構想から約32年、大型宇宙望遠鏡ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が日本時間2021年12月25日21時20分に打ち上げられる。米国欧州カナダの共同計画でハッブル宇宙望遠鏡の後継機であるJWSTは、口径約6.5メートルと宇宙望遠鏡としては世界最大の主鏡を持ち、宇宙の初期の姿や系外惑星の環境を調べる能力を持つ。

Credit: NASA
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当初2007年の打ち上げ計画から、開発難航で何度も延期され、射場のあるギアナ宇宙センターに到着してからもロケット搭載の調整や天候のため打ち上げ日時が変更になった。気をもませるJWSTの打ち上げだが、25日夜にロケットから衛星が分離されてもすぐに成功ではない。これから6カ月、史上最大の宇宙望遠鏡がその真価を発揮できるかどうか、関係者は2022年夏まで気をもまなくてはならないのだ。JWSTはなぜ観測開始までにそれほど時間がかかるのか。その理由は、人間の目では見えない波長で太古の宇宙を観測するという目標と深く絡み合っている。

Credit: NASA
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ハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げられる前年の1989年、その後継機の検討は始まっていた。「ハッブルを超える」観測を目指した「次世代宇宙望遠鏡(NGST)」は、口径8メートル以上の主鏡を持ち、紫外線から赤外線までの波長で遠方の銀河や系外惑星の観測を目指していた。その後の技術検討で紫外線と赤外線観測の両立が難しいことから、NGSTは赤外線で観測する望遠鏡の計画となり、2001年に主鏡6.5メートルの構想が決定。2002年にアポロ計画時代のNASA長官の名前にちなみ、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」と命名された。2004年から開発が始まったJWSTは、2011年に18枚に分かれた六角形のミラーから成る主鏡が完成し、各国の開発部分を統合して2017年末、ついに全体が完成する。

Credit: NASA/Chris Gunn
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JWSTは、可視光では宇宙に漂う塵やガスに遮られて地球から見ることができない天体の姿を近赤外と中間赤外の波長で捉える。宇宙の膨張とともに遠方の天体が発する光は赤方偏移によって赤外線の領域になっていくため、遠く、そして古い宇宙の初期の天体に迫るには赤外線での観測が必要だ。また近赤外から中間赤外の領域には、水やメタン、オゾンなどの物質で吸収されたときに特徴を示す部分がある。これを捉えることができれば、太陽系の外の惑星に生命を育む環境が存在するかどうか知る手がかりとなる。

赤外線の明るさはごくわずかな温度変化として感知されるため、JWSTは主鏡とセンサーを-233という絶対零度ギリギリの極低温までヘリウムで冷却する必要がある。太陽光で温度が上がってしまわないように、常に太陽光を遮って低温環境を保たなくてはならない。サンシールドはアルミニウムと樹脂製の断熱シートを5層に重ねたもので、太陽に向けた側は85の高熱になっても、主鏡の側を極低温に保つ働きがある。ハッブルの100倍という超高感度の観測機器を文字通り支える、JWSTの技術の中核だ。

Credit: NASA/Chris Gunn
Credit: NASA/Chris Gunn

望遠鏡を極低温に保つという条件はJWSTの観測地点である月よりも遠い第2ラグランジュ点(L2点)とも関係する。地球から約150万キロメートル離れたL2点は、地球と月の重力の釣り合いから衛星の位置を保ちやすく、サンシールドを常に太陽の側に向けて安定した姿勢をとれる。2013年に打ち上げられた欧州の天文衛星「ガイア」もこのL2点で観測しており、欧州が実績を持つ打ち上げ目標だ。

L2点までの旅

Credit : ESA
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JWSTの主鏡の幅は約6.5メートル、高さは8メートルあり、主鏡の台座である5層のサンシールドは幅14.2メートル、長さ21.2メートルのひし形をしている。仏アリアンスペースの大型ロケット「アリアン5」に搭載され、仏領ギアナのギアナ宇宙センターから打ち上げられる。搭載ロケットのアリアン5は、日欧共同の水星探査機「ベピコロンボ」を打ち上げた大型ロケットだが、このアリアン5のフェアリングを目一杯使っても巨大な主鏡とサンシールドを畳んで収納しなくてはならない。打ち上げから1カ月、宇宙望遠鏡はまず自身を展開する作業を始める。

Credit : ESA
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大型宇宙望遠鏡ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が日本時間2021年12月25日21時20分に打ち上げられる。

まずはひし形のサンシールドを広げ、太陽の側にシールドを向ける。続いて折りたたまれた副鏡を主鏡の前に広げ、主鏡の両サイドの翼部分を展開。ようやくJWSTの観測形態が完成する。18枚のミラーが一体の主鏡となってその機能を発揮するには、近赤外の波長であるナノメートル精度で位置を合わせなくてはならない。ハッブル宇宙望遠鏡は、打ち上げ後に機器の不具合がみつかり、スペースシャトルで数回の「大修理」ミッションを経て修理や機器のアップグレードを行った。これは、高度570キロメートルと地球に近い軌道だからこそ可能になったもの。現状ではL2点まで人が行くことはできず、JWSTの展開はすべて機械による一発勝負の作業となる。関係者には緊張の絶えないこの段階を乗り越えるのは、2022年の1月後半。そして打ち上げから2~3カ月ごろL2点で観測機器を起動し、4~5カ月ごろまで機器の点検を行う。ファーストライト(初観測)まで打ち上げから6カ月かかり、ようやく日本人天文学者も参加する第1期観測計画が始まるのだ。

1990年の打ち上げから現在まで長く活躍しているハッブル宇宙望遠鏡は、人の目に見える可視光での観測を行う。そこで見せてくれたのは、息を呑むような宇宙の美しい姿だった。一方で赤外線での観測を行うJWSTは、観測したデータを人の目で見る場合に画像化する作業が必要になる。2011年まで活躍したJAXAの赤外線天文衛星「あかり」の場合、観測データに色を割り当てて合成した「疑似カラー画像」などの形で成果が公開されており、JWSTの成果も同じようになると考えられる。打ち上げから6カ月、心の目の解像度を上げてジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が見せてくれる新たな宇宙の姿を待ちたい。

JWSTの打ち上げ中継は、日本時間12月25日20時から、NASA TVで開始される。

https://www.nasa.gov/live