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中米グアテマラにプロ野球ウィンターリーグ誕生

阿佐智ベースボールジャーナリスト
グアテマラシティで行われたLGB開幕戦

 1990年代以降、様々なスポーツにおいてプロ化が進んでいる。社会主義の崩壊により、それまでアマチュアのトップレベルを支えてきた「ステート・アマ」が消滅し(キューバなど一部の国では体制とともに残ってはいるが)、日本などでは実業団スポーツを支えてきた大企業が、グローバル化の下での国際競争にさらされるようになったことから、これを手放すことが増え、さらにはアスリート自身もより良い競技環境と、自らの能力に見合った報酬を求めてプロ契約の道を選ぶようになったことがその背景にあるだろう。

 また、サッカーや野球などの団体球技においては、より安価な労働力としてのアスリートと新たなマーケットを求めて、ビッグ・ビジネスと化した欧州やアメリカの球団が、スカウティング網を地球規模に拡大した結果、世界の様々なところに、「育成リーグ」とでも呼ぶべき、競技レベルのさほど高くはない小規模のプロリーグが誕生してきた。

 野球で言えば、1990年代半ば以降、アメリカで独立リーグが勃興すると、2005年には日本、2017年には韓国にこれが誕生し、「プロ」のプレーレベルの下限はどんどん下がっている。それに比例して報酬の下限も下がる一方で、20年前は最低ランクで月800$ほどだったアメリカプロ野球の報酬は、現在では新興独立リーグで月200$まで落ち、日韓の独立リーグでは無報酬と、もはや「プロ」を名乗るべきでないような状況になっている。

 それでも、世界中の若きベースボーラーたちは、メジャーリーグや日本のプロ野球(NPB)などで「スポーツセレブ」となることを夢見て、そういう最底辺のプロリーグに身を投じる。とりわけ、途上国の選手にとっては、仮にトップリーグの舞台に立てなくとも、アメリカや日本に渡れば母国で働くよりは格段にいいギャラを手にすることができるとあって、「とにかく先進国でプレーしたい」という選手を集めた新興リーグが次々と生まれている。

 中央アメリカでは、1993年にコロンビアでウィンターリーグが復活すると、2004年にはニカラグア、2011年にはパナマでも復活、近年は、アメリカのマイナーリーガーが、オフに試合経験を積むため母国に帰り、ホンジュラスやエルサルバドルの国内リーグでプレーするようにもなった。中米と言えば、サッカーのテリトリーと思われがちだが、野球も我々が思っている以上に盛んに行われている。

開幕を前に行われた記者会見の様子
開幕を前に行われた記者会見の様子

 そして、今回、グアテマラにプロ野球リーグが発足することになった。中米に位置するこの国と野球は、なかなか結び付かないが、かつてチアパス(現メキシコ領)などを領有していたこの国は、1940年代までは野球人気がサッカーを凌駕していたというメキシコの影響を受けてか、野球が行われ、メキシコとの対抗戦も実施されている。

 ずいぶん昔のことになるが、1998年のメキシカンリーグで、メキシコ南部・タバスコ州のチーム、オルメカスを応援するため、グアテマラのファンが、わざわざメキシコシティの球場までやってきていたのを目にしたことがある。亀の甲羅を太鼓がわりに踊る民俗の祭典を再現したという応援スタイルが非常に印象に残っている。

 メキシコの南ということで、野球は古くから定着し、現在では、他国のリーグでプレーする選手もいる国にもプロ野球リーグがついにできたのだ。「リガ・プロフェシオナル・デ・ベイスボル・デ・グアテマラ(LGB)」と名付けられたこのリーグは、資本金80万ケッツァル(約1200万円)で始められるという。リーグ当局は、このリーグの発足により、150人のスタッフが雇用されるという。しかしながら、この規模は、日本の独立リーグをはるかに下回る。選手の報酬は月額300~500$というから、アメリカの底辺独立リーグ並みと言っていいだろう。この国のひとり当たりのGDPが7300$ほどであることを考えると、地元グアテマラ人にとっても、その報酬は低い。入場料は20ケッツァル(300円)~ケッツァル75(1100円)というから、プレーレベルに比例していると言える。

記者会見では各チームのユニフォームもお披露目された
記者会見では各チームのユニフォームもお披露目された

 スカウティングはシーズン前にトライアウトを実施した上で、国内ドラフトを行い各チーム16人を確保、その後、他のラテンアメリカ諸国を中心に外国人選手を集めた。

 開幕は他のウィンターリーグより早く、9月21日、11月いっぱいまで4チームによるチーム当たり26試合のレギュラーシーズンを行い、12月1日から8日にプレーオフ、その後決勝シリーズを行う予定だという。ムニシパル、ロボス、プーマス、マーベリックスの4チームが首都グアテマラシティのエスタディオ・エンリケ・トラポ・トレビアルテで、シ週末3連戦を変則ダブルヘッダーとして実施する。

 リーグの規模的には、日本の独立リーグより小さいとみていいだろう。プレーレベルも同様で、日本の独立リーグや以下、アメリカで言えばルーキー級の上位リーグ、もしくは経営の不安定な底辺独立リーグと同等(アメリカの独立リーグは4大リーグと呼ばれるアトランティック、アメリカンアソシエーション、カンナム、フロンティアが安定して運営を続け、残りのリーグは報酬、プレーレベルとも低く、経営も安定していない)と思われる。

選手たちは、試合前、チームの勝利とともにリーグの繁栄も誓い合った
選手たちは、試合前、チームの勝利とともにリーグの繁栄も誓い合った

 9月末開幕とあって、おそらくは主力となるであろう外国人選手に、メキシカンリーグやメジャー傘下のマイナーのプロスペクトを獲得することは困難だろう。実際、「助っ人」の陣容をみると、近年ドミニカに発足した、ウィンターリーグやMLB傘下のアカデミーによるルーキーリーグとは別の独立系サマーリーグに参加していた選手を多数スカウトしているようである。この中には、日本でプレー経験のある選手もおり、昨年、ルートインBCリーグの福島ホープスで4試合に登板し、勝敗なしの防御率7.36という数字を残したラミレ・クレート投手は、ロボス(ウルブズ)と契約を結んでいる。彼は、2011年から16年にマリナーズのマイナーでプレーした経験をもっているが、最高レベルがA級で、ルーキー級ドミニカンサマーリーグからのキャリア合計で67試合15勝12敗という成績しか挙げていない。

記念すべきリーグ開幕戦を制したロボスのメンバーたち
記念すべきリーグ開幕戦を制したロボスのメンバーたち

 また、日本野球がらみと言えば、もうひとり、同じくBCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスで2011年シーズンを送ったダニー・ヘルナンデスもプーマスの一員として参加している。彼が日本の独立リーグで残した成績は4勝2敗1S防御率3.74という平凡なもの。アメリカでは、ツインズ傘下のルーキー級とシングルA級で5シーズン通算4勝5敗防御率5.93、メジャーリーガーもプレーする母国ベネズエラのウィンターリーグでは2シーズンしかプレーすることなく、計8試合の登板で勝ち星なしの2敗、防御率6.75に終わっている。

 この他の選手も、アメリカの底辺独立リーグである選手の月給が200$というエンパイア・リーグやメジャー球団のドミニカアカデミーのチームからなるドミニカンサマーリーグの選手が多い。

日本でもプレーしたマニー・エルナンデスも在籍するプーマス
日本でもプレーしたマニー・エルナンデスも在籍するプーマス

 現在、ラテンアメリカのウィンターリーグの強豪によるチャンピオンシップ、カリビアンシリーズに参加していないコロンビア、ニカラグア、パナマは、メキシコの独立リーグ、ベラクルスリーグなどとともにラテンアメリカシリーズを開催しているが、LGBはこれにも参加の意向をもっている。これらのリーグは、資金的にも厳しい状況でリーグ戦のキャンセルや縮小、国際シリーズへの参加取りやめなどは頻繁に起こっている。LGBもまだよちよち歩きのプロリーグであるが、グアテマラの地にプロ野球が根付くことを願って止まない。

リーグ開幕戦をプーマスと戦ったマーベリックス
リーグ開幕戦をプーマスと戦ったマーベリックス

(写真は全てLiga Profesional de Beisbol de Guatemala提供)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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