国際宇宙ステーションで映画撮影へ NASA長官がトム・クルーズ氏との協力を表明

Credit: NASA

2020年5月6日、NASAのジム・ブライデンスタイン長官は俳優のトム・クルーズ氏と国際宇宙ステーション(ISS)での映画撮影に向けて準備を進めていることをツイッターで認めた。実現すれば、世界初の宇宙で撮影されたフィクション映画作品となる。

5月4日、米映画情報サイトDEADLINEは、トム・クルーズ氏と宇宙企業スペースXのイーロン・マスクCEOが協力し、ISSでの映画撮影に向けて準備を進めていると報じた。代表作の一つである『ミッション:インポッシブル』シリーズ作品ではないとのことだが、アクション作品になるという。

これに対応して、ブライデンスタイン長官は5月6日のツイートで、NASAとトム・クルーズ氏が映画撮影で協力していると認めた。長官のツイートにはイーロン・マスクCEOが「Should be a lot of fun!(楽しそうだ!)」と応じており、クルーズ氏が搭乗する宇宙船がスペースXのクルー・ドラゴン宇宙船になる可能性を示すものと見られる。

出典:NASA中継映像より
出典:NASA中継映像より

NASAによるISSでの民間人の受け入れは民間宇宙船の実現が前提となっており、今月末に行われるクルー・ドラゴンの初有人飛行試験がさらに注目される。NASAと共にスペースシャトルに代わる宇宙船開発を進めてきたスペースX(クルー・ドラゴン)、ボーイング(CST-100/スターライナー)の2社のうち、先に有人飛行が実現するのはスペースXとなる見通しだ。5月27日(日本時間5月28日午前5時32分)、クルー・ドラゴン宇宙船にはボブ・ベンケン、ダグ・ハーレーの2人の宇宙飛行士が搭乗し、初の有人飛行試験が行われる予定となっている。スターライナー宇宙船は2019年12月の飛行試験失敗から開発が遅れており、ボーイングは開発継続を表明したものの有人飛行試験の見通しは立っていない。

撮影はいつごろ? そして費用は?

ISSで映画撮影が行われる時期など詳細については明らかにされていないが、関連すると見られる動きが今年3月にあった。Axiom Space(アクシオム・スペース)は3月6日、クルー・ドラゴン宇宙船に搭乗する3名の民間宇宙飛行士との契約をスペースXと共に結んだと発表した。早ければ2021年後半には打ち上げが実現する予定で、8日間以上の宇宙滞在になるという。民間宇宙飛行士がどのような分野の人物であるのか公表されていないものの、資産家や研究者、宇宙新興国からの希望者受け入れと並んで映画関係者の可能性が挙がっていた。

アクシオム・スペースはNASA関係者らが設立した企業で、ISSに民間宇宙モジュールを構築し、将来は独自の民間宇宙ステーションへと発展させる計画を持っている。1月にはISSに民間宇宙モジュールを接続する民間企業としてNASAに選定されたと発表した。モジュール打ち上げは2024年後半となる予定だ。

民間モジュール構築や民間宇宙飛行士といった動きの背景には、NASAが進めるISS商業化の目標がある。2024年目処に、NASAはISSを「利用」する立場となり、運用は民間に任せる体制を構築する計画だ。その一環として2019年6月にはISSへの民間宇宙飛行士受け入れを発表している。ISSを利用する際の料金表も公表されており、生命維持費用が1名につき1日あたり1万1250ドル(約120万円)、NASA宇宙飛行士によるサポートが1時間あたり2万2500ドル(約240万円)、貨物持ち込み費用が1キログラムあたり3000ドル(約33万円)などとなっている。

ただし民間宇宙飛行士の輸送(打ち上げ)費用については、ビゲロー・スペース・オペレーションズがISSへの宇宙旅行サービスを提供費用として公表していた1名あたり5200万ドル(約55億円)以外にわかっていない。親会社のビゲロー・エアロスペースは新型コロナウイルス感染症の影響下で3月に従業員ほぼ全員の解雇を発表しており、同じ価格での実現は難しいものと思われる。NASAが2019年11月に公表したクルー・ドラゴン宇宙船1名あたりの打ち上げ費用は5500万ドル(約58億円)となっており、この前後の費用がかかると見られる。

ISS滞在費の総計は、宇宙飛行士のサポートをどれだけ受けるかによって大きく変わるが、滞在できる限度の30日までフルにサポートを受ければ、5億円を超える可能性がある。打ち上げ費用と合わせて、1名あたり宇宙での撮影費用は60億円前後となる可能性がある。

トム・クルーズ主演映画作品の制作費は『ミッション:インポッシブル フォールアウト』が約1億8000万ドル(約200億円)、『トップガン マーヴェリック』は約1億5200万ドル(約160億円)と報じられ、その3分の1近い費用を宇宙での撮影費が占めることになる。

NASAのブライデンスタイン長官 撮影:小林伸
NASAのブライデンスタイン長官 撮影:小林伸

とはいえ実現すれば「世界初の宇宙で撮影されたフィクション映画作品」主演という映画史に名を残す存在となることは間違いなく、トム・クルーズ氏はその点で意欲を持った可能性もある。一方でNASAはISSそして地球低軌道の商業化を進める立場であり、ブライデンスタイン長官が「We need popular media to inspire a new generation of engineers and scientists to make @NASA’s ambitious plans a reality.(NASAの希望する計画を実現するには、次世代のエンジニアやサイエンティストを鼓舞する人気メディアが必要なのだ)」と述べていることからも、歓迎したい動きなのだと考えられる。