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カリビアンシリーズ2012。「黄金カード」を制したドミニカが連覇を果たす

阿佐智ベースボールジャーナリスト

コロナ禍にあって、無事ウィンターリーグのクライマックスであるカリビアンシリーズが終了した。優勝はドミニカ代表のアギラス・シバエニャス。ここ数年、往時の強さを感じさせなくなっていたドミニカだが、連覇を果たし「古豪復活」を印象づけた。

新装なったシナロア州マサトランのテオドロ・マリシャルでの開会式は観客を入れて盛大に行われた。
新装なったシナロア州マサトランのテオドロ・マリシャルでの開会式は観客を入れて盛大に行われた。

地元開催で5年ぶりの優勝を狙うも準決勝で敗れたメキシコ

 1971年の第14回大会より参加、これまでの9回の優勝の内、6回を2000年代に入ってから果たしているメキシコは昨年と同じく、メキシカンパシフィックリーグ屈指の人気チーム、トマテロス・デ・クリアカンがシリーズに駒を進めた。

 地元開催に際して、メジャーリーグの主力を集め優勝した1995年のプエルトリコ代表、サンファン・セネタースに象徴されるように、世紀が変わる前までは、メジャーリーガーのウィンターリーグ参加は珍しくなかった。この時期までは、国内のサマーリーグ、メキシカンリーグの存在ゆえにメジャーリーガーが少なかったメキシコは、多数のメジャーリーガー擁するドミニカ、プエルトリコ、ベネズエラの後塵を拝すことが多かった。しかし、その後、うなぎのぼりとなった報酬ゆえ、現役メジャーリーガー、MLB球団ともウィンターリーグへの参加に消極的になると、メキシコの相対的な地位が上がり、ウィンターリーグの行われる太平洋岸の野球人気も後押しするかたちで、好素材の外国人選手が集まるようになってきた。こと2010年代について言えば、ドミニカ、プエルトリコの2度をしのぐ最多の4度の優勝を飾るなど、「ラテンアメリカの雄」の名を手にしたようにみえた。しかし、2016年以来、カリブチャンピオンの座から遠ざかっている。昨年も優勝候補の筆頭に挙げられながら、準決勝でベネズエラによもやの敗戦を喫している。

 地元開催ということで、今大会も当然優勝が期待され、ラウンドロビン(予選リーグ)初戦のコロンビア戦は順当に勝ち進んだものの、最大のライバルとみなされていた2戦目のドミニカ戦を2対4で落とすと、続くプエルトリコ戦も4対6で敗戦。当面のライバルとの敗戦はそのまま結果に表れ、予選3位で進出した準決勝もプエルトリコに1対2で落とすなど、勝負弱さが目立った。

変わりつつあるラテンアメリカ野球の勢力図

 大会直前のベネズエラの開催権返上により、急遽地元・パナマシティでの開催に決まった2019年大会に59年ぶりに復帰したパナマだが、今シーズンはコロナ禍のためリーグをキャンセル。それでも、前年シーズンの首位チーム(プレーオフで敗退)・フェデラレス・デ・チリキの名のもとに、ドミニカ人助っ人なども招き寄せた上で、チームを編成した。同様の手法で集めた事実上の「代表チーム」で69年ぶりの優勝を果たした2019年大会の再現を目指して、ベネズエラ、コロンビア相手に連勝スタートを切った。しかし、開催国メキシコ、昨年優勝のドミニカ、2017、18年大会を連覇したクリオージョス・デ・カグアスが出場しているプエルトリコの壁は厚く、結局2勝3敗の4位でかろうじて準決勝に進んだ。

ラウンドロビンのチーム打率は、6チーム中最高だったパナマ。投手力を整備すれば、優勝争いの常連に食い込む可能性もあるが、まずは国内リーグの整備が課題だろう。
ラウンドロビンのチーム打率は、6チーム中最高だったパナマ。投手力を整備すれば、優勝争いの常連に食い込む可能性もあるが、まずは国内リーグの整備が課題だろう。

 これに対し、四強の一角を崩されたかたちになったのがベネズエラだ。1999年の左派政権樹立以来の政情不安とそれに伴う経済の破綻により、国内の治安は急速に悪化。一昨年シーズン途中には、ビジターゲームからの帰途、日本でもプレー経験のあるホセ・カスティーヨらの元・現役メジャーリーガーらが強盗に殺害される事件まで起こった。これを受けてMLBは昨年シーズンの傘下マイナーリーガーのベネズエラリーグ参加を禁止。一時はドミニカと覇を競う存在にまでなったこの国は、昨年大会こそ直前にMLB球団との契約者を補強するなどして準優勝したが、近年凋落の一途を辿っている。その凋落ぶりは、1勝4敗、唯一勝ったコロンビア戦も1点差の辛勝という結果に表れている。

 昨年に悲願の初参加を果たしながらも、2年連続で全敗に終わり、いまだ勝ち星のないコロンビアだが、打力、投手力ともまだまだ他国の差は埋まっていない印象だった。

ライバル、プエルトリコとの決勝を制し、「黄金時代」再構築に乗り出したドミニカ

ヤディアー・モリーナも参戦したプエルトリコだったが、今年もライバル、ドミニカに夢絶たれた。
ヤディアー・モリーナも参戦したプエルトリコだったが、今年もライバル、ドミニカに夢絶たれた。

 昨年までの62回の優勝回数トップ2は、20回のドミニカと16回のプエルトリコだ。歴史を振り返ると、1949年に始まりキューバ革命のため1960年に中断するまでの12回は、優勝7回のキューバと4回のプエルトリコの覇権争いの時代。その後、1970年に大会が復活した際に国内リーグのアマチュア化によって脱退したキューバ、国内リーグ弱体化によって不参加となったパナマに変わりドミニカが参入してきた。その後の10年は、プエルトリコの時代と言って良く、優勝4回のプエルトリコを各2回のベネズエラ、ドミニカが追いかける構図となった。

 この枠組みに大きな変化が現れたのが1990年代のことだ。この時期、MLB各球団は人材獲得のためのアカデミーをドミニカに整備。ドミニカはMLBの「選手製造工場」と化した。人材の宝庫となったドミニカは、この時期6回優勝。これを3回のプエルトリコが追いかけるという展開となった。

 世紀が変わると、米国自治領という政治的地位があだになり、本土への人材流出が止まず、国内リーグも縮小傾向に歯止めがかからなくなったプエルトリコの弱体化が顕著となる。「敵地」、ドミニカで優勝を遂げた2000年大会を最後に、その後17年、プエルトリコがカリブチャンピオンの称号を手にすることはなくなった。そして、2010年代に入ると、ラテンアメリカの野球の中心はメキシコへ移っていった。

 その中での2017年、18年のプエルトリコの連覇は、「古豪」の復活に狼煙を上げるものとなった。プエルトリコの国内リーグの縮小傾向に歯止めがかかったわけではないが、2013年、2017年のWBCでの2大会連続決勝進出など、国際大会に「野球復興」の活路を見出している。現在のプエルトリコリーグはレギュラーシーズンひと月ほどのミニリーグだ。これをプレーオフと合わせて、「予選」ととらえ、カリビアンシリーズ「本番」に標準を合わせた戦略は、着実に実を結んでいるように見える。

 一方のドミニカだが、2000年代以降、それまでのドミナントな地位を失った感がある中での昨年大会での優勝は「古豪復活」を印象付けるものだった。サンファンでの準決勝、地元プエルトリコとドミニカの一戦に両国のファンがスタンドに殺到した様は、この両雄がラテンアメリカの黄金カードであることを示していた。

 その両者が相まみえた決勝は、先制後着実に追加点を挙げたドミニカが4対1で勝利し、2年連続21回目の優勝を遂げた。優勝チーム、アギラス・シバエニャスは、チーム単位でも、国内のライバルチームで史上最多10回の優勝を誇る名門、ティグレス・デル・リセイを追いかける7度目の栄冠に輝いた。

 ここで戦った選手たちは、この後、アメリカをはじめ世界各地に「出稼ぎ」の旅に出る。彼らラテン系選手の存在なくして世界のプロ野球は成り立たないと言っていい。コロナ禍で世界中のスポーツシーンの見通しが立たない中だが、彼らラティーノの活躍に今年も注視したい。

(文中の写真はカリブ野球連盟提供)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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