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トルコの占領下にあるシリア北部で所属不明の戦闘機による威嚇・爆撃が相次ぐ

青山弘之東京外国語大学 教授
ANHA、2020年7月6日

トルコの占領下にあるシリア北部で所属不明の戦闘機による威嚇・爆撃が相次いでいる。

アレッポ県北部・北西部で空対空ミサイル発射

英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、トルコが2016年と2018年に掌握したアレッポ県北部の「ユーフラテスの盾」地域と同県北西部の「オリーブの枝」地域では7月4日、所属不明の戦闘機複数機が飛来し、イドリブ県との県境に位置するアアザーズ市タカード村との上空で空対空ミサイルを発射した。

反体制系サイトの一つアアザーズ・メディア・センターによると、ミサイルは上空で爆発し、物的・人的被害はなかった。

同サイトは、この戦闘機がロシア軍に所属していると断じているが、真相は定かでない。

ハサカ県北部、ラッカ県北部での爆撃

一方、シリア人権監視団やクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワル・ニュース(ANHA)によると、2019年にトルコが占領したラッカ県北部とハサカ県北部の「平和の泉」地域でも7月6日、所属不明の戦闘機複数機が飛来し、ラッカ県タッル・アブヤド市近郊のハマーム・トゥルクマーン村を爆撃した。

投下された爆弾は民家に着弾したが、不発弾で爆発や火災は発生しなかった。

所属不明の戦闘機複数機はハサカ県ラアス・アイン市近郊の上空に飛来し、マブルーカ村一帯を爆撃した。

この日は、トルコ軍とその支援を受ける国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army:TFSA)が、タッル・アブヤド市近郊に位置し、PYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局とシリア政府の支配下にあるビールキータク村やイブラーヒーム・カルドゥー村を砲撃、これと前後してトルコ軍戦闘機複数機がアイン・イーサー市一帯に上空に飛来、低空で旋回を続けた。だが、爆撃がトルコ軍によるものかどうかは不明。

だれが爆撃を行ったのか?

シリアでは、シリア軍および「イランの民兵」、ロシア軍、トルコ軍、米主導の有志連合、そしてイスラエルが爆撃を行う能力を有している。

このうち、トルコは「ユーフラテスの盾」地域、「オリーブの枝」地域、「平和の泉」地域に地上部隊を展開させているが、同地での爆撃を行うことはない。

また、トルコとともにシリア国内での停戦と秩序回復を主導するロシアは、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を掌握するイドリブ県や、イスラーム国の残党が活動を続けるヒムス県東部の砂漠地帯で爆撃を実施していることはあるが、トルコ占領地で航空作戦を実施することはない。

一方、ユーフラテス川以東地域各所に部隊を駐留させる米軍および有志連合は、同地域で空挺作戦を実施し、イスラーム国の残党を摘発している一方、2019年10月のイスラーム国のアブー・バクル・バクダーディー指導者暗殺など、イドリブ県やトルコ占領地でイスラーム国の幹部を狙った爆撃を実施している。だが、その頻度はきわめて低い。

シリア軍も2019年11月にトルコ占領地で国民軍の施設を爆撃したことはあるが、トルコを刺激するような行動をとることはない。

シリア領内各所で「イランの民兵」の施設を狙っているとされるイスラエルは、政府支配地域以外を標的としたことはない。

誰が爆撃を実施したのかを推定するため、標的(ないしは威嚇の対象)となった個人、組織、施設を特定する必要が急がれる。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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