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イドリブ県を処遇めぐるロシアとトルコの交渉決裂、シリア軍が包囲するトルコ軍拠点は12カ所に

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

イドリブ県の処遇をめぐるロシアとトルコの交渉決裂

ロシアの首都モスクワで17日から行われていたロシアとトルコの軍・治安・外交関係高官会合は2日目となる18日も続けられたが、イドリブ県の処遇について合意にいたらないまま決裂した。

トルコ国営のアナトリア通信によると、ロシア側は、シリア政府への支援継続と、シリア北部全域の掌握に固執、これに対して、トルコ側は、2018年9月ソチでの合意(非武装地帯設置合意)に基づいて、シリア軍側が戦闘を停止し、撤退しなければ、軍事作戦を行うと答えたという。

イドリブ県、アレッポ県西部へのロシア・シリア軍の攻撃続く

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ロシア軍戦闘機は18日、イドリブ県のタルマーニーン村を爆撃し、住民3人が死亡、8人が負傷した。

ロシア軍戦闘機はまた、マアーッラト・ナアサーン村一帯を爆撃し、国内避難民(IDPs)の男性1人が死亡、多数が負傷した。

ロシア軍戦闘機はこのほかにも、アリーハー市、ムハムバル村、アルバイーン山一帯を爆撃、シリア軍戦闘機もM4高速道路一帯を爆撃、地上部隊がサルミーン市、クマイナース村、ザーウィヤ山一帯を砲撃した。

アレッポ県でも、ロシア軍戦闘機がダーラ・イッザ市、アターリブ市を爆撃し、ダーラ・イッザ市に避難しようとしていた住民1人が死亡した。

シリア領内のトルコ軍監視所・拠点30カ所のうち12カ所がシリア軍の包囲を受ける

シリア人権監視団やアラビー21などをもとに、トルコ軍がシリア領内に設置した監視所・拠点を確認すると、2月18日現在、その数は33カ所に達しており、うち12カ所(*)がシリア軍によって包囲されている。

場所は以下の通り:

アスタナ9会議(2018年5月)での合意に基づいて設置された監視所:イドリブ県サルワ村(第1監視所)、タッル・トゥーカーン村(第5監視所)*、サルマーン村(第6監視所)*、ジスル・シュグール市(第12監視所)、アレッポ県登塔者聖シメオン教会跡(第2監視所)、シャイフ・アキール山(第3監視所)*、アナダーン山(第7監視所)*、アレッポ市(南)ラーシディーン地区(第10監視所)、アイス村(アイス丘)(第4監視所)*、ハマー県ムーリク市(第9監視所)*、シール・マガール村(第11監視所)*、ラタキア県ザイトゥーナ村(第8監視所)

その後に設置された監視所:アレッポ県アレッポ市ラーシディーン地区*、ジーナ村、カフル・カルミーン村、タワーマ村、第111中隊基地、アターリブ市、ダーラ・イッザ市、イドリブ県マアッル・ハッタート村*、サラーキブ市*、タルナバ村*、ナイラブ村*、クマイナース村、サルミーン市、タフタナーズ航空基地、マアーッラト・ナアサーン村、マアッラトミスリーン市、マストゥーマ軍事キャンプ、タルマーニーン村、バルダクリー村、ナフラヤー村、ムウタスィム村。

トルコ軍の監視所・拠点(Arabi 21、2020年2月18日)
トルコ軍の監視所・拠点(Arabi 21、2020年2月18日)

反体制派支配地域から住民数十人がシリア政府支配地域に脱出

国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、反体制派の支配下にあるイドリブ県ザーウィヤ山一帯の住民数十人が、マアッラト・ヌウマーン市東に設置された人道回廊を通ってシリア政府支配地域に避難した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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