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人工衛星が観測した令和6年能登半島地震

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成

2024年1月1日16時10分ごろに発生した令和6年能登半島地震の被災地を日本の地球観測衛星「だいち2号(ALOS-2)」をはじめ、日本と世界の衛星が観測している。民間各社の画像公開も進んでおり、被害状況や地盤の変化が見えてきている。能登半島の状況を中心に、複数の衛星データを突き合わせることで地震の影響が数多く見つかった。

JAXA「だいち2号」、アクセルスペース「GRUS」が順次データ公開

JAXAが2014年から運用する合成開口レーダー衛星「だいち2号(ALOS-2)」は、レーダーで地表の変化を観測する衛星であり、地震のような地盤の変化を捉えることに向いている。ALOS-2は1月1日、1月2日に緊急観測を行い、国土地理院が発災後と過去のデータを比較した地殻変動の解析結果を公開した。

国土地理院のALOS-2解析結果[1](2.5次元解析)

解析:国土地理院 原初データ所有:JAXA
解析:国土地理院 原初データ所有:JAXA

国土地理院のALOS-2解析結果[2](ピクセルオフセット解析)

解析:国土地理院 原初データ所有:JAXA
解析:国土地理院 原初データ所有:JAXA

能登半島全体で大きな地盤の変動があり、2種類の解析手法を用いた解析結果の速報値では、2.5次元解析(※1)では輪島市西部で最大約4mの隆起と最大約1mの西向きの移動が見られたという。ピクセルオフセット解析(※2)では、1月1日の観測を元にした解析では輪島市西部で約3mの変動と珠洲市北部で最大約1mの変動がみられ、1月2日の観測データでは輪島市西部で最大約4mの変動が見られたという。

※1:衛星が南向き、北向きに飛行した際の観測データを重ね合わせ、上下と東西方向の地盤の変動を捉える解析手法

※2:2つのSARデータを重ね合わせて地殻変動を抽出する解析手法

国土地理院「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震(2024年1月1日)に伴う地殻変動(2024年1月2日発表)

https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto.html

日本の衛星地球観測ベンチャー企業Axelspace(アクセルスペース)は、1月1日の発災を受けて同社の光学地球観測衛星「GRUS」による緊急観測と画像公開を開始した。太陽光で撮影する光学衛星のため天候によって観測の成否があるが、1月2日の午前10時04分に最初の撮影に成功した。能登半島の石川県輪島市、七尾市周辺とと富山県富山市周辺の観測画像が公開されている。

Axelspaceの光学地球観測衛星「GRUS」による1月2日午前の観測範囲(石川県輪島市、七尾市周辺)

(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成
(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成

Axelspace 令和6年能登半島地震特設ページ

https://www.axelglobe.com/ja/the-noto-hanto-earthquake-in-2024

倒壊したビルが道路に覆いかぶさる 輪島市河井町付近

輪島市の中心街で河原田川の河口付近では、大規模な火災やビルの倒壊が発生している。GRUS観測画像に地図を重ねると、国道249号の交差点付近で道路の上に白く覆いかぶさるものが見えている。パスコが提供する仏エアバスの光学地球観測衛星「Pleiades Neo(プレアデス・ネオ)」が1月2日10時49分に撮影した画像では、倒壊したビルが道路側に倒れ込んでいる様子がわかる。地上で詳細を撮影した画像も多い被害だが、複数の衛星画像を突き合わせることで、道路上の異変を発見することが可能となる。

輪島市中心街で倒壊したビル(Axelspace公開画像と地理院地図重ね合わせ)

(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成
(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成

輪島市中心街で倒壊したビル(Axelspace公開画像)

(C)Axelspace
(C)Axelspace

2023年12月6日時点の同じ地点の衛星画像

Credit: European Union, contains modified Copernicus Sentinel data 2024
Credit: European Union, contains modified Copernicus Sentinel data 2024

ビル倒壊の詳細

提供:株式会社パスコ Pleiades Neo3・Pleiades Neo4:(C)Airbus DS 2024
提供:株式会社パスコ Pleiades Neo3・Pleiades Neo4:(C)Airbus DS 2024

撮影地点:37.393988056732574, 136.90310765314223 周辺

激しく隆起したエリアで海岸沿いに異変

輪島市西部の門前町では、八ケ川の河口で地震発生前の12月とは様子が一変している。2023年12月6日撮影の光学衛星の画像(欧州Copernicus計画のSentinel-2衛星)と比べると、もともとあった海岸線の外側に新たに砂浜が広がっているようにも見える。このエリアは、国土地理院の解析で最大約4mの隆起が見られたところだ。海岸線の変化はこれを反映している可能性がある。同様の異変は輪島市大沢町周辺でも見られ、大沢漁港の使用が難しくなっていることも考えられる。

海岸の様子が一変した八ケ川河口付近(Axelspace公開画像と地理院地図重ね合わせ)

(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成
(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成

海岸の様子が一変した八ケ川河口付近(Axelspace公開画像)

(C)Axelspace
(C)Axelspace

2023年12月6日時点の同じ地点の衛星画像

Credit: European Union, contains modified Copernicus Sentinel data 2024
Credit: European Union, contains modified Copernicus Sentinel data 2024

海岸の様子が一変した大沢漁港付近(Axelspace公開画像と地理院地図重ね合わせ)

(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成
(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成

海岸の様子が一変した大沢漁港付近(Axelspace公開画像)

(C)Axelspace
(C)Axelspace

2023年12月6日時点の同じ地点の衛星画像

Credit: European Union, contains modified Copernicus Sentinel data 2024
Credit: European Union, contains modified Copernicus Sentinel data 2024

撮影地点:37.28797699341911, 136.73861295793915 周辺(輪島市門前町)

撮影地点:37.375815857851954, 136.8010607110002 周辺(輪島市大沢町)

津波による土砂流出か、河口付近の海水変色

輪島市の能登半島の各地で、河口付近で海水が変色している様子が見られる。津波で川を遡上した水が引き際に土砂を押し流した土砂流出の可能性があり、七尾市の熊木川河口付近では、七尾西湾に向かって変色した水が2500m以上広がっているようにも見える。かき養殖の盛んな地域で、土砂流出の影響も懸念される。

海水が変色している熊木川河口の様子(Axelspace公開画像と地理院地図重ね合わせ)

(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成
(C)Axelspace,地理院地図をもとに筆者作成

海水が変色している熊木川河口の様子(Axelspace公開画像)

(C)Axelspace
(C)Axelspace

2023年12月6日時点の同じ地点の衛星画像

Credit: European Union, contains modified Copernicus Sentinel data 2024
Credit: European Union, contains modified Copernicus Sentinel data 2024

撮影地点:37.101459844527845, 136.86760636698267 周辺(七尾市中島町)

今後も続く地震被害の衛星観測

被災地の衛星観測はこれだけではなく、Axelspaceは今後も観測とデータの公開を続けると表明している(1月3日は天候不順のため撮像はできていない)。米国のMaxar TechnologiesやPlanet Labsも光学衛星の画像を報道機関向けに公開しており、日本の合成開口レーダー衛星企業Synspectiveも1月7日以降に観測を予定、画像公開を表明している。初期の地震の被害の把握だけでなく、今後発生する可能性がある土砂災害など状況の変化に対応する意味でも、衛星データの公開と利用拡大が望まれる。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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