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「冷やしドーム」ならぬ「夏野球」。オリックス・バファローズの鍛錬の場、舞洲

阿佐智ベースボールジャーナリスト
オリックス・バファローズ二軍の本拠地、舞洲バファローズスタジアム

 とにかくこの夏は、「猛暑、ハンパねぇ!」。高校野球では、生徒の応援自粛騒動が呼びかけられるなど、この時期の日中の野球観戦には、相当の準備と覚悟が必要になってきている。しかし、野球ファンの中には、フィールドの選手と暑さを共有する「夏野球」に魅力を感じる人がいるのも確かだ。日本が「亜熱帯化」している中、真夏のゲーム実施については、今後、議論が重ねられてゆくだろうが、ある意味、夏の午後、ゲームを行い、それを観戦するのは、野球の原初的風景とも言える。

 一方で、真夏の夜、キンキンに冷えたビール片手にナイター観戦を選ぶファンも多い。とくに集客を目的として行われているプロ野球では、ナイトゲームが当たり前で、この記録的猛暑の中、ボールパークブームでなにかと批判の対象となっていたドーム球場が、その存在価値を改めてアピールしている感がある。冷房の効いたスタンドでの観戦が心地いいことは間違いないだろう。

 西の雄、阪神タイガースの圧倒的集客力に負けじと様々な企画を打ち上げるオリックス・バファローズは、この夏、本拠京セラドーム大阪を「冷やしドーム」と称して、ドームならではの「涼しい観戦」を後押しする企画を実施している。しかし、これは一軍の話。昨年、神戸から移転したファームは、高校野球と同じく、猛暑の中、プレーしている。

プロ野球と言えども、ファームは灼熱の中、プレーしている
プロ野球と言えども、ファームは灼熱の中、プレーしている

オリックス二軍の新本拠地、その名も「バファローズスタジアム」

大阪ベイエリアの人工島にあるバファローズスタジアム
大阪ベイエリアの人工島にあるバファローズスタジアム

 大阪の高校野球のメッカ、舞洲(まいしま)・大阪シティ信用金庫スタジアム(シティ信金スタジアム)。決勝戦ともなると、1万人収容のスタンドは満員となり、帰りはこの人工島を出るためのバスは1時間待ちという状況になる。そのスタジアムの横にもうひとつ、こじんまりとした球場がある。その名もバファローズスタジアム。昨シーズン、オリックスがファームの本拠地として新造した球場だ。

 2004年オフの球団合併後、オリックス球団はそれまでのフランチャイズであった神戸から潜在的マーケットの大きい大阪への移転を順次進めてきた。そして2016年オフ、最後に残った二軍のホーム球場と選手寮の大阪移転を決定、スポーツ施設の揃う舞洲に寮を建て、シティ信金スタジアムをファームの本拠にすることとした。

 しかし、先述のようにシティ信金スタジアムは、大阪の高校野球のメイン球場となっている。野球どころ大阪だが、球場不足は深刻で、一時期は、夏の高校野球予選を隣県で行うこともあったくらいだ。そこにプロ球団が乗り込んできて専用球場に使用するには無理があると、寮に隣接するかたちで新球場を建てたのだ。

 新球場と言っても、限られた敷地の中にある本当にこじんまりとした施設で、ネット裏だけにあるスタンドの収容人数は500。アメリカのマイナーリーグで言えば、興行を行うリーグとしては最下層のアドバンスルーキー級の規模だ。収容500人と言うが、実際はその半分も入れば満員に見える。

 オリックス球団はここ数年、ファンの草の根を広げるべく、府内各地でファームの試合を実施している。その甲斐あって、各球場は札止めも出る盛況となっている。また、近年のスタジアムでの生観戦志向は、ファームレベルにまで及び、二軍の試合と言えども、ほぼ無人の中でプレーするようなことはなくなっている。この二軍本拠も同様で、この小さいスタンドは、週末ともなれば札止めは珍しいことではない。取材したこの日も、平日のデーゲームでありながら、対戦相手が人気チーム、広島とあって、開門前から多くのファンが列を作っていた。

ファームならでは。選手を間近に感じることのできる仕掛け

試合前には、一塁側の特別スペースからフィールドを見ることができる。写真撮影やサインゲットの便宜を考えて、フェンスの一部がこの時ばかりはとり外される
試合前には、一塁側の特別スペースからフィールドを見ることができる。写真撮影やサインゲットの便宜を考えて、フェンスの一部がこの時ばかりはとり外される

 開門とともに、ファンはスタンドになだれ込み、席を確保。半分の入りとあって、それなりの賑わいであるが、周囲との間隔もほどなくとれるいい塩梅の入りだ。ちなみに、満員想定では一人当たりの席の幅は40センチ想定というから、真夏のデーゲームでの満席だとかなりきついだろう。

 それでも、入場料1000円を払えば、一軍の試合ではなかなか陣取れないネット裏から、まさに手の届きそうな距離でじっくりとプレーを見ることができる。

 入場後、席を確保したファンは、一塁側ベンチ後方の通路を通って、フィールドレベルにある柵に囲まれたスペースに急ぐ。このスペースは、三塁側ではブルペンとなっているのだが、一塁側はブルペンをさらにポール側にずらせ、空いたスペースを試合前にファンが練習を見る場として公開している。試合中は、カメラマン席となるこのフィールドレベルからの景色にファンは大興奮。開門直後にちょうどオリックスのウォームアップが始まったこともあり、フェンス際に陣取ったファンの目の前にユニフォーム姿の選手が団体で現れ、ファンのボルテージは上がるばかりだ。

でも、やっぱり暑い!

 ここでナイターなんていいじゃないかと思うのだが、この球場には残念ながら照明設備はない。ナイター照明のあるのは、三塁側後方にそびえるメイン球場であるシティ信金スタジアムだけで、オリックス二軍は、移転2年目の今年になってようやくそこで2試合を薄暮ゲームで行うようになったのみである(他デーゲーム2試合)。だから舞洲での夏の観戦は、かなり気合が要るものとなる。

 バファローズスタジアムは、スタンド下も基本冷房はなく、通路は蒸し風呂状態。関係者が使うメイン入り口前に扇風機が2台置かれているだけだ。

 試合前、アップを終えた元気者・宮崎祐樹選手が、「暑い、暑い」叫びながらやって来、頭を扇風機の前にかざして涼をとっていた。

「やっぱり暑いのは堪えますよ」

と言う宮崎に、「そう思うと早く一軍に昇格したいでしょ」と返すと、「その通りです」と笑いながらロッカールームに消えていった。宮崎も31歳、そろそろベテランと言っていい年齢に暑さはよほど身に堪えるのか、この直後に彼は見事一軍行きを果たし、今は「冷やしドーム」でプレーしている。

「元気印」、宮崎祐樹。この暑さはたまらんとばかり、この直後、一軍昇格を果たした
「元気印」、宮崎祐樹。この暑さはたまらんとばかり、この直後、一軍昇格を果たした

酷暑の中、躍動する役者たち

 この取材をしたのは7月初めである。対戦相手は広島。人気チームとあって早くから赤いユニフォームに身を包んだ熱心なカープファンが、「オリ達、オリ姫」に交じって球場に足を運んでいた。酷暑の中の観戦は、なかなか大変だっただろうが、二軍戦とは言え、両軍にはなかなかの役者がそろっていた。

 広島では、主砲エルドレッドが「俺のパワーが必要な時が来るよ」と3番指名打者でラインナップに名を連ねていたほか、安部、天谷と「一軍クラス」が捲土重来を期して灼熱の太陽の下、フィールドに現れた。試合途中からは、期待のドラ1ルーキー中村奨成が登場、9回に胃ガンからの復活を目指す赤松が代走で起用されると、この日一番の拍手がスタンドから送られた。

 そしてオリックスには、かつてのローテーションの柱、松葉に、今年ブレイクしたはずの宗佑磨が、再び檜舞台に立つべくフィールドで躍動していた。開幕から一軍の一番打者として期待されていながら、大振りで粗さが目立ち、ややもすれば役割を分かっていないと非難を浴びていた宗だが、この日は、安打を含め三遊間方向に鋭い打球を放っていた。それでも試合後に話を聞くと、「とくに流そうとは思っていない。今日はたまたまそういう場面だったんでそちらを狙っただけ。思い切りという自分の良さはこれからも生かしていく」とあくまで、自分のスタイルを貫く姿勢をみせた。宗はこの後、一軍へ再昇格するも、左手の指の骨折のため再び一軍登録を抹消されている。

この直後、一軍再昇格を果たした宗だったが
この直後、一軍再昇格を果たした宗だったが

 今日から甲子園の高校野球も始まり、プロ野球のペナントレースも大詰めを迎える。この夏休み、そんな「夏野球」の楽しみの中にファーム戦も加えるのもいいかもしれない。

猛暑の中、バファローズスタジアムに足を運ぶ熱心なファン
猛暑の中、バファローズスタジアムに足を運ぶ熱心なファン

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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