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昆虫の仰天擬態を暴く③=土瓶を割る巨大シャクトリ虫、トビモンオオエダシャク#イモムシ

天野和利時事通信社・昆虫記者
トビモンオオエダシャクの幼虫。大きなシャクトリ虫だが、どうやって土瓶を割るのか。

 シャクトリ(尺取り)虫が土瓶を割るって、どういうこと。アナコンダやニシキヘビが獲物を絞め殺して食べるように、巨大イモムシが土瓶に巻き付いて割ってしまうのか。

 トビモンオオエダシャクの幼虫は日本最大級のシャクトリ虫だが、その別名は「土瓶割り」。土瓶をどうやって割るかというと、日本昔話に出てきそうなその様子はちょっとユーモラスだ。

 シャクトリ虫の特徴と言えば、尺を取る(長さを測る)ような独特の歩き方と、じっと動かずに木の枝に成りすます擬態だ。トビモンオオエダシャクの幼虫はかなり大きい(長さは最大10センチ近くになる)ので、そこそこ太い枝のように見える。頭部の突起は猫の耳のようで可愛いのだが、その猫耳も枝に擬態している時は、枝先の新芽のように見える。

トビモンオオエダシャクのような猫耳の芋虫は、虫ガールにも結構人気がある。
トビモンオオエダシャクのような猫耳の芋虫は、虫ガールにも結構人気がある。

 農作業の合間のお茶の時間に、木の枝に土瓶(持ち手が上部についた陶製の茶器)を掛けたと思ったら、その枝が大きなシャクトリ虫だったので、土瓶が地面に落ちて割れたという話が「土瓶割り」の名の由来だという。

 本当にそんな珍事があったのかどうかは分からないが、今時のユーチューバーが面白がって撮った「土瓶を割る動画」が存在しても不思議はない。そのためにはまず、トビモンオオエダシャクの大きな幼虫を見つけなければならないが、やつらの見事な擬態ぶりをユーチューバーが簡単に見破れるとは思えない。

こんな状態のトビモンオオエダシャク幼虫に土瓶を掛けた人がいるのかも。
こんな状態のトビモンオオエダシャク幼虫に土瓶を掛けた人がいるのかも。

 どうしても「土瓶割り」級の大きな幼虫を手に入れたいなら(そんな人は昆虫記者以外にはまずいないが)、4、5月にサクラやカシの木にたくさんいるトビモンオオエダシャクの小さな幼虫を捕まえて、1カ月ほど飼育するのが良い方法だ。そして見事土瓶が割れたら、野外に戻してやるのがいい。

トビモンオオエダシャクの小さな幼虫は4、5月ごろにたくさん見つかる。
トビモンオオエダシャクの小さな幼虫は4、5月ごろにたくさん見つかる。

死んだように動かないトビモンオオエダシャクの終齢幼虫。落ちた枯れ枝のように見える。
死んだように動かないトビモンオオエダシャクの終齢幼虫。落ちた枯れ枝のように見える。

春に羽化するトビモンオオエダシャクの成虫。
春に羽化するトビモンオオエダシャクの成虫。

 虫好きなら蛹化、羽化させたいと思う人もいるだろうが、羽化するのは翌年の春なので、よほど気の長い人でないと付き合いきれない。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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