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大分B-リングス、新体制発表。元オリックス戦士の選手兼任コーチに独立リーグ1年目を振り返ってもらう

阿佐智ベースボールジャーナリスト
九州アジアリーグ・大分B-リングスで兼任コーチとしてプレーを続けている白崎浩之

 NPBに先んじてシーズンを終えた独立リーグ界であるが、すでに多くのリーグ、球団でトライアウトが実施されるなど、すでに来年度に向けて動き出している。

 そんな中、今年2球団で発足した九州アジアリーグの大分B-リングスは、来シーズンに向けた首脳陣の刷新を発表した。監督だった廣田浩章は投手コーチ兼ゼネラルマネージャーに、監督には小野真悟外野手兼任コーチが専任で就任することになった。そして、内野のリーダーだった新井勝也選手がコーチを兼任することとなり、チームただひとりの元NPB選手である白崎浩之は、引き続きコーチ兼任で現役を続行することになった。この新人事について、森慎一郎オーナーは、「チーム強化のための布陣」だとし、まだ31歳と若い白崎には、今シーズンのようなコーチ中心の活動ではなく、チームの主力選手としての活躍を期待するとコメントした。

 白崎は2012年秋のドラフトでDeNAから1位指名を受け駒澤大学からプロ入り。2017年の日本シリーズでは第6戦でホームランを放ち野球ファンにその名を印象付けた。2018年にはオリックスに移籍したものの、ポジションを取るには至らず、2020年シーズン終了後に自由契約となっていた。そして今シーズンは独立球界に身を投じた。野球のエリート街道を走ってきた彼に新興の独立リーグはどう映ったのだろう。

第2の野球人生に進んだドラ1スラッガー

 シーズン終盤の試合後、インタビューに応じてくれた彼は、開口一番、大分での初シーズンを「すごく勉強になった1年だった」と振り返ってくれた。

「もちろんNPBとは全く違う環境だとは分かっていました。その中で大変な思いもしながらも野球に携わらせてもらえました」

 NPBと独立リーグとの大きな違いのひとつに、ファンやスポンサーとの距離の近さがある。選手によっては、負担に感じるフィールド外の「仕事」にも白崎は新鮮な気持ちをもって臨めたと言う。

「NPBではあまりできなかったことだったので、そういう距離感の近い感じでいろんな方と話せたりは良かったですね。負けた後であっても、『お疲れさま。頑張ったね』なんて言ってくれます。NPBの時は、スタンドからのやじなんかもあって、ちょっと怖いななんて思っていましたから。プロなんだから本当はそんなことで目くじら立てちゃダメなんでしょうけど、最初は、知らない人になじられると腹が立ったこともありましたから。でもこっちでは、みんな心から応援してくれているなというのを感じるので、ありがたいなという気持ちは強いです。今年、うちは負けが込んでたんですけど、でもそれも自分たちの結果なので、それも受け止めながら、応援してくれたファンの皆様には、やっぱり『ありがとうございました』という気持ちが強いですね。NPBの時は、こういう機会はなかったですからね」

リーグ発足とともに参戦した大分B-リングスだったが、ゼロから急ごしらえでチーム作りを行ったということもあって、都市対抗にも出場した経験のある社会人実業団チームを母体にしたライバルの火の国サラマンダーズとの戦力差はやはり大きかった。2チームで行われたリーグ戦32試合の対戦成績は9勝23敗。ソフトバンクホークス三軍との対戦を含めた他リーグとの交流戦の成績も5勝11敗と苦戦を強いられた。

 戦力差は認めながらも白崎はプロとして戦うならば、それを言い訳にしてはいけないとシーズンを振り返った。

「もちろん相手は強かったですけど…。うちは1年目でまだ何もなかったところから積み上げていくという難しさというのは感じましたね。我々は、自分たちの野球というのを模索している中で、向こうはもうスタイルが決まっていたような感じはあります。でも、そこで、どうしたら勝てるかということです。選手が気持ちを奮い立たせて、もっと向上心をもって練習をするかですよね。僕もそうなんですけど、選手兼コーチでということで、今年は結構コーチ業の方が多くて…」

 その言葉どおり今シーズンの白崎は、ベンチにいることが多かった。新興の独立リーグという場では、その実力は他の選手を大きく凌駕していることは間違いなかったのだが、白崎自身、この場に身を投じたのは、NPBへの復帰を目指すというより、指導者としてのキャリアの第一歩という気持ちからであった。

「今までは選手だけやっていたんですけれども、今年はコーチとして選手にしっかりやらせないといけない、管理をしないといけない側にいるんだという意識の方が強かったです。もちろん、最初は正直プレーしたいなってずっと思っていました。でも、それを自分がやってしまうとチームの練習が回らないし。正直なところ、NPBに戻るって言っても、ちょっともう難しいなと自分の中で思った部分があったので。それなら勉強をさせてもらっている機会だと考えて、切り替えました。だから今は、若い選手に模範を示しつつ、自分も次のキャリアを模索しているという感じです」

若い選手との意識のギャップ

 指導者修行を始めたと言っても、まだ31歳。一般社会ではまだまだ「若者」の部類である。それでも、20歳台前半の独立リーガーたちとの意識の差は感じたという。

シーズン終盤の試合後、インタビューに応じてくれた白崎
シーズン終盤の試合後、インタビューに応じてくれた白崎

「彼らを見ていていろいろ思うところは正直あります。でも、すぐにはそれを口にはしません。もう言ってしまうと、絶対やらされるっていう意識になってしまうんですね。僕だってまだまだ若いと思うんですけど、そのあたりはギャップを感じますね。まだ僕たちが学生の頃は、先輩・後輩の上下関係がきちっとあったんですけど、今の子たちはなかったんじゃないでしょうか。例えば、年上の選手が道具運びをしているのに後輩たちは、それを見ながら平気で自分のことをやっちゃってるとか。他人のために動けない、周りを見て動けないというか、そういうのはすごく感じました。やれって言われる前に、自分で考えて行動する意識がちょっと乏しいのかなと思いますね」

 昭和・平成の時代の運動部と言えば、最上級生は「神様」のような存在で1年坊主は口もきけなかったという。白崎も学生時代はそういう空気の中で育った。

「僕らの頃はもう手を出されることはなかったんで、もっと上の人たちは、もっと厳しかったと思いますけど。だから廣田監督(現投手コーチ兼GM)は、僕に対しても思うところはあると思います。小野コーチ(現監督)も6歳上ですから。でも、ある意味おふたりがいて、助かった部分は大きかったです」

 ある意味、チーム内で「中間管理職」的な立場で、白崎は「同僚」でも「部下」でもある選手たちを見続けた。その中で、気付いたことを少しずつ伝えていったと言う。

「最初は何も言わずに見ていて、『いつもチームのために働いているのは年上の子だな』とか、『この子はいつもやらないな』っていうのを把握していきました。それからちょっとずつ『それってどうなの?』みたいな話をしていきました。『自分が先輩で、後輩がそうだったら、どう思うかな』とか。その上で、相手の立場になってものを考えることができるようになったら、野球にもつながってくるっていう方向にもっていきました。今の子は、意味がないとやりたくない子が多いんじゃないかと思うんです。だから、それって野球につながるよ、というふうに伝えるようにしました。一方で、年上の選手たちにも、自分たちで何でもしてしまうっていうのもどうなんだって話もしました。そういうのはやっぱり自分たちがつくっていくもので、それがチームの伝統になっていくわけだから。NPBに進めば、そこにはやっぱり裏方さんがいて、選手は個人事業主だから、自分のことを優先していいというふうになりますが、独立リーグはそうではないと思います。野球が終わった後のことを考えると、プレー以外のこともいろいろ考えないといけないと思うんです」

「昔の野球」と「これからの野球」をつなぐ存在に

 「プレー以前の行動」がプレーにつながるという考え方をもつ最後の世代かもしれない。しかし、白崎はそれを次の世代に伝えようとしている。合理性の追求がスポーツ界でも進んでいる今、ややもすれば古色蒼然という言葉で片づけられてしまう精神論とそれを超えようとする合理性を融合させようとしているようだ。

「昔は昔で絶対いいところがあったと思うんです。熱い心みたいなものが昔の野球にはあったと思います。それこそ乱闘なんかもあったりしましたけど、昔の方が高いレベルのことも絶対あるだろうし、逆に今の方がいい部分もあると思うんです。それを融合できたほうがいいんじゃないのかと思います」

 そう言えば、昭和の頃には頻繁にあった試合中の乱闘などめっきり見なくなった。白崎に経験はあるのかと問うと、「実はあるんです」と笑いながら答えてくれた。

「ベイスターズの時代でしたね。昔のような本当の殴り合いっていうのはなかったですけど、両軍が入り乱れて、ちょっと強い言葉で罵り合ったというのは経験してます。僕はその試合、サードで途中出場だったんですが、うちの方がバッターの頭に当ててしまったんです。それで、僕はもみくちゃの中に入って行って、止めに入ったんですが、相手のコーチに『お前も当ててやるぞ』って。なんで俺なんだ?と思って、スコアボード見たら、僕、助っ人の代わりだったんで、4番に入っていたんです(笑)。殴られるとか、ユニフォーム破けるとかはなかったですが、熱いバチバチした雰囲気も経験させてもらいました。もちろん、ここではそういうのはないですが」

 来シーズンも白崎は大分で野球を続けるという。本人は指導者修行としてコーチ業に重きを置くつもりだったが、まだ若い白崎を球団は「戦力」とみなし、現役選手としてのプレー中心で活動させる予定だという。来シーズンはプレー中心で独立リーガーたちに見本を見せながらの1年になりそうだ。

「戦力的なこともあるだろうし、どういうふうになるのかはちょっとこれから次第にはなってくるんですけれども、でも体が動くうちはプレーしたいなとは思っています。口だけ出しているよりも、やって見せられるのが一番いいと思うんで。そういうのは自分でできるようには思っています」

 最後に今一度独立リーグでの初シーズンを振り返ってもらった。

「面白かったですね。やっぱり野球っていいなって思ったのと、あとはやっぱり練習しないと、簡単にはできないのが野球だよねというのを勉強できた1年でした」

 白崎の視線はすでに来シーズンに向いているようだった。

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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