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組織マネジメントにCSRが効くかもしれない話

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
組織の悩みはいつも「人」の話ばかり…(写真:アフロ)

■ボトムアップ型の組織マネジメント

昔からではありますが、ビジネスは人が動くことで成り立っています。将来的にはAIやロボット等の普及によって労働の考え方が大きく変わるとしても、直近のビジネスの課題(リスクも機会も)の多くが人にあることは間違いありません。ただそれは誰もが知っていることではあるものの、それができれば苦労しないよという類の話であり、日々、世界中でマネジメントの試行錯誤が行われています。

そこで、その課題解決に貢献できるかもしれない概念として今回紹介したいキーワードが「創発」です。創発とは、従業員個々の能力や発想を組み合わせて、柔軟で創造的な成果に結びつける取り組みのことです。いわゆるボトムアップ志向(現場重視型)の組織マネジメント手法です。私が6月末に上梓する書籍ではもっと詳しくまとめているのですが、本記事では、従業員が主体となる事業展開やマネジメントを「創発型」として、企業事例や関連データを確認しながら、最新事例を紹介します。

結論からいいますと、創発型のCSR(企業の社会的責任)活動が、組織マネジメントを活性化させて、経済的・社会的な価値創造に貢献しうるのではないか、という話です。

■創発とは

創発に近いもしくはつながりがあるキーワードとしては、オープンイノベーション、コラボレーション、共創、レジリエンス、などが挙げられます。これらは私の専門である「CSR(企業の社会的責任)」や「サステナビリティ(持続可能性)」の文脈でもよく見聞きします。

現代社会は、不確実で変化の大きい時代であり、目標を決めてトップダウンで実務を遂行するのでは、社会の変化にマネジメントもオペレーションも追いつけないことが増えている、という社会背景もあります。そのような状況の中で、偶発的な展開や事業成果も含めて、現場主導で動くボトムアップ式にマネジメント(事業活動)を行うとよいのではないか、と。そのマネジメント手法の一つが「創発」です。もちろん、組織マネジメントの課題が創発という概念だけで解決できるわけではありませんが、社会の変化に現場から対応するという意味で、有効に機能しそうだ、という話が本記事の主旨でございます。

■CSRランキング上位20社

CSR活動による創発が組織マネジメントにポジティブな影響を出すとすると、そもそもCSR評価が高い企業の中では創発的な取り組みが行われている可能性もあります。そこで、先々週発表となったCSR関連の最新データも交えてまとめます。

◯ESGカテゴリ・トップ20社

SOMPOホールディングス、NTTドコモ、丸井グループ、KDDI、富士フィルムホールディングス、オムロン、トヨタ自動車、帝人、ブリヂストン、東京海上ホールディングス、富士ゼロックス、花王、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、アサヒグループホールディングス、TOTO、セイコーエプソン、日本電信電話、NEC、セブン&アイ・ホールディングス、コマツ(ESG企業ランキング2019年版:環境、社会、企業統治、人材活用の4カテゴリの総合評価)

◯人材活用ランキング・トップ20社

花王、ANAホールディングス、SOMPOホールディングス、SCSK、ワコールホールディングス、みずほフィナンシャルグループ、三井物産、第一生命ホールディングス、コマツ、丸井グループ、キユーピー、大和証券グループ本社、日本生命保険、KDDI、ヤフー、中外製薬、味の素、TOTO、日本ユニシス、東京海上ホールディングス(CSR企業ランキング2019年版・部門別、人材活用ランキング)

「ESG企業ランキング」の上位企業は、CSR/ESG/サステナビリティというカテゴリのトップ企業群です。CSRクラスタではよく見聞きする企業ばかりです。さらに今回は人材活用がテーマになるので、人材活用という部門別ランキングの企業もピックアップしてみました。

ここでいう「人材活用」とは、多様な人材活用、人権・労働問題、障害者雇用、人事評価制度、ワークライフバランス、休暇制度、労働安全衛生、などの項目を指します。上記の企業の具体的な取り組みや傾向等を調べましたが、有意性の高い共通項は見つけられませんでした。具体的な取り組みよりも、その仕組み・枠組みをどれだけ作り込めるかなど、外部に情報としてあまり出てこない部分が重要という可能性もあります。

※データ出典:「CSR企業白書2019」(東洋経済新報社、2019年4月)

■事例:SOMPOホールディングスのCSR推進組織

やはり細かい組織マネジメントに関しては、企業サイドに聞いてみるしかないということで、ランキングに入っているいくつかの企業にヒアリングの打診をさせていただき、今回はESGランキング1位のSOMPOホールディングス(以下、SOMPO)に、話を聞かせていただく機会をいただいたので創発型マネジメントのヒントなるであろうCSR活動の一部を紹介します。

SOMPOのオペレーションでは、国内トップクラスのマネジメントが行われていました。SOMPOではCSRへの取組みを行う行動管理ツールとして「CSR実施計画表」が活用されており、この管理ツールを各組織内で活用することで、社員個人の通常業務の中にCSRを組み込ませています。ここでのポイントは、社員自身が活動の企画、実施、効果測定、改善、を行なっている点でしょう。従来型のCSRでは、経営層もしくはCSR担当部門が活動内容を決めてから現場に指示し実施してもらうプロセスですが、SOMPOでは社員自身でPDCAがまわせるように支援ツールを充実させマネジメントを試みています。

社内向けのコミュニケーションにおいては、「グループ報(社内報)」でもCSRに関する情報を発信しています。現場のCSR推進担当者となる「CSRチェッカー」には毎月「かわら版(担当者限定社内報)」で、社内のCSRの話題をまとめて情報配信をしています。この時に、現場にはCSR活動は事業活動とは別の取り組みであるという形では伝えていないそうです。あくまで「本業(通常業務)を通じて社会に貢献する取り組み」がCSRであると定義し、年度始めの実施計画を立てる際にも、社会貢献活動(慈善活動)ではなく、あくまで本業における取り組みであることを強調し現場に伝えています。つまり、社会やステークホルダーを意識し通常業務を行うことがCSRの最も基本的な活動であることを理解してもらい、またCSR活動を通常業務として行うことで成果を生み出すようにしているそうです。

SOMPOの話を聞いて仮説が確信に変わったのですが、CSRマネジメントがボトムアップに向いている究極的な理由が、その他の部門と違い“利益貢献を軸としない”ものであるため、ステークホルダーの利益に資するマネジメントやオペレーションができる点が挙げられます。そのため人事や経営企画系の部門の組織マネジメントとは異なるベクトルや方法論も実践可能となり、より現場をマネジメントできる可能性があるのではないでしょうか。CSR文脈だからこそ創発型マネジメントが行えている、とも言えます。これが大義名分のないボトムアップ型・マネジメントだとすると、もしかしたらうまくいかない可能性も…。

■創発から始まる新たな価値創出

創発を意図的に起こすためには、従業員自身へのアプローチもですが、どちらかというとSOMPOのようにその仕組みづくりをまずすべきなのでしょう。例えば、SOMPOの創発的な取り組みで成果が出始めているから真似しよう、というのは得策ではありません。ほとんどの場合は、他社は他社の文脈で成功したもしくは成功が見えてきているだけであり、再現性が高いというものではありません。しかしながら、組織開発にCSRを通じたエンゲージメントといいますか、ボトムアップ的な仕組みを導入することで、創発が起きやすくなり、新たな企業価値および経済的・社会的価値の創出に貢献することができるかもしれません。

CSRが、組織の創発的な動きを活発化させる切り札になるかもしれない。これまでは、CSRはコストセンターだと言われてきましたが、利益最優先の活動ではないからこそ、組織への展開の可能性がとても大きいかもしれません。組織開発などに興味のある方は、今後は、ぜひCSRという視点にも注目してみてください。個人的には非常に興味があるカテゴリなので、引き続き調査していきます。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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