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ペナントレースもいよいよゴール。今年も巻き起こるだろうポストシーズン制の是非について

阿佐智ベースボールジャーナリスト
昨年のナ・リーグのディビジョンシリーズを突破したドジャース(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 プロ野球のペナントレースもいよいよゴールに近づいている。セ・リーグは25日にヤクルトが連覇を決め、ソフトバンクとオリックスが熾烈な争いを続けているパ・リーグも、早ければ、今日にも優勝が決まる。

 ペナントレースの順位が決まれば、ポストシーズン、クライマックスシリーズ(CS)に突入するのだが、例年、この制度を巡っては、ファンの間から喧喧囂囂の議論が巻き起こる。とくに今年の場合は、その声が大きくなるかもしれない。ポストシーズンに「ぎりぎり」滑り込む3位チームの成績が、上位2チームに比して悪いからだ。

 ヤクルトがぶっちぎりの優勝を果たしたセ・リーグは、夏場のDeNAの頑張りがあり、1位2位の差は「例年並み」を少し上回るくらいに落ち着きそうだ。パ・リーグの方は、いわずもがな。もしかしたら優勝チームと2位チームの勝率が全く同じということさえありうるという事態になっている。

 ところが3位に目を移すと、とにかく上位2チームとの差が目立つ。

 セ・リーグの方は、昨日まで阪神、巨人、広島の3チームが「自力CS進出の可能性なし」という異常事態になっていた(現在は阪神に自力進出の可能性あり)。どこが進出しても、レギュラーシーズン負け越しでCSに駒を進めることは確実である。「勝率5割を切るチームにポストシーズンに進出する資格があるのか」という声が上がるのは必定である。

 一方のパ・リーグも、上位2チームの優勝争いがスリリングな分、3位チームがどうしても見劣りする。

 しかし、3位チームというのは、「ダメ元」感があるだけに、2位チームとの3戦2勝制という超短期決戦のファーストステージを突破すれば、勢いづく可能性が高い。とくに今年の場合は、両リーグとも3位チームの「ダメ元」感は高いので、ファーストステージで勢いに乗れば、セカンドステージも突破してしまうかもしれない。今年のペナントレースの結果において、両リーグとも3位チームがCSを勝ち上がり、日本シリーズを戦うとなれば、「CS不要論」に火が付くことは間違いないだろう。

 しかし、プロ野球が興行である以上、ポストシーズン制がなくなることはないだろう。それは、世界のプロスポーツの潮流でもあるからだ。

ポストシーズンの本場、アメリカ

昨シーズンのワールドチャンピオン、ブレーブスの勝率はナショナルリーグ15チーム中5番目だった。
昨シーズンのワールドチャンピオン、ブレーブスの勝率はナショナルリーグ15チーム中5番目だった。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 野球発祥の地で、古いプロ野球の歴史をもつアメリカでは、とくにマイナーリーグにおいては、ポストシーズン制は早くから採用されていた。

 メジャーリーグ(MLB)に現在のようなポストシーズン制が採用されたのは1969年のことである。それまでのナショナル、アメリカン各リーグ10球団から12球団に球団数が増えたのにともなって地区制が採用されたため、両リーグとも東西両地区の優勝チームが5戦3勝制(のち7戦4勝制)のプレーオフでリーグ優勝チームを決定。その上でチャンピオンシップシリーズであるワールドシリーズ(7戦4勝制)を行うことになった。その後MLBの球団数は段階的に28まで増えてゆくのだが、このフォーマットは変わることはなかった。

 これが大きく変わったのは、1994年のことである。レギュラーシーズン終盤の観客増とポストシーズン拡大による放映権料増収を見込んで、MLBは3地区制を導入。地区優勝チームに加え、各地区2位の内、最高勝率を残したチームを「ワイルドカード」としてポストシーズン進出権を与えたのだ。ここで、「優勝」あるいは「首位」チーム以外のチームがシーズン・チャンピオンになる可能性が出てきた。これには、やはりアメリカのファンの少なからぬ者が拒否反応を起こした。

 導入初年度は、ストライキのためポストシーズンは実施されなかった。翌1995年になって初めて3段階(地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズ、ワールドシリーズ)のポストシーズン制が実施されたが、地区シリーズはさほど盛り上がらなかった。当時の野球専門紙には、ナショナルリーグ中地区優勝のシンシナティ・レッズと西地区から進出してきたワイルドカードチームのコロラド・ロッキーズの地区シリーズを観戦していた古参ファンの「こんな寂しいポストシーズンのスタンドは初めてだ」という言葉が掲載されていた。

 しかし、この制度は次第にファンの心を掴んでいった。それまではシーズン最終盤となると、28チーム中、盛り上がりを見せるのがほんの数チームだったのが、地区数が1つ増えたことにより「優勝争い」も1つ増え、おまけに「ワイルドカード争い」が加わったことで、半数、あるいはそれ以上のチームが、ワールドチャンピオンへの挑戦権争いに加わることができる状況が出現したことに、この制度の支持者は増えていった。そして、1997年、ついにワイルドカードからポストシーズンに進出したフロリダ・マーリンズが、ワールドシリーズを制覇したのだが、このとき元々フットボールスタジアムであったマーリンズの本拠、プロプレイヤー・スタジアムは6万7000人を越える観衆で埋まった。

 年々盛り上がりを増すポストシーズンを前に、MLBは2012年にワイルドカード争いをしていたチームの上位2チームによる一発勝負の「ワイルドゲーム」を導入。今シーズンからはこれを3戦2勝制に拡大している。

アジア各国のポストシーズン

 世界には日米以外にも韓国、メキシコ、台湾にプロリーグが存在する(ベネズエラにも夏季リーグが発足したとの情報もあるが、詳細は分からないのでここでは割愛する)。

 1リーグ制(1999年から2シーズンは交流戦ありの2リーグ制)の韓国リーグ(KBO)は、1982年の発足当初からポストシーズン制を採用している。リーグ発足から7年間は前後期制度を採用し、各期の優勝チームによるチャンピオンシップ、韓国シリーズを実施した。しかし、この制度だと、前後期とも同一チームが制した場合、最後のチャンピオンシップシリーズがなくなり尻すぼみに終わってしまう可能性がある。また、シーズン通しての最高勝率チームが、前後期とも優勝できずチャンピオンシップに進出できないということもありうる。そこで、KBOは制度に改変を加え、2シーズン制の矛盾の解消に努めたが、1989年からは1シーズン制に切り替えた上で、上位チームによるステップラダー方式によるポストシーズン制を採用している(2リーグ制時代は各リーグ上位2チームによるたすき掛け方式のプレーオフの後、決勝シリーズ)。現在KBOは10球団制。上位5チームが進出するポストシーズンは、4位チームにアドバンテージのある2戦制のワイルドカードゲームに始まる。以後5戦3勝制のシリーズでの勝者がより上位チームへの挑戦権を獲得し、7戦4勝制の韓国シリーズに至る。このステップラダー制採用以降、レギュラーシーズンの勝率3位以下のチームが「下剋上」を果たして優勝したのは4度のみ。1999年に韓国シリーズを制したハンファ・イーグルスが勝率4位からの「史上最大の下剋上」ということになるが、この時代KBOは2リーグ制を採用しており、マジックリーグ2位の資格でポストシーズンに臨んでいる。ちなみに現在のところ、プレーオフ圏内に入っている5位の起亜タイガースの勝率は5割を割っている。

 長らく4球団制が続いていた台湾リーグも、発足当初のKBO同様、前後期制を採用することでポストシーズンを設けている。現在は、たとえ前後期、そして年間勝率すべてを制覇したチームがあっても、アドバンテージを与えた上でプレーオフを開催するフォーマットを採用している。

ポストシーズンがまさにクライマックスのメキシコ

今年のチャンピオンシップを制したユカタン・レオーネス(ユカタン球団提供)
今年のチャンピオンシップを制したユカタン・レオーネス(ユカタン球団提供)

 ラテンアメリカ最大のプロリーグ、メキシカンリーグは完全にポストシーズン重視だ。レギュラーシーズンは、ポストシーズンのための予選という位置づけと言っても過言ではない。

 このリーグでポストシーズン制が採用されたのは、1949年のことである。当初は前後期制による採用だったが、3シーズンで一旦廃止。1966年に復活するも、1年限りでレギュラーシーズンのみでチャンピオンを決める方式に戻った。そして1970年、チーム数が8から10に拡大したのに伴って2地区制が採用されると、両地区の優勝チームの対抗戦というかたちで7戦制のチャンピオンシップが再度復活した。以後、一時期の4地区制の採用や、前後期制の導入に伴い、ポストシーズンは次第に充実してゆき、1980年代以降は各々2か月強の前後期のレギュラーシーズンの後、南北各地区から上位半数以上のチームが出場する約ひと月半にもわたるポストシーズンというフォーマットが定着している。今シーズンは、コロナ禍ということもあり、レギュラーシーズンそのものが短縮されたため、前後期制は採用されず、全18チーム中12チームが4段階のポストシーズンを戦った。

 これだけ多くのチームがポストシーズンに出場するとなれば、「下剋上」は頻繁に起こる。ファンもそれを肯定的にとらえることはあっても、日本のように「レギュラーシーズンの重みがなくなる」などと言うことはない。現場の方も、レギュラーシーズンはポストシーズンの進むまでの予選とある程度割り切っており、出場権を得るための戦いを行う。つまり、なにがなんでもレギュラーシーズンの首位を獲りに行くような戦い方はしない。

 実際、プレーオフの舞台に立てば、レギュラーシーズンの成績はあまり関係はない。プレーオフの第1ラウンドで、より高い順位のチームがより低い順位のチームと対戦することと、上位チームのホームからスタートすることくらいが上位チームのメリットで、7戦4勝制の戦いにおいて上位チームにアドバンテージが与えられることもない。ポストシーズンに入れば、そこでの戦い方を知っているチームが、行き残っていく。

 「優勝」の栄冠が与えられるのは、第3ラウンドを制した後で、南北の地区優勝チームは、「セリエ・デル・レイ」と呼ばれるチャンピオンシップに駒を進める。ちなみに、今年は、両地区とも4位チームが「地区優勝」を果たし、レギュラーシーズン(90試合)で貯金が3しかなかったユカタン・レオーネスが「メキシコ・チャンピオン」の栄冠を手にしている。

 以上、世界各地のポストシーズンについてみてきたが、興行面において、今やポストシーズン制はプロ野球には欠かせないものになっている。確かに、長いペナントレースを勝ち抜いた勝者が、チャンピオンシップを戦うのが、シンプルでわかりやすいフォーマットではあるが、一方で、ペナントレースを最後までスリリングなものにしているのは、優勝争いと共に、3位争いという注目点があるからである。様々な意見がありながらも、今シーズンもクライマックスシリーズのスタジアムは満員の観衆で埋まるだろう。ポストシーズン制には様々な矛盾があることは確かであるが、ここは、その矛盾が生み出す「下剋上」にも期待しながら、今年のプロ野球の締めくくりを楽しもうではないか。

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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