リクナビの「悪気のない悪意」が一番悪い

利用した学生はどう思っているのだろうか(写真:アフロ)

■リクルートの不祥事

就職情報サイト「リクナビ」で、学生が内定を辞退する可能性を数値化して企業に提供していた問題で、昨日、運営会社であるリクルートキャリアの社長が騒動後初めて記者会見を行い謝罪しました。合わせて、個人情報保護委員会から勧告・指導を受けたと公表しました。

今回の問題は、サイトを利用する就職活動中の学生の内定辞退をする可能性を数値化し、30以上の企業に有償提供していましたが、データ元の約8,000人の学生については本人の同意を得ていなかったというものです。8月1日に問題を公表し、8月4日にはサービスの廃止を決定していましたが、会見等はこれまでありませんでした。

今回の問題は、記者会見で語られた「ガバナンスの不備」であることは間違いありませんが、リクルートキャリアの親会社であるリクルートホールディングス自体でいえば、ガバナンスはむしろ積極的に行われており、外部評価機関からも高評価を獲得していた企業でした。本記事では、CSR/サステナビリティ先進企業群の1社でありながら、なぜ逆行するようなビジネスが行われたのか、CSR(企業の社会的責任)という視点でまとめます。

■個人情報保護がメガトレンドに

グローバルでもローカルでも、昨今のCSRでは「情報セキュリティ」と「個人情報保護」の重要性が高くなっています。

グローバルのリスクトレンドをまとめた「グローバルリスクレポート2019」によれば、発生可能性が高いリスクとして第4位に「データの不正利用または窃盗」という項目があります。個人情報の悪用についてのリスクであり、世界中で警戒されていると思いきや、今回のような問題が起きてしまいます。個人情報をビジネスとして扱う企業は、情報漏洩対策はもちろんのこと、そのデータを倫理的に商用利用できているかが求められます。今回の行政機関からの勧告は、他の同様のビジネスモデルで商売をしている企業の牽制にもなるでしょう。

加えてCSRでは「加担」という考え方も重要です。今回のケースでいえば、リクナビだけではなく“情報を買った企業も悪い”となります。CSRでは、非倫理的な事業を行う企業から商品・サービスを購入するということは、その企業を応援することにつながり、悪事に加担していると見なされるのです。情報を買った企業は、被害者でもあり加害者でもあるのです。

そもそも学生自身が不利になり得るような情報を、企業側に提供OKとする人が何千人もいるものなのか、それらの情報は倫理的な方法で収集・分析されているものなのか、CSRでいう「人権デューディリジェンス」ができているか、このあたりの確認を怠ったということで、加害者であるのですね。デューディリジェンスなんかガバナンスの本丸だと思うのですが。このような広い視点を担当者には持っていただきたいです。

■初動の不備

8月1日に不祥事の発表をしてから、行政にツッコまれるまで謝罪会見をしませんでした。この姿勢もいつかのメディアでツッコミがありました。CSRでは、説明責任は必ず果たすべきものであるとされています。最初から、我々のガバナンス欠如と情報取り扱いに不備があったと謝ってればこんなに問題にならないのに。もちろん、上場企業であれば、様々なしがらみがあり簡単に謝れないというのもわかるのですが、あるステークホルダーの利益を守るために、他のステークホルダーの不利益を無視したり、不祥事の説明責任ははたさなかったり、というのではよろしくありません。これをしてしまうと、リクルートホールディングス全体でもそういう隠蔽体質があるのでは?と思われかねません。

■企業の広告の掲載責任

個人情報の塊である就職情報サイトで、データが勝手に使われていた(売られていた)ということは、次に起きるかもしれないのは「広告のトレーサビリティ」の問題です。

つまり、極端にいえば、リクナビに求人情報を掲載する企業は情報管理の甘い企業であり、心象的に「ここに求人を出し続けるということは、御社はリクルートキャリアの悪事に“加担”していることになるぞ」と。一時期、YouTubeで悪質な行為をする動画に企業の広告が掲載されていて、広告主の企業が広告を引き上げた(掲載をやめた)ということがありました。

これと似ていて、未上場の中小企業にはあまり大きな影響はないかもしれませんが、大手上場企業になれば、広告の炎上も増えていて様々な社会的な配慮が求められていますので、一旦求人情報を引き上げるとか、何かしらの対応が必要でしょう。そもそも取引先が不祥事起こしているのに取引をやめないとなると、加担そのものになってしまいます。ガバナンスの形骸化です。

ただ、実際には人手不足の社会状況の中、そこまでする企業はいくつかあるかも程度でとどまると思われますが、今回、データを買った企業の半分くらいは自己申告している(とりあえず情報開示をし説明責任を果たしている、あれまだ開示していない企業は?)ので、まずは自社の問題を認識している、という点でCSRのリスク対応としては合格点です。

■ESG評価の課題

昨今のCSR/ESG評価では「不祥事」の評価要素が大きくなっています。不祥事を一旦起こすと、CSR/ESG評価機関の調査票に答えても、そもそも評価反映がされないとか、そもそも評価対象からはずされてしまう、などがあるようです。特に海外のESG評価は不祥事に厳しいですよね。リクルートホールディングスがいくつかESG系のインデックスに入っていますが、どうなってしまうのでしょうか。たしか、組み込み期間内でも外されたケースがありましたよね。

ホールディングスとしてになりますが、東洋経済新報社「CSR企業ランキング2019」によれば、リクルートは昨年の135位からランクアップし90位と国内トップ100位以内となる、国内企業で最も社会的責任を推進している企業の1社となっています。コーポレートガバナンスの評価も非常に高く、初歩的なガバナンスの不備など起きないと思われてましたが…。残念でなりません。

※ESG(環境・社会・企業統治)

■真摯な反省からのカムバック

リクルートキャリアが、悪気なく始めたサービスではあったと思うのですが、そのビジネスの性質上、学生が採用活動で不利になる状況も起きかねないようなサービスである以上、もう少し慎重に対応すべきでした。

私としては、10年以上前ですが、確か転職の時はリクナビを使って転職した記憶があります。11年前に独立してからはお世話になっていませんが、CSR評価も高い企業だからこそ、改善すべき所はすぐに改善していただき、またトップオブトップに返り咲いていただきたいです(そもそもまだランクダウンしてませんが)。グループ全体でCSRおよびコーポレートガバナンス推進がされることを期待しています。また読者の皆様の会社でも、個人情報をビジネスに使う時は十分に配慮しましょう。