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冬なのに蚊に刺される? 都市化が進んでいる地域では増加傾向 知っておきたい冬の蚊の知識

有吉立アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当
イラストはイメージ(提供:いらすとや)

冬の間、蚊はどうしていると思いますか?どこか暖かいところでかたまっているのでしょうか?それとも冬はいなくなって、春になるとどこからか出てくるのでしょうか?今回は、冬に蚊がどこで何をしているかお話しします。

みなさんに問題です。

冬の間、蚊はどのように過ごしていると思いますか?次の3つのうちから選んでみてください。

①冬の間は卵の状態で過ごしている。

②冬の間はどこかでじっとしている。

③冬でも活動して吸血してくる。

実はこれ3つとも正解なのです。

日本で人を刺す蚊は主にこの3種類

まず、日本で人を刺してくる蚊は、ヤブカ類とイエカ類に分けられます。ヤブカ類は、アウトドア派の蚊で、外に出た時に刺される「ヒトスジシマカ」が代表種となります。逆にイエカ類は、インドア派で、家の中に入ってきて刺すタイプで、代表種は「アカイエカ」と「チカイエカ」です。この代表3種類は、それぞれ冬の過ごし方が異なりますので順に解説していきます。

アウトドア派ヒトスジシマカは卵で越冬します

「①卵で越冬するの」はアウトドア派の「ヒトスジシマカ」です。成虫は寒さに弱いので冬を越すことができないのです。本州では5~10月くらいに吸血してきます。

通常はすぐに孵化できる卵を産むのですが、10月に入り日照時間が短くなると、冬が来ることを察知し、5度以下の低温で一定期間過ごさないと孵化しない休眠卵を産みます。

この卵は、乾燥に強いので、産み付けられたバケツや空き缶、空き瓶の溜まり水、お墓の水受け、古タイヤや切り株などの水が干上がっても生きていることができ、冬を越せます。春になって暖かくなった4月ごろに雨が降った時に孵化して、5月くらいから成虫が活動を始めます。

10月ごろ、冬に入る前のメス成虫は、休眠卵を産まないことには、自分の子孫が残らないので、危険を冒してでも貪欲に吸血してきます。

インドア派のアカイエカは成虫で越冬します

「②冬の間は何もせずどこかでじっとしている」のは、「アカイエカ」です。成虫で越冬するのですが、冬を越せるのはメスだけで、オスは冬の間に死んでしまいます。

日本では、4月~11月くらいに吸血、産卵しますが、九州など暖かい地域では1月頃まで見られることもあります。

晩秋になると、薄暗くて一定の温度のある場所でメスだけが越冬します。屋外では、下水溝や家屋の床下などが多いのですが、屋内の押入れや玄関の下駄箱の中でひっそりと冬を越していることもあります。

桜の花が咲く頃には越冬から覚めた成虫が活動を始めます。産卵に必要なタンパク質を求めて吸血し、水のあるところを探して産卵するので、初春に蚊に刺されたときは、アカイエカということが多いです。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:イメージマート

チカイエカは冬でも刺してきます

あまり知られていないのですが、「③冬でも活動して吸血してくる」蚊がいます。

それは、「チカイエカ」という名前で、アカイエカに見た目がそっくりの蚊です。チカイエカの名前は、「チカ=地下」ということから付けられていて、ビルの地下や地下鉄の地下水槽や浄化槽などの水がたまったところで発生します。地下は常に暖かく、湿度も高く、幼虫や蛹が育つための水があることから冬でも繁殖でき活動しています。

チカイエカの大きな特徴は、最初に産む卵は吸血しなくても産卵できる(無吸血産卵性と言います)ということです。ただ、2回目以降の産卵は吸血が必要なので、地下から地上に移動して、人家などに入って吸血します。

チカイエカは日本全国に生息しています

チカイエカは、北海道から沖縄県まで全国で確認されていて、都市の地下の浄化槽や地下鉄の側溝などでの発生は、高層ビルが増え都市化が進んでいる地域では多くなっていると考えられます。

発生源である地下から通じる飲食店や地下鉄などは冬でもある程度の気温があるので、真冬でも蚊に刺されるということも起こります。都会の家屋やアパート内ではチカイエカが多く発見されています。

冬に蚊に刺されたらそれはほぼ間違いなくチカイエカの仕業でしょう。

チカイエカが感染症を媒介することも

現在、ウエストナイル熱という感染症は日本国内では報告されていませんが、もし、日本にウエストナイルウイルスが侵入した場合、チカイエカは媒介者となる危険性が高いので注意が必要となります。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:イメージマート

最後に…

冬の間の蚊はどのように過ごしているのか蚊の種類ごとに3パターンで解説しました。

冬の間の蚊は、死んでしまったわけではなく、卵や成虫で寒い冬を過ごしています。また、冬なのに蚊に刺されたことがあると不思議に思う方も冬でも活動している蚊が居るということで合点がいったかと思います。

夏に比べるととても少ないのですが、冬でも活動している蚊もいますので、お気をつけください。

アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当

兵庫県出身。都内の美術学校卒業後、 家具店店員、陶芸教室講師など虫とは全く関係のない職業に就いていたが、1998年に地元・赤穂のアース製薬に入社以来、害虫の飼育を担当している。しかし、現在も虫は好きではない。著書に「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎)※記事は個人としての発信です。

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