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メジャーリーグ前半戦を振り返って。久々の日本人スラッガー活躍への期待

阿佐智ベースボールジャーナリスト
大谷が打者として常時出場すれば、歴代ナンバーワンの日本人スラッガーになるだろう(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 海の向こうのメジャーリーグもオールスターゲームを終え、後半戦がスタートする。日本にいる我々には、日本人メジャーリーガーの活躍が大きく報道されているが、実際のところ、アメリカでの日本人選手のインパクトは、ここ数年、現地ではそれほど大きなものではなかった。もう5年前のことになるが、取材旅行中、当時メッツに在籍していた松坂大輔が先発するというので、予定を変えてシティフィールドに足を運んだ。しかし、ニューヨーカーにとっては、この試合も、特に注目すべきものではないようで、スタンドを埋めた満員の観客の多くは、試合そのものより、今や巨大なフードコートと化したコンコースでの食事や歓談に夢中になっていた。翌年限りでメジャーのマウンドから去ることになる日本球界のレジェンドの存在感はこの程度であった。

2013年シーズン、メジャーでプレーしたものの、シーズンの大半を3Aフレズノで過ごした田中賢介(現日本ハム)
2013年シーズン、メジャーでプレーしたものの、シーズンの大半を3Aフレズノで過ごした田中賢介(現日本ハム)

 その2013年、松坂のほか、黒田博樹、イチロー(ともにヤンキース)、上原浩治、田澤純一(ともにレッドソックス)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)、藤川球児(カブス)、青木宣親(ブリュワーズ)、川崎宗則(ブルージェイズ)、岩隈久志(マリナーズ)、岡島秀樹(アスレチックス)、高橋尚成(ロッキーズ)、田中賢介(ジャイアンツ)の13人の日本人選手がメジャーの舞台に立った。この数字を見て、大方の野球ファンは、「そんなにいたっけ」と感じるのではないか。実際、この年主力として活躍した選手となると、黒田、上原、岩隈、ダルビッシュ、田澤、イチロー、青木の7人と半減する。とくに野手は2人だけだ。ファンの印象としても、歴代の日本人メジャーリーガーの成功者と言えば、投手の名はすぐに何人か出てくるだろうが、野手はイチロー、松井秀喜以外にはなかなか思い浮かばないのではないか。

 このシーズン、私は田中と岡島に話を聞いたが、ともにその場所はマイナーのスタジアムだった。岡島がプレーしていた3Aサクラメントには中島裕之も在籍していた。メジャー契約でこの年アスレチックスに入団した中島だったが、結局1度もメジャーの舞台に立つことなく、翌年限りで日本球界に復帰し、オリックスに入団している。当時、それぞれアスレチックスとジャイアンツの3Aにいた中島、そして田中のふたりだが、彼らはそこでも常時出場というわけでもなかった。パワー重視のアメリカで日本人野手が生き残っていく厳しさがその姿に現れていた。

鳴り物入りでアスレチックス入りしたが、結局メジャーでのプレーは叶わなかった中島裕之
鳴り物入りでアスレチックス入りしたが、結局メジャーでのプレーは叶わなかった中島裕之

 あれから5年、先にあげた13人のうち、現在もメジャーの舞台に残っているのはカブスに移籍したダルビッシュただひとり、上原、松坂、青木、田中の4人は日本で現役を続け、岩隈はマイナー契約をマリナーズと結んだものの、いまだリハビリ途中で、復帰のめどは立っていない。そして、イチローの「今シーズンはもうプレーしない」宣言は、日本のメジャーファンにとって、前半戦最大のニュースだったと言っていいだろう。「終身雇用」が約束されていたはずのマーリンズが、オーナー変更により「若返り」に方針転換、お家芸とも言えるファイヤーセールを行ったあおりを受けて、退団を余儀なくされた上、ここ数年の不振から、なかなか所属が決まらなかった。ようやく開幕直前に古巣マリナーズに復帰が決まり、開幕戦のスタメンにも名を連ねたが、やはりイチローと言えども年齢には勝てなかったのか、5月3日、15試合で9安打、打率.205という往時を知るものにとっては信じられないような数字のまま「会長付特別補佐」という肩書で球団フロントに入ることになった。それでもイチローは、いまだ「現役続行」を宣言し、チームに帯同している。川崎も「師匠」、イチローをまねたわけではないだろうが、昨年復帰したソフトバンクと契約をせず、かといって引退を表明するわけでもない状態でいる。

 今年の日本人メジャーリーガーは、先のダルビッシュのほか、田中将大(ヤンキース)、前田健太(ドジャース)、平野佳寿(ダイヤモンドバックス)、牧田和久(パドレス)、そして大谷翔平(エンゼルス)の6人。イチローの登録抹消でついに野手はいなくなってしまった。そして現在マイナーにいる牧田以外の5人は、チームでは主戦級として活躍している。ただし、ダルビッシュはここまで1勝3敗、防御率4.95と本来の力を出せていない。現在は、右肘の炎症で故障者リスト入りしている。

 その一方、田中と前田は、ローテションの柱としての役割を全うしている。メジャー移籍の2014年以来、4年連続2ケタ勝利をマークしている田中は、防御率こそ4.54と芳しくないが、ここまで7勝2敗。5年連続の2ケタ勝利は間違いないだろう。田中同様メジャー移籍以来2年連続2ケタ勝利の前田も、前半戦で7勝5敗、防御率3.21。そして、オリックスから新加入の平野は、ここまでチーム2位の46試合に登板し、21ホールド。今やすっかりダイヤモンドバックスのセットアッパーの地位を確立している。

 こうなってくると、日本人を獲るなら投手、野手は力不足、という言説はメジャーの中でますます高まってくるだろう。しかし、皮肉なことに、大谷の故障が、久々の日本人スラッガーをメジャーに誕生させることになるのではないかと私は思っている。

 メジャーでも二刀流を掲げて鳴り物入りでエンゼルスに入団した大谷だが、オープン戦での不振からくる不安説を開幕以降一掃してしまった。開幕戦のラインナップに名を連ねると、初打席で早速結果を出し、同じカードの3戦目には投手として先発、こともなげに初勝利を挙げた。そして次のカードの本拠地初戦でホームランを放ち、地元ファンのハートをしっかり掴んでしまった。しかし、周知のとおり、6月8日の登板時に右肘の靭帯を損傷し、ひと月近く故障者リスト入りしてしまった。

 大谷の前半戦の成績は、投手として9試合に登板、49回1/3を投げ、4勝1敗、防御率3.10、打者としては、54試合に出場、138打数39安打で打率.283、ホームラン7本、22打点であった。私個人としては、一度でいいから規定投球回数と規定打席数をクリアして、二刀流を完成させてほしいが、今年に関しては、エンゼルスも慎重に起用するだろうし、将来的にも、やはりそこまでは難しいのではないかと思う。

 投手としての復帰のめどはいまだ立っていないようなので、当面は打者での起用となるが、故障明け以降、フル出場は少なく、代打での起用が多い。チームは投手としての復帰の可能性も探っているようだが、今年に関しては、打者としてレギュラー起用してはどうかと思う。マウンド姿も魅力ではあるのだが、彼の打撃力を見ていると、あの松井秀喜を超える活躍をする可能性を感じてしまう。彼にはメジャーを代表するスラッガーになるポテンシャルが十分にある。メジャーに埋め込まれてしまった日本人選手に対するある種の固定観念を打ち破るためにも、大谷翔平には、スラッガーとしての姿を見せつけてもらいたい。松井のメジャー1年目のホームラン数は16本。打者としてこれから出ずっぱりなら、この数字は簡単にクリアできるだろう。

(本文中の写真は、ともに筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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