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オーストラリアウィンターリーグ・ABLファイナル終了。代表チームは3月に侍ジャパンと強化試合

阿佐智ベースボールジャーナリスト
ABL決勝シリーズ。満員に膨れ上がったキャンベラの球場

 11日、オーストラリアのウィンターリーグ、オーストラリアン・ベースボールリーグ(ABL)のファイナルシリーズが幕を閉じ、今シーズンの冬のプロ野球はすべて終了した。カリビアンシリーズと同じく、シーズン終了後、所属選手は各々夏の働き場所を求めて北半球へ旅立つが、その前に彼らはナショナルチームを組み、侍ジャパンとのテストマッチに臨む。2020年の東京オリンピックに向けてオーストラリア野球連盟は強化を急いでいるが、選手たちにとっては、このテストマッチは、もうひとつ、「就活」の場という重要な意味をもつ。

国際性豊かなABL。ドイツ人初のメジャーリーガー、ドナルド・ルッツもバンディッツの一員だ。
国際性豊かなABL。ドイツ人初のメジャーリーガー、ドナルド・ルッツもバンディッツの一員だ。

オーストラリアのウィンターリーグ、ABL

 2010年に発足したこのリーグは6球団制。上位4チームがポストシーズンに進出し、1位対4位と2位対3位の対戦の勝者がファイナルシリーズに進む。

 今年のファイナルシリーズは、ここ2シーズン優勝のブリスベン・バンディッツとキャンベラ・キャバルリーとの間で争われ、最終の第3戦を制したブリスベンが3連覇を果たした。ちなみにブリスベンには、年明けの一時期だが、日本ハムファイターズの杉谷拳士が参加していた。

 ブリスベンの監督はデーブ・ニルソン。2000年のシドニーオリンピックに出場するため、メジャー契約を蹴って中日入りしたディンゴの名で覚えている人も多いだろう。日本では思うような活躍ができなかったが、銀メダルを取った2004年のアテネオリンピックの時は、そのうっぷんを晴らすかのように「長嶋ジャパン」を苦しめた。

ブリスベン・バンディッツの監督を長らく務めるディンゴことデーブ・ニルソン
ブリスベン・バンディッツの監督を長らく務めるディンゴことデーブ・ニルソン

ファイナルシリーズで活躍した元助っ人たち

かつて楽天に在籍したブラックリーもまだまだ現役でプレーを続けている。
かつて楽天に在籍したブラックリーもまだまだ現役でプレーを続けている。

 1勝1敗の後の最終戦、ブリスベンが先発投手として送ったのは、トラビス・ブラックリー。2014年シーズンを楽天で送った左腕だ。

 日本の一軍ではたった3度の先発マウンドで1勝2敗防御率5.54と、腕いっぱいに彫り刻まれたタトゥーくらいしか印象に残らなかったが、かつてはメジャーの舞台にも立ち、4シーズンで9勝を挙げている。

 5か国でプレーするなど究極のジャーニーマンと言っていい彼は、現ABLが復活した2010年にはなんと都合8チームのユニフォームに袖を通している。週末にしかゲームがなく、兼業の選手も多いABLでは、基本選手は自分の住居のある地元球団でプレーすることが多いが、この男は、母国でもジャーニーマンで、メルボルン・エーシズから昨シーズンからブリスベンに移籍している。2016年の夏シーズンはメキシカンリーグに挑戦、8勝を挙げ、プエブラ・ペリーコスを優勝に導いたが、昨シーズンは1勝3敗とスタートダッシュに失敗すると、あっさり解雇され、アメリカ独立リーグ最底辺のパシフィック・アソシエーションに移籍し、2勝4敗の星を挙げた。

 ブラックリーが6回1安打無失点と試合を作ると、バンディッツ打線はその間に着実に加点し4点をもぎ取った。キャンベラもその後2点を取り追いすがったが、最後は、日本の独立リーグ、ルートインBCリーグの石川ミリオンスターズで2015年に8勝を挙げたライアン・シールが試合を締めくくり、バンディッツは、3年連続でクラストン・シールド(オーストラリア野球の年間チャンピオンに手渡される盾)を手にした。

国際戦は「就活」の場

 ふたりの名は、日本の野球ファンにはほとんどなじみのないものだろう。しかし、彼らはオーストラリアのトップ選手で、WBCをはじめとする国際大会での代表チームの常連だ。

 打率.282、8ホーマー、33打点、10盗塁と打線の核となった元ツインズのマイナーリーガー、ローガン・ウェイドは、「本当にいいシーズンだった」と3度目の栄冠を勝ち取ったシーズンを振り返る。彼もまた、代表チームのメンバーで、昨年のWBCでも東京ドームでプレーした。そんな彼でも、現在は、オーストラリアのオフシーズン、野球のメインシーズンになる北半球の夏は、プレーするプロチームはなく、一市井人として働いているという。

オーストラリアの内野の要、ローガン・ウェイド。彼も今回の侍ジャパン戦で来日する。
オーストラリアの内野の要、ローガン・ウェイド。彼も今回の侍ジャパン戦で来日する。

「日本行きが待ちきれないよ。大阪や名古屋ではすごい数のファンがスタンドを埋めるんだろ?」

とウェイドは言う。国内リーグが終わり、代表チームが結成されるオーストラリアでは、選手の気持ちはもう侍ジャパンとの戦いに向いている。彼らが日本戦を楽しみにしているのは、ただ単に大観衆を前にプレーすることができるからだけではない。一旦アメリカのマイナーやアジアのプロ球界から去ったあと、数年後に復帰するオーストラリア人は珍しくない。彼らは、北半球で「クビ」になっても、自国のウィンターリーグやアマチュアのローカルリーグで現役を続け、北半球での「再就職」を虎視眈々と狙っているのだ。

 実はバンディッツには、台湾を代表するスラッガー、林智勝(リン・ジセン)も在籍し、優勝を決めた試合でもツーベースを放っている。ABLはアジア各国のプロリーグとの連携も強めており、近い将来、台湾リーグに代表チームを参加させようというプランも立てている。

昨年のWBCにも参加した台湾を代表するスラッガー、林智勝もブリスベン・バンディッツでプレーした。
昨年のWBCにも参加した台湾を代表するスラッガー、林智勝もブリスベン・バンディッツでプレーした。

 

 ABLの発足により、タレントは十分に育っている。彼らにとって必要なのはさらなるプレーの場だ。3月の侍ジャパン戦は、彼らにとって最大のショーケースになる。次なる契約を求めて、目の色を変えて立ち向かってくるオーストラリア代表を侍ジャパンはどう受けて立つのか。今から楽しみである。

(写真はすべてSMP Images提供)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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