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NASA火星探査機の新たな打ち上げ日発表、翌日には中国が連続打ち上げか

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
火星ローバー Perseverance。Credit : NASA/JPL

2020年6月25日、NASAは火星探査機「Mars 2020/Perseverance(パーサヴィランス)」の打ち上げを新たに2020年7月22日午前9時35分(日本時間22日午後11時35分)と発表した。翌7月23日には中国が初の火星着陸探査機「天問一号」を打ち上げると見られ、米中の探査機が2日の間に連続して火星へ出発する可能性がある。7月15日にはUAE初の火星探査機「HOPE」も鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられる予定だ。

打ち上げ準備中の火星ローバーPerseveranceは、Atlas Vロケット搭載準備中の問題により打ち上げ予定日が7月22日となった Credit: NASA/Christian Mangano
打ち上げ準備中の火星ローバーPerseveranceは、Atlas Vロケット搭載準備中の問題により打ち上げ予定日が7月22日となった Credit: NASA/Christian Mangano

NASAの火星探査機「パーサヴィランス」は、2012年から開発が始まった火星表面を移動する探査ローバー。火星の赤道に近い「ジェゼロ」クレーター内に着陸し、3~4億年前に川の流れが形成したデルタ地帯と考えられている場所を調査する。この地域には、微生物が作った物質が存在する可能性があり、火星に生命が存在した直接的な証拠を探す。

これまでNASAは1997年の「ソジャーナ」、2003年の「スピリット」「オポチュニティ」、2012年の「キュリオシティ」と連続して火星ローバーのミッションを成功させてきた。パーサヴィランスは、これまでと同様に火星の地表を撮影するカメラや表土を分析する分光計などの機器に加え、史上初の「火星サンプルリターン」に向け、地表の物質を採取して容器に収めるミッションを実施する計画だ。採取された火星の物質は、米欧共同の回収ミッションで10年かけて地球に持ち帰られる。

10年ごとの大型ミッションである火星ローバー「パーサヴィランス」は、すでに米フロリダ州ケープカナベラル空軍基地に到着し、アトラスVロケットでの打ち上げ準備中だった。当初は7月20日に打ち上げ予定だったが、ロケット搭載の作業中に地上設備で混入物の問題が発生したことから、2日延期されることになった。打ち上げと同様に重要な火星への着陸は、2021年2月18日となる予定だ。

地球から火星へ探査機を打ち上げらるのに適したタイミングはおよそ2年ごとに訪れるため、火星探査機の打ち上げも一定の期間に集中することになる。1971年5月には、アメリカのマリナー8号、9号、ソ連のマルス2号、3号と失敗も含めて4機の火星探査機が打ち上げられたことがある。とはいえ、2020年はUAE、アメリカ、中国と3カ国の火星探査機が7月に集中する珍しい年となる。

中国初の火星着陸探査機「天問一号」は、初火星ミッションで火星への軌道投入とローバーによる火星表面探査を両方とも実施する計画となっている。航天科技集団公司(CASC)開発による探査機は90火星日の活動を目標とし、NASAと同様に火星の生命の存在につながる物質を探査する予定だ。2020年代後半には、火星からのサンプルリターンも計画している。

中国は打ち上げ予定日を事前にほとんど公表しないため、確定の日付はまだわかっていない。中国国内の打ち上げ情報サイトやNASAの宇宙ミッションカレンダー等によれば、天問一号の打ち上げ可能期間(ウインドウ)は7月23日から8月15日とみられる。ウインドウ初日に打ち上げが実施されれば、7月22日、23日と連続して火星探査機が打ち上げられることになる。天問一号の火星着陸は2021年4月ごろとされる。

開発中の火星探査機「HOPE」Credit : MBRSC
開発中の火星探査機「HOPE」Credit : MBRSC

7月15日には、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ政府機関MBRSCによる火星探査機「HOPE」が種子島宇宙センターからH-IIAロケット42号機で打ち上げられる。中東初の火星ミッションとなるHOPEは、火星を周回し大気の観測を行う探査機だ。太陽の活動により、火星の大気が宇宙へと流出して気候が変化した過程の解明に挑む。

7月は火星探査という大型ミッションが連続して10日あまりの間に打ち上げられる月になるかもしれない。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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