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シリア北西部で新興のアル=カーイダ系組織がシリア軍と激しく交戦し、2カ村を制圧、40人以上死亡

青山弘之東京外国語大学 教授
シリア人権監視団、2020年5月10日

新型コロナ感染の脅威が続くイドリブ市で抗議デモ

反体制系サイトのEldorarによると、新型コロナウイルス感染症拡大の脅威が続くなか、イドリブ市で10日晩、タラーウィーフの礼拝(ラマダーン月の夜の礼拝)後にデモが行われ、参加した住民らは国内避難民(IDPs)の帰還、2~3月の戦闘でシリア軍が新たに制圧した地域からの撤退、バッシャール・アサド政権の打倒、占領国であるロシアとイランの排斥、逮捕者の釈放などを訴えた。

イドリブ市を含むイドリブ県のいわゆる「解放区」は、ほぼ全域がシリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構によって軍事・治安権限を握られている。

Eldorar、2020年5月10日
Eldorar、2020年5月10日

新興のアル=カーイダ系組織が2カ村を制圧

シリア北西部でのシリア・ロシア軍とトルコ軍・反体制派の戦闘停止を定めた停戦合意が発効(3月5日)してから66日目となる5月10日未明、ハマー県北西部のガーブ平原で、新興のアル=カーイダ系組織である「信者を煽れ」作戦司令室に所属する武装集団がシリア軍の拠点複数カ所を急襲した。

Eldorarによると、この攻撃で、「信者を煽れ」作戦司令室は、親政権民兵がマナーラ村周辺地域に進軍を試みたことを受けて反撃し、政府支配下にあったマナーラ村、タンジャラ村の2カ村を制圧したという。

「信者を煽れ」作戦司令室は、新興のアル=カーイダ系組織であるフッラース・ディーン機構、アンサール・ディーン戦線、アンサール・タウヒード、アンサール・イスラーム集団が2018年10月に結成した武装連合体。

シャーム解放機構やトルコの後援を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる「決戦」作戦司令室とは一線を画して活動をしているが、シリア・ロシア軍の攻撃に対しては連携して対応してきた。

なお、今回の戦闘が激化する直前の5月4日、アンサール・タウヒードは次のような声明を出し、「信者を煽れ」作戦司令室を離脱すると発表していた。

我々は自立しており、公然、非公然を問わず、内外のいかなる組織のバイア(忠誠)と関わりはない…。いかなる作戦司令室にも所属していない。いかなるグループ、組織とも同盟を結んでいない。戦いは一部組織との連携のもと独自に行われている。

シリア軍の反転攻勢、所属不明のドローンによる爆撃も

これに対して、シリア軍はただちに応戦し、「信者を煽れ」作戦司令室と交戦するとともに、両村一帯、アンカーウィー村、クライディーン村、カーヒラ村に加えて、「決戦」作戦司令室が活動を続けるイドリブ県ザーウィヤ山地方のフライフィル村、バーラ村、カンスフラ村を砲撃した。

また、ザーウィヤ山地方では、武装した偵察用の無人航空機(ドローン)がハルーバ村を爆撃した。

爆撃を行ったドローンの所属は不明だが、Eldorarは、ロシア軍のドローンがイドリブ市やイドリブ県南部上空に飛来し、旋回を続けたと伝えた。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ガーブ平原での戦闘で、シリア軍兵士や親政権民兵の戦闘員32人(Eldorarによると、中尉1人、少尉1人を含む26人)、「信者を煽れ」作戦司令室の戦闘員13人が死亡、またアンカーウィー村に対するシリア軍の砲撃で女性1人が死亡した。

1日の戦闘でこれほどの死者が出たのは、3月5日の停戦発効以降では今回が初めて。また、爆撃が行われるのは、トルコ軍の無人航空機(ドローン)がM4高速道路沿線のナイラブ村でシャーム解放機構の車輌を狙った4月27日以来、13日ぶり。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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