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衛星画像と足跡GPS追跡で判明「オスのゾウは好みの食べ物の場所へ突き進む」ケニアで研究

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
(C)Ewan Brennan/Save the Elephants

オスのアフリカゾウは、好んで食べる植物がある場所へと突き進み、保護区の外で人間と衝突することが多い――オックスフォード大学の研究チームが足跡のGPS追跡と、衛星画像による植生分類マップを重ね合わせて明らかにした。論文はオンラインジャーナル「リモート・センシング」誌に掲載された。

アフリカでは、野生のアフリカゾウが保護区の外で人の住む領域にたびたび侵入し、野生動物と人間との衝突が課題になっている。人口の増加によって人間とゾウがより近くで生活するようになったことから事故が増え、ケニアでは2010年から2017年の間にゾウとの遭遇に関連した死亡事故が約200例報告されているという。農作物を荒らされ、農家1件あたり800米ドルを超える被害が出ているという報告もある。

ゾウと人間の生活の干渉を防ぐには、ゾウの行動パターンと地域の特徴の関係を明らかにする必要がある。オックスフォード大学とナイロビを拠点に活動する環境保護団体「セーブ・ジ ・エレファント」の研究チームは、約1万5000頭のアフリカゾウが生息するケニア最大の動物保護区「ツァボイースト国立公園」「ツァボウエスト国立公園」に隣接する地域で、ゾウが好む植物と行動パターンとを重ね合わせる研究を行った。季節による植生の変化とゾウの行動パターンに着目した研究はこれまでにもあったが、「ゾウの好みの植物」に着目した研究は初めてだという。

調査はツァボイースト国立公園の南側、ケニア南部の沿岸州タイタ・タベタ郡のサガラ地域で行われた。この地域は鉄道の発達に伴って農地が拡大し、国立公園と人間の住む地域の間にあった緩衝地帯が農地に変わりつつある。ゾウは南北に移動することが多く、国立公園を出て緩衝地帯を通過する際に農地に侵入し、貯水タンクや家屋などの設備を破壊してしまうことも多かったという。

研究チームは、欧州の光学地球観測衛星Sentinel-2(センチネル2)の画像を使ってサガラ地域の植生分類を行った。センチネル2は解像度10mの観測データを無償で利用でき、データには可視光(RGB)のほかに近赤外や短波赤外の波長のデータが含まれる。複数の波長データを組み合わせることで、植物の特徴や地形の特徴を捉えることができる。

衛星データによる土地被覆(森林や農地、都市など地面がどのような状態にあるか)分類は光学衛星画像の利用としては一般的だが、調査では「草原」「森林」「灌木地」といった大まかな土地被覆分類に加えて植物の種類を分類している。地上での調査を元に機械学習を取り入れ、5種類の主要な植物とそのサブグループに分類することができたという。

2022年にサガラ地域で発生したゾウの農作物襲撃事件の後、セーブ・ジ・エレファントの調査員は足跡を測定してゾウの年齢を判定する調査を行った。写真提供:Kat Finch
2022年にサガラ地域で発生したゾウの農作物襲撃事件の後、セーブ・ジ・エレファントの調査員は足跡を測定してゾウの年齢を判定する調査を行った。写真提供:Kat Finch

衛星画像から作成したサガラ地域の植生マップの上に、ゾウの足跡を追跡し、ルートをGPSロガーで記録したデータを重ねた。データは2015年から2020年まで6年分におよぶという。GPS首輪をゾウに取り付けて行動を追跡する手法もあるが、電源などの制約から位置情報測定の間隔は1時間おきになってしまう。足跡を追跡する手法であれば、はるかに連続的なゾウの行動追跡が可能だ。

2015年から2020年までの268頭のアフリカゾウのGPS行動追跡データ。出典:https://doi.org/10.3390/rs14215386
2015年から2020年までの268頭のアフリカゾウのGPS行動追跡データ。出典:https://doi.org/10.3390/rs14215386

268頭のアフリカゾウの移動データを重ねた結果、オスのゾウだけが食べるシクンシ科のコンブレツム(ブッシュウィロー)や、多肉植物のシッサスなど「好みの植物」があり、オスはその場所に向かって歩く行動をよくとっていることがわかった。メスや子ゾウを含む家族のグループは、グループ全体が食べられるコンミフォラなどの植物のある場所へ移動していく。オスとメスが一緒に移動する場合は、両方が好む植物がある場所へつながるルートを移動していった。

ゾウの行動追跡データと衛星画像による植生マップを重ねた地図。出典:https://doi.org/10.3390/rs14215386
ゾウの行動追跡データと衛星画像による植生マップを重ねた地図。出典:https://doi.org/10.3390/rs14215386

アフリカゾウが好みの植物の場所へどのようにアクセスするのか、その行動パターンを理解することで、人間の生活と干渉する頻度が高い衝突の「ホットスポット」を特定することができる。干渉を避けるための対策をホットスポットに集中させることができ、より効果の高い対策を行って、アフリカゾウを保護することにつながる。2014年以降、干ばつによってゾウが食べられる食物が減り、国立公園から5キロメートル以内の地域では農作物が荒らされる被害も増えている。生物多様性の保全に対する脅威である人間と野生動物の衝突を防ぐため、衛星画像とGPS位置情報という2つの宇宙データを利用した研究がさらに必要になる。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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