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交通事故でケガ、「健康保険は使えない」はウソなので要注意

浅田里花ファイナンシャル・プランナー(CFPⓇ・1級FP 技能士)
予期せぬ交通事故は家計へも影響。正しい知識で負担を軽減することもできます。(ペイレスイメージズ/アフロ)

◆「第三者行為による傷病届」について知っておこう

 GWもアッという間に終わってしまいましたが、車でお出かけのご家庭にとって、交通事故などに巻き込まれずに日常が戻ってきたのは何よりです。誰にとっても想定外のアクシデントには遭いたくないもの。

 とはいえ、たとえ注意していても、交通事故や暴力沙汰などのトラブルに巻き込まれる可能性はゼロではありません。最悪、医療機関での治療が必要なケガをしてしまうことも。

 そうして医療機関に駆け込んだ時、交通事故や傷害事件が原因のケガとわかったら、「健康保険は使えない」と言われる場合があります。実際に私も10年くらい前、当時住んでいた近所の整形外科の窓口でいきなり、「交通事故ですか?交通事故だったら健康保険は使えませんからね!」と言われた経験があります(自分で転んで負ったケガだったのですが・・・)。

 友人からも同様の話を聞きました。ですから、よくある話なのでしょう。そのため、「交通事故の治療には健康保険は使えない」と信じている人が多いものです。治療費の窓口負担が10割となるのは重いですが、後に自動車保険でカバーされることもあり、そういうルールと考えられているようです。

 しかし、「交通事故に健康保険が使えない」は間違いです。

 交通事故(自損事故を除く)、他人による暴力行為、他人が飼育・管理する動物に噛まれたなどのような、他人の行為が原因で病気・ケガをした場合を「第三者行為」と言います。加害者には治療費など損害賠償請求ができるケースです。

 これら「第三者行為」を被った場合、加入している健康保険制度に「第三者行為による傷病届」を提出することにより、健康保険を使って治療を受けることができます。

 本来なら加害者が治療費全額を支払うべきなので、健康保険制度が立て替えている分を後日加害者に請求します。そのために必要となるのが「第三者行為による傷病届」です。

 以下は協会けんぽの記入例ですが、各健康保険制度で用紙や記入例を用意していますので、もしもの時はすみやかに入手し、提出するようにしましょう。

協会けんぽの記入例

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3260/r143/

◆厚労省からも通知が出ている

 「第三者行為」でも健康保険が使えることは、何と50年前の昭和43年(1968年)10月に旧厚生省が日本医師会に向けて通知しています(保険発第106号「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」)。医療機関もすでに承知のはずです。

 今でも「健康保険が使えない」という医療機関があるなら、それは自由診療で稼ぎたい確信犯としか考えられません。

 保険診療の場合、診療報酬は1点=10円と決まっていますが、自由診療の場合は医療機関が自由に決められます。仮に1点=20円としていれば、同じ内容の治療でも倍の医療費を稼げるわけです。

 前述の、10年ほど前に「健康保険は使えません」と言われた整形外科ですが、私が「でも、第三者行為は…」と言いかけると窓口の人は明らかに動揺し、慌てたように向こうに行ってしまいました。使えないと言い切った手前、ばつが悪かったのでしょう。

 もし同様の状況に遭遇することがあれば、「厚労省から第三者行為でも健康保険が使えるという通知が出ているはず」と応えてみましょう。

◆賠償金の受取額に影響する可能性も

 「どうせ自動車保険でカバーされるのだから自由診療でもいいのでは?」と思われるかもしれませんが、健康保険を使ったほうが安心です。

 まず、保険金が受け取れるまでの治療費負担が大きくなる心配があります。保険診療より高額のうえ全額自己負担なのです。

 また、加害者が任意保険に加入しておらず自賠責保険のみだったら、傷害の補償額の上限は120万円ですから、十分な補償が受けられない可能性があります。

 損害は治療費だけでなく、休業による収入ダウンや精神的・肉体的苦痛への慰謝料などもあります。自由診療で治療費がかさみ、持ち出しが増えることは避けたいものです。

 そして、治療費の負担額が、賠償金の受取額に影響する可能性があることも留意しておかなければなりません。

 交通事故で被害者となっても、過失ゼロと認められることは滅多になく、被害者と加害者の「過失割合」が2対8などと決定されます。治療費や休業補償などの損害額は、過失割合分を相殺して計算されることになります。たとえば、過失割合が2割で損害額が100万円なら、過失相殺で受け取れる額は80万円ということです。

 そうすると、治療費の自己負担額が少ない保険診療のほうが、相殺の影響が小さいことになります。過失割合が大きいほどその差は広がり、自由診療で多額の治療費を支払っていると、休業補償などの賠償額を合わせても持ち出しとなる場合があります。

 家計から出て行くお金は少なくしておいたほうが何かと安心なので、やはり健康保険を使って治療を受けたほうがいいでしょう。

 なお、勤務中や通勤中の交通事故は、労災保険がカバーするので健康保険は使えません。また、被害者の故意や重大な過失(飲酒運転、無免許運転など法令違反)の事故の場合もダメです。

ファイナンシャル・プランナー(CFPⓇ・1級FP 技能士)

㈱生活設計塾クルー取締役、個人事務所リアサイト代表、東洋大学社会学部 非常勤講師。同志社大学文学部卒業後、大手証券会社、独立系FP会社を経て現職。一人ひとり・家庭ごとに合った資産設計、保障設計、リタイア前後の生活設計等のコンサルティングのほか、新聞・雑誌等への原稿執筆、セミナー講師などを行う。著書に『50代からの「確実な」お金の貯め方、増やし方教えて下さい』、『住宅・教育・老後のお金に強くなる!』、『お金はこうして殖やしなさい』(共著)など。生活を守り続けるにはマネーリテラシーを磨くことが大切。その手伝いとなる情報を発信していきたい。

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