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今日からライフジャケットなしの川遊びは怖くてありえないと思える6つの理由〜こどもも大人も必ず装着を〜

あんどうりすアウトドア防災ガイド  リスク対策.com名誉顧問 
イラスト Yuki Baba 2015

 2003年から子育て世代むけに防災講座を実施してきましたが、一貫してお伝えしているのが、川遊びにライフジャケット をという事でした。「防災講座でなぜライフジャケット ?」「水害避難に必須のアイテムなの?」という声もありましたが、一番お伝えしたいことは、水の流れの特徴を知る事です。特徴を知らずして、川遊びも水害避難も対応できるはずがありません。今では、防災講座を聞いてくれた方々は、ライフジャケットの熱心な普及者になってくださっているので、子ども等にライフジャケット を装着している光景も珍しいことではなくなりました。しかし、まだまだ毎年のように水難事故は起こっています。今日からライフジャケット なしの川遊びは怖くてありえないと思える理由6つを紹介します。

理由1 水は比重が軽い

資料提供 (公財)河川財団
資料提供 (公財)河川財団

 海水の比重は約1、02に対し真水の比重は1なので、海水よりも真水の方が浮きにくいのです。そして、人の比重は0、98なので、肺に空気をためた状態で川では2%の浮力しかありません。4%の浮力のある海は川の2倍浮くので、海で泳げる人が川で泳げるとは限りません。

 また、プールと違い、川には写真のように空気含有量の多い場所があります。軽い空気がたくさん含まれるため、真水よりも軽くなります。中でも空気含有量が40〜60%の場所は、ホワイトウォーターと呼ばれ、ライフジャケットの浮力があっても沈みます。そのような場所で泳ぐことはライフジャケット をつけていても避けるべきです。(特別な訓練を受けた方はもちろん除きます)。

 このように川は比重が1または1以下になる場所があるため、大人であっても、泳ぎが上手くても浮力が足りなくなり沈みます。川でライフジャケット は大人も必須なのです。

理由2 川は流れがあり動水圧の力は強い

資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020
資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020

 川には流れがあり動水圧が強い場所があります。ここが管理されているプールとは大きく異なります。プールの深い場所でも泳ぐことができる人が川で事故となるのは、流れと動水圧を理解していないケースも少なくありません。

 まず、秒速1mの流れがあれば、1秒で1m流されます。事故に気づいた時には、要救助者は下流に流されており、救助にむかっても間に合わないケースも多いです。また、対岸に泳ごうとして流される事故もありますが、流れがあると真正面にみえる対岸にはたどりつきません(上図の左)。流れに対し、上流にむけて45度の角度で泳ぐフェリーアングルが使える場合もあります(上図の右)。しかし、流速によっては流されることは前提にしなければなりません。ライフジャケットは必須です。

資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020
資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020

 そして、最も理解されていないことは、体が流れに対し垂直に受ける力、動水圧です。動水圧は速度に対し2乗の力がかかっています。川に慣れていない人は流れの速さだけを見て大丈夫と誤解しやすいのですが、動水圧は2乗になるので、直感よりも強い力がかかり、流されてしまうことがあります。

 水難事故や津波の際、足首くらいの水位でも流れがあれば体ごともっていかれてしまう事もあるのはこのためです。流れが速ければ、どんな靴を履いて避難したとしても危険になってしまうのです。

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 また、大人が歩く程度の流速であっても、流れの中の障害物にひっかかると、強い動水圧をうけ、1人の力では対応できなくなります。このような事故は浅瀬でも起こります。さらに、動水圧により、岩に体がはりつけられたまま動きがとれなくなるという状態にもなります。もともと浮力が足りない川の中で、さらに動水圧も受けることを考えると、流された場合、自分の思い通りに体を動かせません。意識や努力では対応できない世界です。事前に浮力を補助しておくことで脱出や救出を助けます。ライフジャケット の装着が必須になります。

理由3 川の流れは複雑になること

資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020
資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020

 川の流れは複雑です。下向きに流れる流れや、川底流れと水面の流れが異なることもあります。

資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020
資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020

 中でも、人工物は、自然のものと違い安心感を与えがちですが、流れは複雑になり、統計上も事故のうち3割が河川工作物付近で起こっています。

資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020
資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020

 渡ったり、飛び込む方もいる堰堤では、リサーキュレーションという廻りづづける洗濯機の水流の中にいるような循環する流れが起こります。ここは、流れが速いとライフジャケット をつけていても循環流から抜け出せない非常に危険な場所です。ライフジャケットは当然のこととして装着しつつもこのような場所は避けなければいけません。

理由4 水の中は体温が奪われやすいこと

 

(公財)河川財団 NO MORE水難事故2018
(公財)河川財団 NO MORE水難事故2018

 水は空気に比べ20倍熱伝導率が高いため、水中にいると体温が奪われていき、低体温症になる可能性があります。恒温動物の人は低体温症の悪化で命の危機に陥ります。保温効果のあるウェットスーツを着用すれば効果的ですが、少なくとも水着にライフジャケットをつけることで水着だけの場合よりも体温の低下が防げます。

 川で寒いと感じたら、日なたの岩にしがみついて暖をとることも有効です。

 低体温症になった場合、さっきまでは普通に遊んでいたのに、深みにはまったわけでもないのに、急に水中に倒れこむように流されていくということがあります。

理由5 静かに溺れ、救助する人の死亡率が高い

教えて!ドクタープロジェクト 
教えて!ドクタープロジェクト 

 こどもの医療情報を啓発している「教えて!ドクタープロジェクト」では、こどもが静かに溺れることをチラシにしています(教えて!ドクタープロジェクトではチームの一員として防災分野に関する情報を一緒に発信しています)。

 静かに溺れることは、お風呂場の溺水事故場面だけでなく、川でも起こります。こどもが溺れれば気づくだろうとか、 親が気をつけていればいいというように、意識を向けるだけでは防げませんでは解決しません。川ではこのような事態もありうることを予測して、あらかじめライフジャケットの装着が必須です。

教えて!ドクタープロジェクト こどもは静かに溺れます

乳幼児の不慮の事故で2番目に多い「溺水」。

溺れるとき、バシャバシャもがくのは映画の世界だけです。

溺れた状況を理解できず、もしくは呼吸に精一杯で声を出す余裕もなく、静かに沈みます(本能的溺水反応といいます)。

隣の部屋にいれば音でわかると思ったら大間違い。

入浴中は気を付けましょう。

出典:教えて!ドクタープロジェクト 

 チラシは、保育園、幼稚園で紹介していただいたこともあって、こどもたちのライフジャケット着用は増えてきました。しかし、大人のライフジャケット 姿を見るのはまだ少数のように思います。

(公財)河川財団 NO MORE水難事故2018
(公財)河川財団 NO MORE水難事故2018

 上記グラフを見ていただくとわかるように、2次災害発生時の川の水難事故の死者数は、1次災害が36、2%に対し、2次災害は73%です。救助に行った人の死亡率(2次災害発生時)は10人中7人プラスが亡くなっているという悲惨な結果です。救助に行く際、ライフジャケットをつけないなんて、リバーレスキューではありえません。川遊びに行くのであれば、親もライフジャケット が必須です。

資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020
資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020

 さらに、溺れている人をみたら飛び込んで助けることが美談にされがちですが、73%の死亡率であることを考えると無謀すぎます。美談にするより、ライフジャケット を装着した川遊びと救助法を知っておくべきです。救助法としてもまず飛び込んだりしません。上図のようにまず水上からのアプローチを実施し、自分の命を守りつつ救助する方法をとります。

理由6 ライフジャケットを装着すれば助かる可能性があがる

資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020
資料提供 (公財)河川財団 NO MORE水難事故2020

 図には、同一条件下でライフジャケット を装着していた人が助かった主な事故例が書かれています。ライフジャケットをつければ必ず助かるというわけではありませんが、つけない場合は、救命可能性が下がります。

 そして、装着した上で、正しい流され方も知っておいてください。

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 下流にむかってあおむけの姿勢で爪先はあげます。下をむいてクロールのように泳ぐと水面下の障害物(ストレーナー)に足をとられる可能性があるからです。爪先をあげるのは、岩にぶつかり下向きに巻き込む流れを避けるためです。この姿勢で岩にぶつかる際には岩を蹴って進路方向します。

 その他、川を知ることが、水難事故にも水害にも役立ちますので、今後も記事にしていきます。

 これから川遊びに行かれる方は、(公財)河川財団の水辺の安全ハンドブックをご確認のうえお出かけください。川遊びの基本となることがわかりやすく記載されており、最新版が2020年7月30日に発表されたばかりです。

 以上、「今日からライフジャケットなしの川遊びは怖くてありえないと思える6つの理由」いかがでしたでしょうか?

 子どもだけでなく、大人も今日からライフジャケットの装着を決意してください。もう川の事故報道は見たくありません。

 

 

 

アウトドア防災ガイド  リスク対策.com名誉顧問 

FM西東京防災番組パーソナリティ 兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科 博士課程 女性防災ネットワーク東京呼びかけ人 阪神淡路大震災の経験とアウトドアスキルをいかした日常にも役立つ防災テクを、2003年から発信。子育てバックは、そのまま防災バックに使えるなど赤ちゃん防災の先駆けとなるアイデアを提唱。技だけなく仕組みと知恵が得られると好評で、口コミで講演が全国に広がる。企業広報誌、子育て雑誌などで防災記事を連載中。ゆるくて楽しい防災が好み。

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