Yahoo!ニュース

プロ野球、ファームリーグ2チーム拡大へ。その今後を占う

阿佐智ベースボールジャーナリスト
地方開催ともなれば満員も珍しくないNPBファームの試合(大阪・堺くらスタジアム)

 先日、プロ野球(NPB)のオーナー会議で、かねてから噂になっていたファーム(二軍)リーグの2チーム増設が議論された。早ければ再来年、2024年シーズンから参加する予定だという。ただし、2チームはファームリーグのみの「参加」で、一軍を持たないため、NPBへの「加盟」はしない見通しだ。

 現在、NPBの二軍は、日本ハム、楽天、ロッテ、西武、巨人、ヤクルト、DeNAによるイースタンリーグと、中日、阪神、オリックス、広島、ソフトバンクによるウエスタンリーグに分かれて公式戦を行っているが、両リーグとも奇数で構成されているため、試合日程が組みにくい。交流戦も行ってはいるものの、抜本的な解決には至っていない状況だ。今回の拡大案は、この状況の打開策としての意味合いが強いように思われるが、すでに静岡に本拠を置く球団構想が発表されており、こちらはかなり具体的に話が進んでいるようだ。今後は、もう一球団をどうするかに話が移っていくと思われる。

戦後整備された日本プロ野球のファームシステム

 日本のプロ野球において、二軍を本格的に運営し始めたのは、戦後のことである。

 1952(昭和27)年に西日本に本拠を置く、名古屋(中日)、大阪(阪神)、阪急、南海、松竹、西鉄により日本最初のファームリーグとして、関西ファームリーグが結成されたが、このときファームのみのプロチーム、山陽クラウンズもこれに参加した。この球団は、神戸から西播へ路線をもつ山陽電鉄によるもので、すでにセ・パが分立した1950年より活動を始めていたという。このチームは、基本的には球団が集めた「自前」の選手から成り立っていたが、いくつかのNPB球団から預かった選手もメンバーに名を連ねていた。

 しかし、山陽は関西ファームリーグに参加したそのシーズン限りで解散。翌年からは、すでにパ・リーグに加盟していた近鉄が関西ファームリーグに参加するが、大洋と合併することになった松竹が抜けることになった。このことでパ・リーグ球団主体となったこともあり、1954年にはセ・リーグ球団のファームである大阪と中日が脱退するが、翌年、NPBが14球団のファームを東西7球団ずつのイースタン、ウエスタンの2リーグに編成することを決めると、関西ファームリーグは横滑りするかたちでウエスタンリーグに改組、両チームは、パ・リーグ在阪電鉄3球団と西鉄、それにセ・リーグの広島に合流するかたちでウエスタンリーグに再度加わった。

 この動きとは別に、1954年、セ・リーグは独自に新日本リーグというファームリーグを組織した。このリーグは本場・アメリカに倣い、二軍に一軍とは異なるニックネームをつけ、本拠地も別に定め、スポンサーをつけた上でリーグ戦を行った。この時、「中日ダイヤモンズ」は本拠地を静岡に定めている。

 パ・リーグへの対抗のため発足したというこのファームリーグだったが、関東圏から広島までの広域運営は、やはり難しかったようで、2年で消滅している。

 イースタンリーグには、セ・リーグから巨人、国鉄、大洋、パ・リーグから東映、大映、毎日、トンボが参加したが、リーグ発足の1955年は、セ・リーグ球団のファームは、ウエスタン、イースタンの公式戦と並行して新日本リーグの公式戦も消化せねばならなかった。このため、イースタンリーグと新日本リーグは共倒れとなり、以後しばらくは、東日本の球団の二軍はリーグに属さず、独自に活動することになった。ちなみにこの時期、球団内の派閥争いから一、二軍の交流がほとんどなかった巨人では、二軍は他の球団のファームを伴って地方巡業を盛んに行い、各地の球場は大変な賑わいを見せた。

 イースタンリーグは1961年に巨人、国鉄、大洋、東映、大毎の5チームで復活。一方のウエスタンは7チームで、現在とは逆の状況だったが、1979年からは、本拠を福岡から移した西武が移籍。そして2004年限りで近鉄球団が消滅。2005年には、仙台に発足した新球団、楽天のファームが参加したことにより、ウエスタン5、イースタン7というかたちになり現在に至っている。

かつてマイナーリーグに存在した「インディペンデント」球団と「コーポレイト」球団

かつて存在した「コーポレイト」球団、レスブリッジ・マウンティーズ
かつて存在した「コーポレイト」球団、レスブリッジ・マウンティーズ

 一方、野球の本場、アメリカのファームリーグ形成過程は日本とはかなり異なる。「一軍」が先に存在し、その育成チームとして「二軍」が整備された日本とは違い、アメリカでは、自然発生的に各地にプロリーグが生まれ、そのうち規模、レベルとも高いものがメジャーリーグになってゆき、その他のマイナーリーグと区別されるようになったのである。だから、歴史的には、現在のナショナル、アメリカンの両リーグの以外にも、「メジャーリーグ」は複数存在した。

 そしてマイナーリーグは、メジャーリーグから独立しており、各球団はメジャーリーグ球団に選手を「売る」ことをビジネスにしていた。いわば、独立リーグだったわけである。

 そんなマイナーリーグがメジャーリーグのファームリーグとなったのは1920年代のことである。のちにドジャースのGMとして黒人選手、ジャッキー・ロビンソンを獲得するブランチ・リッキー率いるセントルイス・カージナルスがマイナリーグチームと選手育成契約を結び、チームの強化に成功すると、他球団もこれに追随。メジャー球団が契約した選手をマイナー球団が預かりファームリーグを開催するという現在のかたちになっていった。

 つまり独立マイナー球団は順次メジャー球団のファームとしてその組織に組み込まれていったのだが、その中で、メジャー球団からの選手供給を受けない球団も生き残り、メジャーリーグ傘下のマイナーリーグに参加するという事例が1990年代まで見受けられた。

 マック鈴木と言えば、NPBを経由せずにメジャーリーガーとなった最初の日本人選手である。彼は高校を中退し、1992年にA級カリフォルニアリーグのサリナス・スパーズでプロキャリアを始めたのだが、このチームと翌年所属したサンバナディーノ・スピリットは親球団をもたない「インディペンデント」のチームだった。

 また、1995年のアドバンスルーキー級パイオニアリーグは、所属8球団中、実に3球団が親球団をもっていなかった。そのうち、カナダ・アルバータ州にあったレスブリッジ・マウンティーズというチームは、独立球団の中でもとくに「コーポレイト」とカテゴライズされ、メジャーの複数球団から選手を預かってチームを構成していた。

 しかし、このような事例もメジャーリーグの拡大策の中、次第に姿を消していった。レスブリッジ球団も、1996年からは翌々年にメジャーリーグに新規加入するアリゾナ・ダイヤモンドバックスのファーム球団、レスブリッジ・ブラックダイヤモンズとして親球団が契約した選手を受け入れることとなった。

ファームリーグ拡大を予想する

 現状において、早ければ2年後からNPBのファームリーグに参入する新チームがどのようなかたちになるかは定かではない。イースタンリーグでは過去には、ファームの実戦経験を充実させるべく、フューチャーズシリウスといった混成チームを結成していたが、あくまで臨時的なもので、ひとつの球団としてリーグ戦に本格参入することはなかった。また、横浜(現DeNA)、オリックスがそれぞれ、「湘南シーレックス」、「サーパス神戸」というネーミングでチームを「独立」させ、また西武がファームのネーミングライツを売りに出し、「インボイス」、「グッドウィル」の名でリーグ戦に参加し、ファームの独立採算を模索したが、その目的を達成することはなかった。

オリックスの二軍は2000年から2008年まで「サーパス」を名乗った。
オリックスの二軍は2000年から2008年まで「サーパス」を名乗った。

 しかし、現在、NPBは一軍だけでなく、二軍も観客動員を増やしている。ファームの事業化が軌道に乗りつつある今、奇数状態の東西のリーグに新規参入チームを受け入れることは、将来的な一軍の球団数拡大への一歩となるであろう。ただ、独立リーグの苦境を見てもわかるように、選手の報酬支払いはファームチームには大きな負担となることは想像に難くない。それを考えると、かつて北米マイナーリーグに存在した「コーポレイト」球団は大いに参考になるのではないだろうか。地理的なことを考えると、新設が予想される静岡球団はイースタンリーグに参入となるだろう。この新設チームには、各球団が選手を預けてみればどうだろうか。

 このNPBの動きに、これまでNPBに属さない「マイナーリーグ」として活動してきた独立リーグもざわついているという。単独でこのファーム拡大策に参加しようとする独立リーグ球団もあるだろう。

 独立リーグに関しては、かつて四国アイランドリーグ(現四国アイランドリーグplus)で経営破綻状態だった高知ファイティングドッグスをバレンタイン政権下の千葉ロッテが傘下に収めようとしたが、NPBが待ったをかけたため、頓挫したことがある。NPBとの直接の関係を持たず、自ら選手を雇い、ドラフト指名まで育成するというモデルの中、独立リーグ球団のほとんどは、その選手たちがプレーする環境を整えるところまで手が回っていないのが実情だ。中には、選手には報酬を支払わず、シーズン中にもアルバイトで生計を立たせている、「プロ」とは名ばかりのリーグ、チームも存在する。それもこれも独立リーグの観客動員は右肩下がりでファンの注目をなかなか集められていないゆえなのだが、同じ小規模プロスポーツであるサッカーのJ2、J3と違い、トップリーグとのつながりが絶たれていることが注目度の低さにつながっていることはたびたび指摘されていることである。

 それを考えると、今回のファームリーグ拡大を独立リーグ活性化とつなげるのもひとつの方法論と言える。つまり、独立リーグのチャンピオンチームを、たとえば、ウエスタンリーグに参加させるのである。そのチャンピオンチームの選出方法は、現在行われている四国リーグ、ルートインBCリーグ、ヤマエグループ九州アジアリーグ、北海道フロンティアリーグの4リーグによるグランドチャンピオンシップの勝者でもいいだろうし、特定のリーグと提携の上、そのリーグのチャンピオンが翌年のNPBファームリーグに参加というかたちでも良いだろう。これにより、ファームとは言え、独立リーグ球団に「NPB参入」のチャンスが与えられれば、その注目度は格段に増すことだろう。

現存独立リーグ球団からの参入となれば、グランドチャンピオンシップを制した火の国サラマンダーズなどの強豪はその候補となろう(火の国サラマンダーズ提供)
現存独立リーグ球団からの参入となれば、グランドチャンピオンシップを制した火の国サラマンダーズなどの強豪はその候補となろう(火の国サラマンダーズ提供)

 現状、NPBのファームリーグ拡大策は検討の段階である。NPBの12球団体制が64年も続いている中、後発のプロスポーツであるサッカーJリーグは1993年の発足以来順調に球団数を拡大し、現在ではJ1だけでも18、J3まで含めると60を数えるまでになっている。それを考えると、NPBも球団数拡大に本腰を入れる時期に来ているようにも思えるが、その足掛かりになりうる今回のファーム拡大案が、具体化することを願うばかりである。

(特記のない写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

阿佐智の最近の記事