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キューバ代表、台湾へ。「アマチュアの雄」に押し寄せるプロ化の波【WBC】

阿佐智ベースボールジャーナリスト
日本でのテストマッチでは4番に座ってたデスパイネ

 23日、ワールドベースボールクラシック(WBC)キューバ代表チームは、主力のアルフレッド・デスパイネ、ジュリスベル・グラシアル、リバン・モイネロが昨年プレーしていた(モイネロは今シーズンも在籍)ソフトバンクとの練習試合に臨み、5対2で敗戦した。

 キューバ代表一行は今月7日に来日。沖縄を拠点に、日本ハム、中日、ヤクルト、巨人との練習試合を重ね、宮崎に移動してこの日のソフトバンク戦で「日本遠征」を終えた。NPB相手の5試合で2勝3敗。

 この後、台湾へ移動し、現地プロチームとの3試合のエキシビションマッチをこなして本番に臨む。

どこへ行ってもスタンドからの温かい拍手に包まれていたグラシアル
どこへ行ってもスタンドからの温かい拍手に包まれていたグラシアル

 今回の代表チームには日本でのプレー経験をもつ選手が多く、練習試合にも多くの野球ファンが集まっていた。とくにファンの注目を集めていたのは、アルフレド・デスパイネジュリスベル・グラシアル、それにリバン・モイネロの「ソフトバンク3人衆」だった。彼らがフィールドに現れると、スタンドからは大きな拍手が起こった。とくに、昨年限りでソフトバンクを去ったデスパイネ、グラシアルに対しては、宮崎での対ホークス戦で花束が渡されるなど、ファンも両選手の「凱旋」を祝福していた。

2戦目の対中日戦に登板したモイネロ
2戦目の対中日戦に登板したモイネロ

 彼ら3人の内、グラシアルとモイネロの2人は、前回2017年大会をきっかけに日本球界入りを果たしている。彼らに加え、「走り打ち」で話題を呼んだ打者のロエル・サントスも、2017年シーズンの途中にロッテ入りしている。

 ロッテではこのシーズンしかプレーすることはなかったが、その後はメキシカンリーグに活躍の舞台を移し、昨シーズンは打率.411を残し、ウィンターリーグでも母国キューバではなくメキシコでプレーした。

今回大会でも先頭打者を務めることになるだろうサントス(タバスコ/メキシカンリーグ)。「走り打ち」は健在だった。
今回大会でも先頭打者を務めることになるだろうサントス(タバスコ/メキシカンリーグ)。「走り打ち」は健在だった。

 サントスと同じく、日本からメキシコへプレーの場を移したのが、2017年に日本ハムでプレーしたヤディル・ドレイクだ。

 彼はいわゆる「亡命選手」で、2010年にキューバを出国した。その冬のシーズンはプエルトリコでプレーし、メキシコ国籍を取得。2014年になってドジャースと契約したが、結局メジャーに昇格することはなかった。

 2015年秋のプレミア12ではメキシコ代表の一員として来日。ここでの活躍が認められ、翌年、メキシカンリーグのドゥランゴで打率.385と好調を維持しているところを日本ハムに引き抜かれた。日本ハム退団後もメキシカンリーグを代表する選手として昨シーズンも3割をマークしている。

ヤディル・ドレイク(ユカタン/メキシカンリーグ)
ヤディル・ドレイク(ユカタン/メキシカンリーグ)

 中日、ソフトバンク戦に登板したナイケル・クルスもメキシカンリーグ組だ。カンペチェ・ピラタスで7試合に登板して0勝2敗、防御率9.82という成績は、極端な打高投低リーグであるメキシカンリーグにあってもいただけない成績である。昨年から、キューバでは、各州別の16チームからなる全国リーグ、セリエナシオナルを夏季リーグに移行し、その後、トップ選手だけで6チームを再編したキューバ・エリートリーグを実施するという制度改革を行っている。彼はここでも投げているが、メキシコでこの成績の選手が、トップリーグでプレーしているところにキューバの国内野球の地盤沈下を見て取れる。

ナイケル・クルス(カンペチェ/メキシカンリーグ)
ナイケル・クルス(カンペチェ/メキシカンリーグ)

 中日戦先発のカルロス・ビエラもメキシカンリーガーだ。2018年冬のシーズンにベネズエラでプロとしてプレーし始め、昨シーズンはサルティージョでメキシカンリーグ2度目のシーズンを送り、主に先発として4勝7敗の星を残している。

カルロス・ビエラ(サルティージョ/メキシカンリーグ)
カルロス・ビエラ(サルティージョ/メキシカンリーグ)

 2番打者のヨエルキス・ギルベルトもクルスと同じくエリートリーグでプレーしている。彼は夏のシーズンは、プロとして北米独立リーグのカナダ球団、ケベック・キャピタルズでプレーしている。現在のところ、キューバ政府はアメリカでプレーを公式には認めていないので、北米でプレーする場合はカナダにある独立リーグ球団でプレーする。

ヨエルキス・ギルベルト(ケベック/フロンティアリーグ)
ヨエルキス・ギルベルト(ケベック/フロンティアリーグ)

 セカンドを守っていたダヤン・ガルシアもエリートリーグでプレーしているが、彼は国外ではプレーしていない。夏のシーズンはセリエナシオナルのアルテミサでプレーしている。

ダヤン・ガルシア(アレテミサ/キューバセリエナシオナル)
ダヤン・ガルシア(アレテミサ/キューバセリエナシオナル)

 中日戦ではショートを守り球際に強い守備で観衆をわかせたルイス・マテオもキューバオンリーでプレーしている。

ルイス・マテオ(シエンフエゴス/キューバセリエナシオナル)
ルイス・マテオ(シエンフエゴス/キューバセリエナシオナル)

 堅実な守備と粘り強いバッティングが売りのようだが、本番では、やはりメジャーでもプレーしたエリスベル・アルエバルエナが正ショートとなるだろう。彼は亡命しながらキューバ球界復帰を認められた最初の選手である。彼はドジャース退団後は、キューバに戻り、国内リーグとニカラグアやメキシコのウィンターリーグとの間を行き来している。

 昨年まで中日で5シーズンプレーしたアリエル・マルチネスには正捕手の期待がかかる。2018年に中日と育成契約を結び来日し、2019年の第2回プレミア12では代表メンバー入りするも、支配下登録、一軍出場はその翌年まで待たねばならなかった。その後は年々成績を上げ、昨年は打率.278、8本塁打を記録したが、自由契約が言い渡され、日本ハムに新天地を求めることになった。

 日本にゆかりのある選手と言えば、マルロン・ベガも忘れてはならない。彼は昨シーズン、独立リーグの日本海オセアンリーグでプレーしている。「トラビエソ・ジュニア」の登録名で石川ミリオンスターズに在籍していた。

 国内リーグのセリエで2020-21年シーズンにデビューすると、9勝2敗防御率4.36で新人王を獲得、翌シーズンは12勝2敗防御率2.75でMVPに輝いている。その後、昨年8月になって石川へ加入。10月には台湾で行われたU23ワールドカップに参加し、2試合に登板して計6イニングを投げている。その後、日本ハムの入団テストを受けたが、契約には至らず。まだ20歳と若く、WBCの舞台で活躍し、国外でのプロ契約をゲットしたいところだろう。

マルロン・ベガ(マヤベケ/キューバセリエナシオナル)
マルロン・ベガ(マヤベケ/キューバセリエナシオナル)

 こうやって見てみると、かつての「アマチュアの雄」にもプロ化の波がひしひしと押し寄せていることがわかる。

 しかし、日本での5試合を見る限り、正直なところ、キューバ代表はかつてのような怖い存在ではないようだ。とは言っても、台湾に移動後は、メジャー通算82ホーマーのヨアン・モンカダやルイス・ロベルト(ともにホワイトソックス)ら「メジャー組」8人が合流する。彼らが合流しても真の意味でのトップ代表には遠い布陣だが、台湾での第1ラウンドを突破し、侍ジャパンと東京で相まみえる可能性は高い。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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