のNPB二軍の1試合当たり平均観客数は約800人。独立リーグ(公表されているアイランド、ルートインBC、九州アジアの3リーグ)の370人の倍以上だが、チケット収入だけでは増大する運営費を賄うことはできないだろう。したがって現在の独立リーグ同様、スポンサー収入の確保が参入の課題になりそうだ。

 新チームによる参入を表明したBCリーグ栃木の運営母体、エイジェックグループは、年予算7億円を用意するという。観客動員の見込みは年15万人。ホームゲームが年70試合として約2000人である。現在、独立リーグ最多の1試合平均805人を集めるBC栃木を運営していることからの自信からの数字だろうが、この約2000人という数字は、本場アメリカの独立リーグに匹敵する数字でかなり高い目標である。

 また、二軍リーグ参入の新球団の選手の扱いをどうするのかも課題だろう。

 かつてアメリカマイナーリーグには親球団を持たず参加する独立球団が存在した。これらの球団は、自前でフリーエージェントやドラフトに漏れた選手を集めたり、あるいは、MLB球団から預かった選手でチームを構成していたが、来年参入する新球団のメンバー構成もこれと同じようなものになるのではないか。ただし、これもまだ確定的なことは発表されていない。ドラフトで育成契約された選手で構成されるという可能性もあるだろう。

「そこのルールをどうするかでしょうね。だから、二軍のみの参入っていう時に、選手の扱いはどうなるのかは、ルールの整備もしてもらいたいですけど。まあ当然NPBも考えているでしょうけど」

 小久保二軍監督もこのあたりについては興味津々といった感じで来年より参入する予定の新チームに期待を寄せていた。

 NPBの壮大な実験は今始まろうとしている。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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