初有人飛行からわずか4日でスペースXが通信衛星打ち上げ。「光害」対策を導入

スターリンク衛星8回目の打ち上げ 出典:SpaceX打ち上げ中継より

日本時間2020年6月4日午前10時25分、米スペースXは同社の開発する通信衛星網「Starlink(スターリンク)」衛星の打ち上げを行った。5月31日の有人宇宙船「Crew Dragon(クルードラゴン)」初有人飛行から4日目で「Falcon 9(ファルコン9)」ロケットを打ち上げ、第1段の帰還・回収もこれまで同様に成功させた。スターリンク通信衛星の打ち上げは今回で8回目となり、夜空で衛星が明るく見えて天体観測の障害となる「光害」への対策が施された新たな試験衛星が含まれている。

60機のスターリンク衛星の分離。出典:SpaceX打ち上げ中継より
60機のスターリンク衛星の分離。出典:SpaceX打ち上げ中継より

スターリンクは、スペースXが開発・運用する通信衛星網サービス。従来から世界で利用されている静止軌道上の通信衛星と異なり、地球低軌道を高速で周回しながら通信を提供する。静止衛星よりも衛星と地表との距離が近く、高速の通信サービスが可能で、接続手段が乏しい地域でも高速インターネットが利用可能になるとしている。

今回は2019年5月の初打ち上げから8回目となる打ち上げで、これまでに軌道に投入した420機と合わせて480機の衛星を軌道投入することになった。これまでの420機と異なるのは、衛星の設計や運用の仕方を見直した“バイザー衛星”と呼ばれる光害対策を施した衛星を導入していることだ。

2019年のスターリンク衛星打ち上げが始まって以来、スペースXは「天体観測の障害になる」との批判に直面してきた。スターリンク衛星には、太陽光が反射して明け方や夕方の空で星のように明るく見えることがある。同様の現象は、衛星携帯電話サービスなどを提供するイリジウム衛星でも見られたもので「イリジウムフレア」として知られていた。しかしスターリンク衛星は圧倒的に衛星数が多く、計画全体では1万2000機、初期段階でも4000機以上の衛星を軌道投入する予定だ。このため光害の規模が圧倒的に大きく、チリに建設中のヴェラ・C・ルービン天文台など光学望遠鏡で広範囲な観測を行う全天サーベイ型の天文観測施設には多大な影響があると懸念されている。

スペースXは批判に対し、米国科学アカデミーとの協議の元で改良型スターリンク衛星の開発を進めてきた。従来型のスターリンク衛星は5.5等級ほどの明るさで地上から見えていた。肉眼で見える天体の明るさは6.5~7等級が限界とされ、スペースXは7等級まで衛星の明るさを低減する目標を設定した。

衛星を黒く塗装した「ダークサット」型の改良スターリンク衛星。放熱に問題があることから試験衛星のみとなった。Credit : SPACEX
衛星を黒く塗装した「ダークサット」型の改良スターリンク衛星。放熱に問題があることから試験衛星のみとなった。Credit : SPACEX

スペースXの説明によれば、運用中のスターリンク衛星で地上から最も明るく見えやすいのは、衛星本体の底面に取り付けられた4箇所のフェイズドアレイ(フラットパネル型)アンテナと1箇所のパラボラアンテナだという。白いアンテナは四方八方に光を拡散してしまうことが問題になるが、一方で単にアンテナを黒くすると、放熱効果が下がって衛星が高熱になりやすいという問題が発生する。

2020年1月には、アンテナ表面を黒く塗装して光の反射を抑えた試験型衛星「ダークサット」の打ち上げを行った。ダークサットは、衛星の明るさを55パーセント低減することができた。しかし熱の問題から、新たな改良を模索することが決まったという。

新たな光害対策として衛星に取り付けられた展開型サンシェード。「バイザー衛星」と呼ばれる。Credit : SPACEX
新たな光害対策として衛星に取り付けられた展開型サンシェード。「バイザー衛星」と呼ばれる。Credit : SPACEX

そこで、衛星本体に展開型の「バイザー(サンシェード)」を取り付ける対策が新たに採用された。バイザーは衛星本体に当たる太陽光をさえぎり、また衛星から反射した光の拡散を防ぐ役割を持つ。電波を通す素材を使用しているためアンテナの機能には影響を与えず、放熱効果も損なわないという。

スターリンク衛星の運用段階での「シャークフィン」型(左)と軌道変更中の「オープンブック」型太陽電池パネル。Credit : SPACEX
スターリンク衛星の運用段階での「シャークフィン」型(左)と軌道変更中の「オープンブック」型太陽電池パネル。Credit : SPACEX
太陽電池パネルがスターリンク衛星本体の影に隠れる運用時の形態(上段)と衛星本体と平行になる軌道変更時の形態(下段)。Credit : SPACEX
太陽電池パネルがスターリンク衛星本体の影に隠れる運用時の形態(上段)と衛星本体と平行になる軌道変更時の形態(下段)。Credit : SPACEX

また、打ち上げ時の高度200キロメートル付近の軌道から、通信衛星として運用する高度550キロメートルの高度まで移動する期間中は、衛星の太陽電池パネルの方向を変える運用方式も採用された。軌道変更期間は「オープンブック」と呼ばれ、衛星本体と太陽電池パネルが並行になる形状を取る。上の図のように、太陽電池パネルの薄いエッジに太陽光が当たる形状のため、光の反射を最小限にできるという。運用開始の段階では、「シャークフィン」と呼ばれる太陽電池パネルを衛星本体に対して垂直に立てた形状をとるが、地表から見ると太陽電池は衛星本体の影に隠れているようになるため、太陽光を反射しても地上にはほとんど届かない、という説明だ。

スターリンク衛星の「バイザー衛星」版はヴェラ・C・ルービン天文台とも協力して開発したという。今回の第8回打ち上げから試験導入され、第9回以降はすべての衛星が改良型のバイザー衛星となる予定だ。また、米軍の運営するSSA情報サイトspce-track.orgcelestrak.comなどにスターリンク衛星の軌道情報を提供し、天文観測の際に衛星通過の予定時刻などの情報を提供する。

こうした衛星の改良を進めていることもあり、スターリンクのサービス展開は2020年頭の計画よりもやや遅れているようだ。8回目の打ち上げは当初5月に予定されていたが、天候などの影響もあり6月初旬となった。今後、12回の打ち上げ(衛星数は720機)を達成した時点で北米で通信サービスを開始するという。

夜半でも回収船に危なげなく着地したファルコン9ロケット第1段 出典:SpaceX打ち上げ中継より
夜半でも回収船に危なげなく着地したファルコン9ロケット第1段 出典:SpaceX打ち上げ中継より

今回の打ち上げは、米フロリダ州から現地時間の6月3日夜9時25分に行われた。2日前には、5月末の有人宇宙船打ち上げ時に使われたファルコン9ロケット第1段の回収船が帰還したばかり。入れ替わるようにもう1隻の回収船が出動し、夜半の打ち上げながらこれまでと同様に第1段の海上着地に成功した。

スペースX初の有人宇宙船クルードラゴン打ち上げを終え、帰還したファルコン9ロケット第1段が回収船Of Course I Still Love You号に乗って入港した。Credit : SPACEX
スペースX初の有人宇宙船クルードラゴン打ち上げを終え、帰還したファルコン9ロケット第1段が回収船Of Course I Still Love You号に乗って入港した。Credit : SPACEX