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新型コロナウイルスを前にプロ野球はいかなる決断を下すのか

阿佐智ベースボールジャーナリスト
キャンプ中にも多くのファンを集めるプロ野球は大きな決断を迫られている

 25日、巨人が本拠地球場・東京ドームでの主催オープン戦を無観客試合にすることを発表すると同時に、自軍がかかわるビジター試合の主催球団にも同様の措置を取ることを求めた。今日26日にNPBが会合をもち、新型コロナウイルスの広がりの中、オープン戦の試合興行をどうするのかについての方向性を示す予定だったが、それに先んじて自球団の姿勢を示した格好だ。すでにサッカーJリーグは、当面の公式戦を延期することを発表している。ここではその判断の是非について述べることはしないが、先日取材した宮崎キャンプの様子などから、多くの人が集まる興行をビジネスとするプロ野球界の伝染病対策について述べてみたい。

これまでもなされていた感染症対策

 オープン戦、練習試合が行われる球場は、キャンプ地のメイン球場であっても、本拠地球場のように報道陣と選手・スタッフの動線が分けられてはいない。そこで、狭い通路で球団スタッフと報道陣などの外来者がすれ違うこともあるのだが、ある球場では、たまたま出くわした外来者が旧知のスタッフにあいさつすると、「すみません。消毒お願いします」と通路に置かれた長机にあるアルコールでの消毒を促されていた。時節柄、私も取材時、球場ではずっとマスク着用だった。今回のウイルスの潜伏期間は長い。報道を見ると、感染を自覚しない感染者が、広範囲に行動することによって感染が広がった例もある。ここまでくれば、その本人たちに罪はないのだが、もはやだれもが感染している可能性がゼロでなくなったと言える現在、開幕前の大事な時期の選手に感染を広げることなどできない。やはり球団サイドでは、選手・スタッフに感染が広がらないよう配慮しているようだった。

 だが、客商売である以上、メディアとあまり距離をとるわけにもいかない。各球団、いまのところ報道陣にマスク着用の要請をしている様子はなく、アルコール消毒液を各所に配置し、受付では手の消毒を依頼するにとどまっていた。

「今のところはここまでですね」とはある球団の広報の言葉だ。過去に春のキャンプを打ち上げて帰途につくこのチームの一行を空港で見かけたことがあるが、この時は、全員がマスクをしていた。そのことについて聞くと、もうずいぶん前からその球団では移動時にマスクを着用する指示はしていたとのことだった。おそらく多くの球団で同様の指示は出されているものと思われる。しかし、一方で、夏のシーズン真っ盛りの時期に別の球団の一行を空港で見た際には、一同マスクなどしていなかった。実際、先ほど移動時にマスク着用を選手に指示していると言っていた球団でも、春先にはその指示は出すが、例年気温が上がるにつれてその指示も形骸化していくとのことだった。

 インフルエンザがたびたび猛威を振るうようになった昨今、プロ野球球団も、選手への伝染を防ぐ努力はこれまでもしていたようだったが、我々一般人と同様、日々の生活を送らねばならない身としては、手洗い・うがいの強化くらいしか対策は打てないというのが現実のようでもある。

基本中の基本だがキャンプ会場では至る所に消毒用液体せっけんが置かれていた
基本中の基本だがキャンプ会場では至る所に消毒用液体せっけんが置かれていた

それでもやはりファンあってのプロ野球

キャンプ会場には多くの店が出店されている。地元経済を考えると「自粛」も簡単にはできないだろう。
キャンプ会場には多くの店が出店されている。地元経済を考えると「自粛」も簡単にはできないだろう。

 プロスポーツに代表される、不特定多数の人々が集まるイベントは伝染病蔓延を最も助長する場でもある。一方で、興行を生業とするプロスポーツはおいそれとそれを中止できない。先週末も宮崎ではオープン戦と「球春みやざきベースボールゲーム(無料試合)」という試合イベントが行われていたが、連日多くの野球ファンがスタンドに陣取っていた。各球団はゲートに消毒液を置き、手の消毒を観客に促していたが、現在のところ東日本で感染者が多く出ていることもあり、ファンの多くは新型コロナウイルスに対する警戒心は薄いようだった。オープンエアということもあり、スタンドでマスクを着用している人の姿はあまり見受けられなかった。

 「球春みやざきベースボールゲームズ」には韓国の斗山ベアーズが参加していたが、このチームを応援しに宮崎までやってきた韓国人のグループのひとりは、「コロナウイルスのことは心配でしたが、九州には上陸していなかったんで、来ることにしました。だからあんまり心配していません。日本に来てから、むしろ韓国の方で大流行みたいな感じになって驚いています」と言っていた。

 ファンにとってキャンプの楽しみのひとつがシーズン中には体験できない選手との触れ合いだが、これは各球団ともいち早くストップしている。一部球団では、来場したファンへの伝達が遅れ、トラブルになったという報道もあったが、やはり濃厚接触になりかねないサイン会やプレゼントの受け取りはこの時期難しいだろう。

ファンに告知された選手によるサービス自粛の告知
ファンに告知された選手によるサービス自粛の告知

 また、多くの球団ではシーズンシート購入者やスポンサー企業関係者を招いてオープン戦の時期にパーティーを催すのだが、これについても関係者は前々からインフルエンザなどの感染の心配はしていた。このような場には選手が会場で来客にサインや写真撮影に応じるサービスを行うのだが、この場ではなかなかマスクもできない。ファンあってのプロ野球ではあるのだが、今後はこのようなファンサービスイベントのあり方も考えねばならないのかもしれない。

 Jリーグの公式戦の当面延期の他、大相撲の3月場所でも無観客試合が議論の俎上に載せられている。また人気急上昇のラグビートップリーグでは中止も検討されているという。実際キャンプに足を運び、開幕に照準を合わせて懸命に取り組む選手たちの姿を目にすると、「延期」や「無観客」などと簡単には口にできないのだが、世界中に感染が拡大し、死者も多数出ている今回の新型コロナウイルスを目の前にすると、最優先は社会全体での感染の拡大防止の取り組みであることは言うまでもない。

 今日26日、NPBはどんな決断を下すのだろう。

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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