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ホンダ・武田薬品・ドコモがトップ3--社会貢献支出の最新動向

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
コロナ禍でも社会貢献を続ける企業はどこ?(写真:アフロ)

■日本企業で最も社会に貢献する企業は?

コロナ禍の中、多くの企業で業務の見直しや、業種によっては主力ビジネスの転換を強いられている企業もあります。そのような中でも、社会やステークホルダーのために動く企業もまた多くあります。もちろん、昨今の企業の社会面評価による投資であるESG投資や、SDGs(持続可能な開発目標)の盛り上がりも背景にはあります。これらは、必ずしも本業とは重ならない、いわゆる社会貢献活動(慈善活動)でありますが、実際のレベル感を知っているビジネスパーソンは少ないのではないでしょうか。

そこで、最新動向を知るために、先月東洋経済オンラインで発表された「社会貢献支出額ランキング」をシェアし、また、その他のコロナ禍における社会貢献活動に関する調査を含めて、国内の企業の最新動向をまとめ2021年下半期の流れを予想したいと思います。

■社会貢献支出額ランキング

社会貢献支出額ランキングとは、東洋経済新報社のCSR企業調査における、社会貢献支出の額面で格付けしたものです。この社会貢献支出の定義は以下の通りです。

「総額」「うち寄付金」「マッチング・ギフト」「うちその他」を100万円単位で表記。単位未満切り捨て。ただし、100万円未満の場合は小数第2位まで表記。社会貢献活動支出額の定義は、[1]「寄付金総額」(税法上課税・免税にかかわらず、社会貢献を目的とした寄付金、現物寄与などの総額)、[2]「その他社会貢献を目的とした各種事業への支出額」(税法上は広告・宣伝費などで処理されていても、実質は社会貢献活動と認識している支出を含む)の合計

■支出額ランキング2021

出典:最新「社会貢献にお金を出す」100社ランキング

上位20社の金額もすごいのですが、ここだけみても昨年より減らしている企業、増やしている企業、さまざまあります。調査自体は2020年夏のものなので、コロナの影響がまだ本格化していない企業もあります。トップのホンダは約96億円です。純粋な寄付だけではないものの、中小上場企業の年商をはるかに超える数字です。単純に称賛されるべき結果だと思います。

■支出額ランキング2020

出典:「社会貢献にお金をかけている企業」トップ100

ちなみに昨年の2020年ランキングは、トヨタがダントツ・トップ。3年連続で金額は縮小しているものの、常に2位ホンダの倍以上でした。

■ランキングから見えるストーリー

しかし…トヨタがいないのです。何度も資料を見直しました。順位だけが書いてあるWebページや書籍「CSR企業白書」だけではなく、直接トヨタの調査回答表(CSR企業総覧:2021年1月発行版)も確認しました。どうやら手違いなのか何なのか、真相はわかりませんが「回答なし」のまさかのランク外。こんなこともあるのですね。

2021年ランキングのトップグループは、1位ホンダ(95.8億円)、2位武田薬品工業(85.1億円)、3位NTTドコモ(77.9億円)という支出額になっています。ちなみに、昨年トップのトヨタの支出額は「190億円」です。トヨタも年々50億円程度支出を減らしていたのですが、それでもこの数字ですからね。ランキングの詳細でいうと、10億円以上の支出額は64社ありました。日本企業では上位100社くらいで、ほとんどの社会貢献支出を行なっている計算です。これは社会の一員として感謝しております。

特に上場企業であれば、寄付などは特に、するのはいいけどどれだけ成果出せたの?とはなります。加えて、この数値は2020年7月ごろの回答なので、コロナの影響がわかってきたところで、業種によっては寄付をカットした企業もあるでしょう。そろそろ来年発表分の回答調査が始まりますが、もっとコロナの影響もあるでしょうから、このランキングも来年は結構変わる、かもしれません。

ESG投資の普及により、上場企業は2050年環境目標など長期のコミットメントが求められる一方、短期の業績も同時に求められるという、ある種矛盾した社会的な要請を受けています。食品大手ダノンは、ESG評価が世界でもトップクラスだったのに、業績と株価が低迷したことなどが原因でCEOがクビになっています。

こういう短期利益を求めるならば、社会貢献活動全般は継続が難しくなります。では、それを打開する方法論はないのか、全体的にもそういう傾向があるのか、などについてももう少し説明いたします。

ちなみに、寄付限定ですが、企業寄付の国内規模は「7,909億円」(「寄付白書2017」より)となっています。少し古いデータですが、他の各種調査を見ても横ばいで推移しているので、2021年もそこまで変わっていないと予想されます。これを多いとみるか、少ないとみるかは、立場によって大きく変わりそうですが。

■コロナ禍のメセナ活動

・新型コロナウィルス感染症拡大によって企業のメセナ活動に「大いに影響がある」が54.8%、「やや影響がある」が17.9%で、影響がある(大いに影響がある+やや影響がある)回答は72.6%となっている。

・新型コロナウィルス感染症の拡大で、芸術文化活動にかかわる個人・組織への金銭的支援や活動再開に対する支援について「とても必要だと思う」が59.5%、「まあ必要だと思う」が36.9%で、必要だと思う(とても必要だと思う+まあ必要だと思う)回答は96.4%となっている。

・コロナ禍が過ぎた後、文化芸術の社会的な役割や存在価値がこれまで以上に高まると思うかを聞いたところ、「まあそう思う」が41.7%、「とてもそう思う」が34.5%で、肯定的な意見(とてもそう思う+まあそう思う)が76.2%となっている。

新型コロナウィルス感染症による企業メセナ活動への影響に関するアンケート調査結果

メセナは、1990年代から盛り上がり、バブル景気の時には、だいぶ派手な取り組みも多かったようですが、以降はやや下火になりつつも、継続的に広がっていきました。今でも大手企業で財団法人を運営しメセナ活動を行なうところも一定数あります。

さて、コロナ禍の企業の活動ですが、調査にあるとおり、芸術文化に関わる活動は“不要不急”の代表格みたいなもので、大変厳しい状況で、企業側としてもなんとか支援したいというところがほとんどだったようです。この調査のポイントは、今後のメセナについてですが、これまで以上に重要になるという回答が8割近くと、今後の盛り上がりを期待・予想するものとなっています。

■経営者の社会貢献意識

・経営者・役員の91.9%が、コロナ危機を経て長期的に企業を成させる社会貢献活動に取り組みたいと考えている

・経営者・役員の58.7%が新型コロナ対策に寄付・支援活動を行なっている

・新型コロナ対策に寄付・支援活動を行なっている企業・ブランドに「とても好感が持てる」「どちらかというと好感が持てる」と回答した一般社員は88.1%

新型コロナ対策への寄付・支援活動を行なった企業の 一般社員の87.4%がエンゲージメントが高い ーSDGsを認知する経営者200名に聞いた社会貢献活動番のハードルは「従業員への理解浸透」ー

さて、経営者は社会貢献活動をどう見ているか。この調査ですと、全体的には寄付含む社会貢献活動全般は、好意的に理解され実際に活動も進んでいる様子がうかがえます。コロナ対策という現在の状況なので、1年後も同じ意識レベルかと言うとさすがに落ち着くはずですが、経営層や一般社員でも、コロナで困っている人を助けたいし、実際に動いている、という結果になっています。

ここまで、ランキングから調査までいくつかデータを見てきましたが、コロナ禍だから減った社会貢献活動も、コロナ禍だから増えた社会貢献活動もどちらも観測されています。つまり、すべての企業が動く傾向があるのではなく、それぞれの企業がそれぞれのフェーズですべきことが実践されている、とみるべきでしょう。

慈善活動は経済的リターンが見込みにくいため、景気に左右される側面も大きいですが、コロナ禍では慈善活動が一定レベルで進みそうです。ぜひ、みなさんも、できることがあれば寄付等に取り組んでみてはいかがでしょうか。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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