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仕切りなおした中国プロ野球、第1回CNBLシリーズは強豪・北京タイガースが優勝

阿佐智ベースボールジャーナリスト
試合後の表彰式に臨む北京タイガースナイン

 ラグビーワールドカップも日本の快進撃が終わり、スポーツの話題の中心は現在真っ盛りのプロ野球・日本シリーズに移っただろう。この季節は、世界各地のプロ野球もその年のチャンピオンを決めるファイナルシリーズを迎えている。10月20日、中国の首都、北京でもプロ野球、CNBL(China National Baseball League)の決勝シリーズ、第4戦が行われ、名門・北京タイガースが勝利し、シリーズ通算成績を3勝1敗として初代チャンピオンに輝いた。

試合後、監督を胴上げする北京ナイン
試合後、監督を胴上げする北京ナイン

仕切りなおした中国プロ野球

 中国には、かつてCBL(China Baseball League)という「プロ野球」が存在した。2008年北京オリンピックの開催が決まり、当時正式競技だった野球の出場枠が与えられたのに伴って、ナショナルチーム強化のため、国内アマチュアの強豪チームを格上げし、2002年にトップリーグを結成し、発足したリーグである。

 当時、日本でも「プロ野球」と報じられ、2005年に始まったアジアのプロ野球リーグのチャンピオンによる選手権大会、「アジアシリーズ」にも出場していた。しかし、このリーグは、五輪終了後、その存在意義を失い急速に規模を縮小していき、中断を繰り返した上、昨年は12月に温暖な南部・広州に加盟6チームが集まって1回総当たりのリーグ戦と順位決定戦を実施しただけに終わってしまった。

 それを仕切りなおすべく、今年新たに結成されたのがCNBLである。前身リーグがあいまいにしていた「プロリーグ」であることを明確に打ち出し、各球団には将来的な独立採算を求め、これに応じた旧リーグの北京、天津、江蘇、広東の4球団が8月半ばに始まった各チーム36試合のレギュラーシーズンを争い、首位の北京と2位の江蘇が10月16日からの決勝シリーズに進むことになった。

レギュラーシーズンは北京と江蘇の一騎打ちとなった
レギュラーシーズンは北京と江蘇の一騎打ちとなった

中国野球の現状

 5戦3勝制の決勝シリーズは当初、日本シリーズと同じ10月19日に2位チームの江蘇ヒュージホースの本拠、無錫で始まる予定だった。予定では、最初の週末2連戦を無錫で実施した後、26日から最大3連戦を北京にてすべてナイトゲームで実施ということだったが、この時期の北京は日のよっては朝夕の気温が5前後まで冷え込むことがあり、リーグ当局は、順位決定後、即座に日程の変更を検討、10月21日までにシリーズを終わらせることにした。

 こちらも、この変更には振り回された。事前に取っていた無錫にほど近い上海までのフライトはキャンセルできず、上海到着後、その足で夜行列車で北京に向かう羽目になったのだ。

北京・芦城運動学校野球場
北京・芦城運動学校野球場

 北京タイガースの本拠、芦城球場は、北京市南郊の体育大学の施設で、市中心から30キロも離れている。現在では地下鉄が近くまで通り、バスを乗り継いで、1時間半ほどでたどり着くことができるが、地下鉄がなかった旧リーグ発足当初は、公共の交通機関ではとてもではないが、気軽に観戦に訪れることができる場所ではなかった。

 バスを降りて、大学の門をくぐると、シリーズ開催を告げるアーチ門がところどころに見られる。構内を進んで行くと、野球場が2面あり、小さい方のフィールドでは中学生の大会が行われていた。我々が思う以上に中国では野球が行われており、駐在員など在住日本人が中心にあって軟式野球のリーグ戦も行われているという。

桟敷席は満員となった
桟敷席は満員となった

 大きい方のメイン球場がタイガースのホームグラウンドなのだが、この球場は元来大学の練習施設なので、スタンドはない。ネット裏から1,3塁ベースにかけてテントが張られ、ホームチーム北京のベンチのある3塁側に貴賓席、1塁側が記者席となっている。そしてロッカールームと一体化した両軍のダグアウトがそれに連なり、その先にある桟敷席がチケットを買ったファンが座る席となっている。こちらは試合が始まると1,3塁側ともほぼ満席となっていた。さらにその奥に両軍のブルペンがあり、その先、外野フェンスにかけても桟敷が設けられている。こちらにはほとんど観客はおらず、ライト側の桟敷には、隣のフィールドの試合を終えた中学生たちが、チケットを持ってるのか、持っていないのか、試合途中からなだれ込んできた。

 決勝シリーズらしく、試合前のセレモニーが行われ、その後試合は開始された。この試合は、シリーズの行方によって開催されるかどうかは事前にわからなかったが、確実に開催されることがわかっていた第3戦には、中国バスケットボール界のレジェンド、元NBA選手のヤオ・ミンがセレモニーに駆け付けていた。

北京が圧勝で優勝を決める

 試合は終止、北京ペースで進んで行った。

北京の先発、斉は完封で優勝を決めた
北京の先発、斉は完封で優勝を決めた

 北京先発の22歳の右腕、斉シン(「金」が3つ)が初回を3者凡退に抑えると、その裏、北京は早速、日本に留学経験のある1番梁培と2番王キ(すきへんに子)棋が連続で一塁線を破る三塁打を放ち先制。この回、もう1点を加え、そのまま北京が2点リードのまま終盤に突入する。そして7回裏に3点を追加した北京は、疲れを見せ始めた斉を育てる意味もありそのまま続投、斉は江蘇打線がボールに手を出してくれたのにも助けられ、6安打完封で投げ切った。

MVPの表彰を受ける斉
MVPの表彰を受ける斉

 試合後には、表彰式が行われた。シリーズMVPはもちろん胴上げ投手の斉。ストレートの威力はさほど感じなかったが、大きく縦に割れるカーブが、決まったことが適度に荒れたストレートを江蘇打線に振らせる結果となり、最後はバテ気味ではあったものの、完封につながった。

シャンパンファイトで優勝を祝う
シャンパンファイトで優勝を祝う

 セレモニーの後は、ささやかながらもシャンパンファイトに続き、ケーキが運び込まれ、MVPになった斉をはじめとするナインがクリームまみれになっていた。セレモニー後は、それを見届けてくれたファンにもフィールドが解放され、選手との交流を楽しんでいた。

 この試合を中国人の友人に連れてきてもらい観戦していたという、北京在住のアメリカ人の「カレッジ・レベル」の言葉通り、日本や台湾から指導者や選手を招聘しながらも、そのプレーレベルはいまだ大学の地方リーグ中堅クラスといったところだろう。このシリーズでさえ、観客はおそらく500人ほどでまだまだスペクテイタースポーツとしては道遠しの感がある。北京球団には、新リーグ発足にあわせて親会社がついたが、その予算の多くは、プロモーションに費やされている段階だ。

 ようやく本格的にスタートを切った中国プロ野球。まだまだよちよち歩きの感があるが、日本のアニメから野球を知ったという女性ファンも増加してきている。このリーグが、サッカースーパーリーグのような成長を遂げれば、アジアの野球勢力図は大きく塗り替えられるだろう。

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(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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