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ラテンアメリカンシリーズ、ニカラグア優勝。U23ワールドカップに向けて侍ジャパンを迎え撃つ準備万端

阿佐智ベースボールジャーナリスト
ラテンアメリカンシリーズが行われたマナグアのデニス・マリティネス球場

もう一つのカリビアンシリーズ

 今回で6回目を迎えた、中南米各国のウィンターリーグのチャンピオンシップ、ラテンアメリカンシリーズは、新球場で大会を開催した地元・ニカラグアの優勝で幕を閉じた。ニカラグアの優勝は3大会連続3回目。優勝したティグレス・デ・チナンデガは、史上初めて単独チームとしての連覇を果たした。

 2013年にそれまで実施されていた、コロンビアとニカラグア、メキシコの独立リーグ、ベラクルスリーグとの国際シリーズを拡大するかたちで、上記3リーグにパナマを加えて始まったこの大会だが、もともとは、上位大会に当たるドミニカ、ベネズエラ、プエルトリコ、メキシカン・パシフィックリーグによるカリビアンシリーズに加入できないコロンビアが、カリビアンシリーズへの昇格を見据えて始めたものだった。

 今大会は、オランダ領キュラソー、アルゼンチン、チリを加え、7か国体制に拡大する予定であったはずが、大会前になってキュラソーのみの参加となった上(アルゼンチン、チリは次回大会から参加予定)、直前に本命ニカラグアと優勝争いをすると見込まれたコロンビアが参加をキャンセルする事態となり、大会スケジュールも大幅に変えられた。

 当初、5か国によるラウンドロビン(総当たり)の後、上位2チームによる決勝を予定していたが、1チーム減となったことにより、ラウンドロビン後に予備日を設け、その後上位3チームによるトーナメント方式のプレーオフというフォーマットに変えられた。

 予選のラウンドロビンでは、各国リーグの実力が如実に出た。

他国を圧倒するニカラグア

 資金不足から、1月初めに急遽シーズンを打ち切ったパナマは、優勝チームのカバジェロス・デ・コクレが出場を辞退するなど大混乱。このチームとプレーオフを戦ったブラボス・デ・ウラカが出場することで辞退だけは避けたが、いかんせん、チームはすでに解散状態。このチーム、唯一の大物、元メジャーリーガーのパナマ人、マニュエル・コーパス(元ロッキーズなど)もアメリカの自宅に帰ってしまっていた。

ロッキーズ時代、松井稼頭央とプレーしていたコーパス。現在は、アメリカの自宅と故郷のパナマを往復しながら現役を続けている
ロッキーズ時代、松井稼頭央とプレーしていたコーパス。現在は、アメリカの自宅と故郷のパナマを往復しながら現役を続けている

 とくにこのリーグは、主力をドミニカ、ベネズエラからの助っ人に依存しているため、チームはスカスカ状態となっていた。結局、国内外から改めて選手をかき集め、ロースター25人中16人が外国人選手、元々のチームの主力はパナマ人、ドミニカ人各1人という、寄せ集め集団で戦ったが、いくらこれではチームとして機能せず、全敗で早々と去ることになった。

 

 このパナマに開幕戦で勝利したのが、キュラソーだった。2年前に4チームからなるウィンターリーグが発足したようで、今回出場のワイルドキャッツKJ74のメンバーには、今やヤンキース不動のショートストップとなったディディ・グレゴリウスの弟ヨハネス・グレゴリウスや、オランダ代表の常連メンバーが名を連ねていた。パナマとの開幕戦も、3年前、侍ジャパン強化試合欧州選抜チームの一員として来日し、金星を挙げたディエゴマー・マークウェルが先発、侍ジャパン戦でホームランを打った元メジャーリーガー、ユレンデル・デカスターが安打を放ち、最後はWBCでただ一人のノーヒッター、シャイロン・マルティスがクローザーとして試合を締めるという「横綱相撲」でパナマを撃沈した。それでも、補強選手制度を利用してライバルチームから現役メキシカンリーガーを招集し、自チームのキューバ人助っ人と合わせ強力打線を組んだメキシコ(トビス・デ・アカユカン)との2位争いに敗れた上、2位3位チームによるプレーオフも、乱打戦を制することができなかった。

夏のトップリーグ、メキシカンリーグの選手も参加していたメキシコ。エンリケ・オソリオ(左・ヌエボラレド)とアンヘル・リベラ(右・カンペチェ)
夏のトップリーグ、メキシカンリーグの選手も参加していたメキシコ。エンリケ・オソリオ(左・ヌエボラレド)とアンヘル・リベラ(右・カンペチェ)

 

 決勝は、現地時間の1月31日(日本時間2月1日)。3連覇を狙う地元ニカラグアが、メキシコを迎え、新装なった国立デニス・マルチネス球場で6時半より催された。

この大会初めてと言っていいくらいの大入りとなった(それでも7割くらいだったが)スタンドの地元ファンの声援を受け、ニカラグアは始終試合の主導権を握った。

 2回に、キューバ人助っ人ヨスマニー・ゲーラのタイムリーで先制した後は着実に得点を重ね、最後は7回に1点を入れ追いすがるメキシコを8回の4点で粉砕し、終わってみれば9対1の圧勝で、このシリーズの頂点に立った。

勝利を喜ぶニカラグアチーム(ニカラグアリーグ提供)
勝利を喜ぶニカラグアチーム(ニカラグアリーグ提供)

 現在、このシリーズに出場するウィンターリーグの中でチームあたり40試合を超えるレギュラーシーズンを戦う本格的なプロリーグと言えるのは、ニカラグアとコロンビアのみ。これらのリーグには、シーズン途中からも上位リーグであるカリビアンシリーズ各リーグからリリースされた実績のある選手が次々と補強される。先述のゲーラも、この冬のシーズンは、メキシカン・パシフィックリーグでプレーを始めている。同じ国ということもあり、この中南米最強リーグからの選手供給のあるベラクルスリーグとの間で決勝戦が行われたのも、コロンビアがいない中では必然であったと言える。

 新球場建設に伴って、ニカラグア野球は活況を呈している。この冬は、こけら落としの台湾アマチュア代表との国際マッチ、中央アメリカ大会、そしてこのラテンアメリカンシリーズに加え、2月末にはキューバとの代表戦と国際試合が目白押しである。トップ選手がアメリカに流出し弱体化が叫ばれているキューバと実力差はもはやないというのがニカラグアの野球ファンの多くの認識である。このキューバ戦は、この冬のニカラグア野球の集大成となるだろう。ニカラグアとしても、この盛り上がりを今年秋に行われるU23ワールドカップにつなげたいに違いない。

 現在、カリビアンシリーズ組の中では、プエルトリコが試合数、球団数とも減らし、今シーズンは年明け1月から各チーム20試合ほどを消化するだけのミニリーグと化してしまった。かつて、プエルトリコがカリビアンシリーズ参加をキャンセルしたとき、コロンビアが代替出場を熱烈に希望したが、その申し入れは拒絶された。今大会でのニカラグアの戦いを見ていると、近い将来にカリビアンシリーズとラテンアメリカンシリーズとの入れ替え戦もありうるのではないかと思ってしまう。

 次回からは、この冬に取材したニカラグア野球についてレポートしていく。このオフには、U23侍ジャパンも乗り込むこの国に注目してみたい。

(写真は提供されたものを除き筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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