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フランチャイズ県内いたるところで巡業を行う独立リーグ:新潟アルビレックスBC、桜の名所で雪山を望む

阿佐智ベースボールジャーナリスト
こどもの日に行われた新潟県上越市でのルートインBCリーグ公式戦

 現在、ルートインBCリーグは11球団から成り立っている。2007年の創設当時は4球団だったことを考えると、この13年で急速に拡大を遂げたと言える。その中でも、リーグを引っ張っている存在と言えるのが、新潟アルビレックスBCだろう。リーグ創設時から地道な地域密着策を進め、観客動員は常に独立リーグトップクラスを保っている。昨シーズンも、村田修一(現巨人コーチ)をはじめとする元プロ(NPB)選手を集めた栃木ゴールデンブレーブスに次ぐ観客動員(1試合平均947人)を誇った。5月5日のこどもの日も、新潟アルビレックスは、埼玉武蔵ヒートベアーズを上越市高田公園野球場に迎えて行った公式戦に1207人のファンを集めた。

こどもの日とあって、スタンドは多くの観客でにぎわっていた
こどもの日とあって、スタンドは多くの観客でにぎわっていた

全県をフランチャイズとする日本の独立リーグ

 プロ野球球団と言えば、特定の町にフランチャイズを置き、原則的にすべてのホームゲームを本拠地球場で行うのが常である。これは全世界に共通のことで、これによりチームはフランチャイズに固定ファンを確保し、ビジターゲームでは旅から旅の日々を送る選手たちもホームゲームの間はある程度体を休めることができる。

 しかし、日本の独立リーグの場合、特定の町ではなく、都道府県単位でフランチャイズを設定し、本拠とする県内各地で取材試合を行う。これは元から意図していたものというよりは、試合会場の確保という現実の前に結果としてそうなったという色彩が強い。

 独立リーグは日本の野球界において「新参者」。全国各地の野球場のスケジュールは、高校野球や社会人野球、それに市民の一般開放での使用予定で埋まっているのが現状である。いわゆるプロ野球、NPB球団さえ、地方ゲームの開催にはアマチュアの予定に配慮しなければならないという中、独立リーグという「新参者」が半年の間、特定の球場を占有することなどできようもない。その結果、独立リーグ各球団はフランチャイズの県内各地の球場を転戦することになった。

 今シーズンの新潟アルビレックスの場合、36試合のホームゲームのうち、球団事務所を置いている県内一の施設、県都新潟市のHARD OFF ECOスタジアム(エコスタ)と、チームが拠点を置く県内第2の都市、長岡の悠久山球場で各9試合を消化するが、その他の試合は県内各地を巡業し、計14球場で主催試合を予定している。

 他の独立リーグ球団もおおむね同じようなかたちで主催試合を行っているが、このことは集客という面では決してマイナスには作用していないだろう。どんな小さな町にもマイナーリーグのチームがあり、「生観戦」という習慣が根付いているアメリカとは違い、「メジャーリーグ」であるNPBの一軍が地方試合を開催する日本においては、独立リーグの現状を考えれば、同一の球場で30試合以上を行いリピーターをあてにするよりは、フランチャイズ県内を巡業し、年数回だからと足を運ぶ観客を集める方が現実的であろうし、ファンの拡大にもつながる。

 実際、エコスタでの試合は賃料の関係もあり収支的にはなかなか黒字は難しい。それでも「新潟県の球団」としてここを使う理由を球団社長の池田拓史はこう言う。

「やはり、県内一の施設というステイタスは大きいです。新潟の球団が県内一の施設を使わないわけにはいかないですから。しかし、立派な施設である分、賃料もそれなりにかかります。その試合単体で収支バランスをとるのは難しいですが、やっぱり新潟市は人口も多いので集客も見込めます。他では2000、3000人という動員はなかなか難しいです。スポンサー集めのことを考えると、全体の動員数を挙げてくれるエコスタの存在は大きいです。一方で、地元商工会の後押しや、賃料を優遇してくれる町もありますから。我々としては全体のバランスを考えながら、県内全域で試合を開催できればと思っています」

桜と雪山が望める「お城のスタジアム」

スタンドからは残雪をいただいた名峰・妙高山を望める
スタンドからは残雪をいただいた名峰・妙高山を望める

 この日、5月5日の試合も、1000人超のファンが高田球場に足を運んだ。ゴールデンウィーク中とあって、チームを追いかけてやってきた地元ファンに加えて、関東から応援に駆け付けた相手チーム・埼玉武蔵ヒートベアーズの応援団もスタンドには陣取り、活気にあふれたスタンドとなった。

 ここ高田と言えば、日本3大夜桜で有名である。球場はその桜の名所である高田城跡の公園の一角にある。この時期、すでに桜は散っていたが、内野スタンドからはスコアボード越しに名峰・妙高山が望める。この雄大な景色の中、球場に訪れたファンは野球観戦を楽しんでいた。

繰り広げられる熱戦

新潟先発の小野
新潟先発の小野

 試合の方だが、武蔵が新潟先発・小野竜生(大阪体大・2年目)の立ち上がりをとらえ、初回に1点を先制、新潟の方もその裏、2アウトから武蔵・先発のルーキー清水洋炳(桐蔭横浜大)を満塁に追い込んだが、得点できず。武蔵はこの後、清水を早々にあきらめ、2回からリリーフを送るなど早めの継投で投手6人をつぎ込む継投策に出た。この継投策の前に新潟は13残塁と打線が決め手に欠き、8回裏にここまで9試合に登板し、無失点の新外国人タピア(レイズ傘下)から2点を奪い同点に追いつくも、ここでも決勝のランナーを返せず、スタンドのファンを喜ばせることができなかった。

 結局、試合はリーグの規定時間が過ぎたため、9回で3対3の引き分けに終わった。

クローザーにタピアを送り万全のリリーフを用意した武蔵だったが
クローザーにタピアを送り万全のリリーフを用意した武蔵だったが

 BCリーグは、NPBが試合を行わない地方都市の小さな球場でも試合を行う。そういう球場の中には、田舎という立地条件ゆえ、スタンドから絶景を楽しめる球場も多い。この高田球場もそういう球場のひとつだろう。ドーム球場全盛の日本にあって、若い選手の懸命なプレーとスタンドからの絶景を観に独立リーグ観戦はいかがだろうか。

 連休最終日の今日、BCリーグは5会場で公式戦を行う。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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