Yahoo!ニュース

野球世界ランキング13位。プレミア12出場へ躍進するニカラグア野球とは?

阿佐智ベースボールジャーナリスト
メジャー通算254勝を挙げたニカラグアの英雄デニス・マルティネス(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

サッカーの国に囲まれた「野球国」、ニカラグア

ウィンターリーグの人気チーム、ボエルの選手
ウィンターリーグの人気チーム、ボエルの選手

 ニカラグアと聞いてピンとくる野球ファンは決して多くないだろう。中米にある人口600万人の小国だ。アメリカ人傭兵隊長に国をのっとられた過去が示すように、この国はアメリカの影響を歴史的に強く受けており、サッカーが支配的なこの地域にあって、野球がナショナルスポーツとして人々の心をつかんでいる。

 この国にプロ野球が始まったのは、比較的遅く1956年のことである。当初は、アメリカとシーズンを同じくする夏季リーグとして始まったが、翌年からはメジャーリーグ傘下の冬のマイナーリーグとして、途中パナマのチームも加えながら、計11度のシーズンを送ったが、1967年に一旦消滅している。

 この国出身者として最初にメジャーリーガーとなったのは、1976年にボルチモア・オリオールズでデビューしたデニス・マルティネスだ。メジャー通算245勝を挙げた通称「エル・プレジデンテ(大統領)」は、1984年、オリオールズの一員として来日もした。その後も、数は少ないが、この国はメジャーリーグへ人材を供給し続け、その内、デビット・グリーン(1986年近鉄)とビセンテ・パディーヤ(2013年ソフトバンク)は日本のプロ野球にも身を投じている。

 ウィンターリーグが再開されたのは2004年、この冬のシーズンに活動を開始した4チームからなる「リガ・ニカラグエンセ・デ・ベイスボル・プロフェシオナル」は、財政難から2008-09年シーズンをキャンセルしたものの、この冬も11度目のシーズンを無事終え、その後、自国開催したラテンアメリカンシリーズを3大会連続で制した。そのレベルは年々上がっており、ラテンアメリカ野球界にあって、一番勢いのある国と言っていい存在である。

年中プレーする「プロ野球選手」

元マイナーリーガーのベテラン、オフィリオ・カストロ。彼はウィンターリーグでプレーする一方、夏のアマチュアリーグでも報酬をもらいながらプレーしている
元マイナーリーガーのベテラン、オフィリオ・カストロ。彼はウィンターリーグでプレーする一方、夏のアマチュアリーグでも報酬をもらいながらプレーしている

「ウィンターリーグ」というと、野球の盛んな国の多くが位置する北半球とは季節が真逆な南半球で行われているイメージがあるが、実は、南半球にプロリーグがあるのは、オーストラリアだけである。ニカラグアが位置するのも北半球。だから、野球シーズンのメインはやはり北半球の夏である。ただ、月平均気温が年を通じて25℃から30℃に範囲に収まる「常夏」の気候は、年を通してのプレーを可能にする。そこで、降水量の少ない「冬」に当たる乾季にトップリーグとしてのプロ野球を行い、その他のシーズンはアマチュアの各クラスのシーズンを行うという、ラテンアメリカ独特のカレンダーのもとこの国の野球界は動いている。

 したがって、プロのウィンターリーグでプレーする選手は、年中プレーすることになる。ベテランや外国人選手で月給3000ドルは、国民1人あたりのGDP2200ドルを考えればかなりの高給である。それでも、3か月半ほどのシーズンを考えると、都市部で家族を養えるほどの「年俸」ではないだろう。夏の間、国外でプレーできる選手は、その場がたとえマイナーリーグであったとしても、エリート中のエリートだ。プロリーグでプレーする選手の大半は、夏のアマチュアリーグでもプレーし、ここでも生活の糧を得る。国策で野球に力を入れているこの国では、アマチュアとされる夏の地域別リーグでも、選手には、少額ではあるものの報酬が支払われており、ウィンターリーグでプレーしていないアマチュア選手も、本業の傍ら、野球で小銭を稼いでいる。日本人の感覚では、仕事とプレーの掛け持ちなどできるのかと思うのだが、雇用の流動性が高く、そもそも、会社に正社員などという雇用形態がさほど一般的ではないこの国では、商売の傍ら週末は野球で小銭を稼ぐということはさほど変わった「働き方」ではないそうだ。

 そもそも、日本のようなプロアマの境はあいまいで、選手たちは、チャンスがあれば、ウィンターリーグや国外のリーグでプロとしてプレーするし、なければ、他の仕事を探してアマチュアリーグでプレーする。

 前回2007年冬の来訪時、10勝負けなしと無敵を誇ったディエゴ・サンディーノという驚異の新人投手がいた。将来的にはアメリカに出、メジャーリーガーになることも夢ではないと思われた選手だったが、現在はウィンターリーグのロースターに入っていない。気になって関係者に尋ねてみると、引退したわけでなく、アマチュアリーグでなおもプレーしているという。近年、実業団の廃部が相次ぎ、学卒後プレーの場をなくす選手が増えているが、この国では、自分がある程度納得できるまで、プレーを続けることのできる環境がある。

2007-8年シーズンを席巻した幻のエース、ディエゴ・サンディーノ。現在は、夏のアマチュアリーグでプレーしているという(写真提供La Prensa)
2007-8年シーズンを席巻した幻のエース、ディエゴ・サンディーノ。現在は、夏のアマチュアリーグでプレーしているという(写真提供La Prensa)

==「世界標準」の育成システム==

 現在、ニカラグアの世界ランキングは13位。来年開催のプレミア12出場に向けて順位を上げたいところだが、清宮(日本ハム)、安田(ロッテ)ら、期待の高卒ルーキーたちが出場した昨年のU18ワールドカップでは、日本とは別のA組で最下位と惨敗している。このU18大会に際して、原稿を書く機会があり、各国の高校世代の野球事情について調べたのだが、実は、「高校野球」というシステムがあるのは、東アジアとアメリカくらいで、世界のほとんどの国では、ジュニア世代の主たるプレーの場は、クラブチームである。

 ニカラグアもそのご多分に漏れず、高校生世代がプレーする場はクラブチームだ。各クラブは年代別にチームを持ち、時としてプロチームを抱えることもあるようだ。例えば、首都マナグアに本拠を置くインディオス・デ・ボエルは、1905年創立というウィンターリーグの名門だが、プロリーグのない時代は、アマチュアクラブとして運営されていた。プロリーグ再開に当たっては、トップチームがそのままプロ化するというよりは、それまでのカテゴリーの上に、新たにプロチームを置くという感覚である。このクラブにも、現在ジュニアチームがある。

 基本的にこの国では、学校のクラブ活動としてスポーツが行われることはない。体育の授業で野球が行われることもあるというが、その体育の授業でさえ、カリキュラムにはあるものの、財政事情などから実施されないことがあるというのが、ニカラグアの教育事情だ。それでも、高校対抗の野球大会はあるという。その大会の時だけ、普段は別々のクラブでプレーしている生徒たちが、学校を代表して即席のチームを作ってトーナメントを戦うのだ。

 このようなことは、学生時代、「同じ釜の飯」を食い、卒業後も密接な関係を築く日本の体育系クラブの感覚では理解できないだろうが、これもまた「世界標準」である。とくにラテンアメリカでは、プロ選手であっても、夏にプレーするチームと冬にプレーするチームが違うのが当たり前。ウィンターリーグでは、ポストシーズンになると、補強選手制度があるため、それまで敵方として戦っていたチームでプレーするのは特別なことではない。国内リーグを終え、上位の国際シリーズに出場する頃には、チャンピオンチームは、シーズン開始時の面影をとどめない、半ば「ナショナル・チーム」と化している。彼らにとって、複数のユニフォームを身にまとうことは、さほど違和感を伴わないことなのだ。

 日本では、助っ人外国人が移籍などすると、その「薄情さ」に非難が集まるようなことがあるが、彼らの「渡り鳥ぶり」には、ユニフォームを変えることに慣れる環境があるのではないだろうか。

(La Prensa提供の写真以外は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

阿佐智の最近の記事