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未婚化の原因を「イマドキの若者の草食化」のせいにするおじさんへのブーメラン

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

50歳まで未婚なら生涯未婚

50歳時点で未婚であれば、その後結婚する可能性は極めて低い。そうした統計上の事実に基づいて定められた指標が「生涯未婚率」であった。

厳密にいえば、45-49歳の未婚率と50-54歳の未婚率の平均値を指す(未婚率の計算母数に配偶関係不詳人口は含まない)。5年ごとの国勢調査の配偶関係別人口の数字によって公表される。

ところが、なぜか、最近になって、その名称が「50歳時未婚率」に変更された。役所に対して「50歳になったら結婚できないと決めつけるな」とでも誰かがクレームをつけたのだろうか。

確かに、50歳以上で初婚の人がいないわけではない。しかし、2015年人口動態調査に基づく実績では、生涯未婚率対象年齢の55歳以上で初婚した男性の割合は、当該年齢の未婚人口の0.1%に過ぎない。2019年の実績値でも0.1%のままだ。可能性という面では極めて低いと断言してよい数字である。当記事では、基本的に「生涯未婚率」という以前の名称を使うこととする。

3人に1人の男は生涯未婚となる

2015年時点での生涯未婚率は男23.4%、女14.1%である。男の4人に1人、女の7人に1人が生涯未婚ということになる。

国勢調査がスタートした1920年から1980年代までは、男女とも5%を超えることはなかった。1990年代以降に急激に上昇したわけである。生涯未婚率は今後も上がり続け、国立社会保障・人口問題研究所によれば、2040年には男は約30%、女は約20%にまで上昇すると推計されている。

男に関していえば、現在25~34歳の実に3人に1人は、一度も結婚することなく生涯を終えるのである。

※最新の2020年国勢調査によるデータはこちらをお読みください

【国勢調査】不詳補完値の正式採用により、2020年の生涯未婚率は男28.3%、女17.8%へ

こういうデータが出るたびに、おじさん世代の方々は「イマドキの若者は草食化してしまって、だらしがない。俺たちの若いころはな…」と聞いてもいない武勇伝を語りだすのだが、未婚化は若者の問題ではない。

よくよく考えてみてほしいのだが、生涯未婚率は45~54歳の未婚率であって、若者の未婚率ではない。2015年の国勢調査で23.4%の生涯未婚率を叩き出した男とは、若者ではなくアラフィフのおじさんたちを指す。

「イマドキの若者は~」とおじさんは言うが…

2015年でのアラフィフ世代とは、1985年に20歳を迎えた世代となる。

1980年代は、1970年代の石油ショック時代を抜け出し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時期である。日本全体がその後に到来するバブル景気に向けて、特に、消費市場が活気のあった時代だ。

原宿や渋谷が活況を呈し、丸井やパルコのセールには早朝から若者による長蛇の列ができた。DCブランドブームと言われ、若者がたくさんの消費をしていた時代である。若者に金があったわけではない。服にしろ、クルマにしろ、若者たちはクレジットやローンで購入した。

ファッションだけではなく、男性用化粧品の先駆けとして、1984年には、コーセーから「ダモン・ブロンザー」という男性専用の褐色メイク商品も発売され、シャネルなどの男性用香水も売れた。

カフェバーという業態ができたのも、新宿や六本木のディスコが大盛況だったのもこの頃だ。麻布十番に「マハラジャ」がオープンしたのも1984年である。

ホイチョイ・プロダクションの映画「私をスキーに連れてって(主演:原田知世)」が劇場公開されたのは1987年だが、1980年代前半からスキーブームが起こり、冬季に苗場スキー場に行く道は大渋滞だった。

テレビドラマではトレンディドラマが流行し、クリスマスには、ティファニーのオープンハートをプレゼントに、赤プリ(赤坂プリンスホテル-現東京ガーデンテラス紀尾井町)で宿泊なんて定番コースが生まれ、山下達郎の名曲「クリスマス・イブ」をBGMとしたJR東海のCMがオンエアされたのもこの頃だ。

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

日本のソロ社会の扉を開けた張本人は誰だ?

恋愛至上主義とも言われたこの時代に20代を謳歌したのが、今50代以上の人たち、つまり現在の大学生の若者の丁度親世代なのである。しかし、そのイメージとは裏腹に、この頃の20代が2015年の生涯未婚率過去最高記録を打ち立てた世代でもあるのだ。

国勢調査から、コーホート別に未婚率の推移をまとめたものが以下のグラフである。1920年代生まれ、1940年代生まれ、1960年代生まれと、20年おきに生年ごとに比較をしてみた。

いつ生まれの人が未婚率を押しあげたのか?一目瞭然だろう。

男女とも60年代生まれの人たちが、25歳以降すべての年代で未婚率を押し上げている。2021年現在に換算すると、50代半ばから60代のいわばアラカンの初老世代のおじさん・おばさんこそが、今の日本のソロ社会化の扉を開けた張本人であるといっても過言ではない。

私は、むしろ1980年代までほぼ全員が結婚していた皆婚時代の方が異常だったと考えている。よって、未婚であることが「草食」であるとも「だらしがない」とも思わないが、仮におじさん連中のいう「イマドキの若者は草食化でだらしがない」という指摘を正とするなら、それはご自分たちの世代に向けた台詞ということになるのである。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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