宇宙分野で後退続くボーイング。衛星、宇宙船、スペースプレーンでも

Credit: Boeing

ボーイングの宇宙事業でトラブルが相次いでいる。15年前に打ち上げられた通信放送衛星が軌道上で電池の爆発事故の危険があり、開発中の宇宙船にはエンジンの不具合の可能性が出てきた。マッハ10で飛行する衛星打ち上げスペースプレーン開発からは撤退する。

2020年1月22日付の米Spacenews.comの報道によれば、米衛星放送サービス大手のディレクTVが今月米連邦通信委員会(FCC)に提出した文書から、ボーイングが製造し2005年に打ち上げられた静止通信放送衛星Spaceway-1の電池が損傷し、爆発を起こす可能性があることが明らかになった。現在は太陽電池パネルから得た電力を利用して電池を使わずに運用を続けているが、2月25日以降は衛星が地球の影に入り太陽電池を使えなくなる期間となるため、電池を利用せざるを得ない。

高度約3万5800キロメートルの静止軌道を周回する人工衛星の場合、高度数百キロメートル程度の衛星が多く周回する低軌道と異なり、運用が終わった衛星を大気圏に再突入させることが難しい。そこで、通常は静止軌道から300キロメートル以上離れた“墓場軌道”と呼ばれる軌道へ移動させ、他の静止衛星の運用を妨げないようにする。ディレクTVもSpaceway-1衛星を墓場軌道へ移動させる予定だ。ただし、FCCのルールでは移動の前に衛星に残った推進剤を排出するよう求めている。推進剤の排出には2~3ヶ月かかるとされ、2月後半の期限までに間に合うかどうかという懸念がある。

Spaceway-1は2005年の運用開始から12年で当初の通信放送サービスを終了し、2017年には静止軌道上の位置を変更して、アラスカ向けに通信機能を提供するバックアップ的な衛星として運用されていた。2025年までは運用を続ける予定で、バックアップとはいえ現役の衛星が運用中に機能喪失したことになる。Spaceway-1はボーイングが製造する「702 HP」と呼ばれる衛星バス(衛星の基本的な機能のセット)を採用しており、702 HPはディレクTVの他にインマルサット、SESなど大手の通信衛星オペレーターも採用している。

ボーイングの702衛星シリーズでは2019年の4月にも「702 MP」バスを採用したインテルサットの衛星Intelsat 29eに推進剤漏れによる損傷が起きている。2016年に打ち上げられ、15年運用される予定だった衛星は3年程度で運用終了となった。

2019年8月にインテルサットは事故調査の報告を発表し、「太陽活動による静電気放電、または微小流星物質の衝突によるものと考えられる」と結論付けられた。運用中の人工衛星がミッション喪失したケースの中で、静電気放電が原因となったものは全体の半数近いとされており、珍しくはないもののボーイング 702衛星バスを採用した衛星が1年以内に2回、運用終了したことになる。

宇宙船のエンジンにも問題か

Credit: NASA/Frank Michaux
Credit: NASA/Frank Michaux

昨年12月、ボーイングがNASAとの契約の元で開発していた新型宇宙船CST-100 Starliner(スターライナー)の無人試験打ち上げでエンジン部分の不具合が発生し、国際宇宙ステーション(ISS)への飛行が中止された。ISSへのドッキング試験は実施されずに地球へと帰還して試験は終了した。

ボーイングとNASAは、スターライナー宇宙船の試験データを分析し、2回めの無人飛行試験の実施の可否などを検討している。12月の試験直後の説明では、宇宙船のミッション経過時間を測るタイマーに不具合があり、エンジン噴射が計画通り行われなかったことから、軌道を修正するには推進剤が足りなくなったためISSドッキングを中止したとされた。

1月22日付の米テクノロジーニュースArs Technicaの報道によれば、ミッション経過時間タイマーだけでなく、小型エンジンにも不具合があったと指摘されたという。タイマー問題で軌道修正のため予定以上のエンジン燃焼を行ったところ、エンジンに推進剤を供給する配管の分岐部分にあたるマニホールドで圧力低下の問題が発生。いったんエンジンを切って再始動したところ、複数あるエンジンのうち1基が噴射できなくなった。

Ars Technica報道は、NASAがこの事態を重要視して小型エンジンの再点検を行う可能性を示唆している。タイマーというソフトウェアの設定だけでなく、エンジンという重要なハードウェアにも問題が生じたことになる。

極超音速スペースプレーンからの撤退

Credit: DARPA
Credit: DARPA

1月23日、ボーイングはDARPA(国防高等研究計画局)との契約の元で開発していた小型衛星打ち上げ向けの実験型スペースプレーン「XS-1(愛称ファントム・エクスプレス)」の開発を終了すると発表した。フェーズ1から3まで3段階で開発することになっていたXS-1計画をフェーズ2で撤退するもので、実質的に計画終了となる。

2013年から始まったXS-1計画は「ビジネスジェット機程度の大きさ」の有翼スペースプレーンに小型衛星を搭載して打ち上げる構想で、地球を南北方向に周回する極軌道に1360キログラム程度の衛星を投入する目標だった。マッハ10に到達し、再使用可能なスペースプレーンを使用して「10日間に10回」衛星の打ち上げができるとされていた。

ボーイングはロケットエンジンを製造するエアロジェット・ロケットダインをパートナーに、スペースシャトルのメインエンジン(SSME)であるAR-22エンジンのバリエーションをXS-1に採用する予定だった。2018年にはAR-22による、同一のエンジンを240時間以内に10回エンジン点火し、累計100秒以上燃焼するという試験に成功。2019年のフェーズ2終了後に2020年からフェーズ3へ移行し、2021年に試験機の飛行試験を実施する予定だった。成功すれば、低軌道への衛星打ち上げが500万ドル(約5億5000万円)以下で可能になる目標だ。

AR-22エンジン試験の様子。Credit: DARPA
AR-22エンジン試験の様子。Credit: DARPA

XS-1計画のフェーズ2では、ボーイングのほかにノースロップ・グラマンとヴァージン・ギャラクティックのチーム、2004年設立のマステン・スペース・システムズとXCOREのチームが提案を行っていたが、2017年にボーイングが選定された。当初、Amazonのジェフ・ベゾスCEOが設立した宇宙企業ブルー・オリジンがエンジンを提供する案もあったが、最終的にはエアロジェット・ロケットダインがボーイングのパートナーとなった。

XS-1は、DARPAによる空中発射衛星打ち上げ機開発計画の「ALASA」の技術を一部引き継いでいる。ボーイングはALASA計画の主契約者で、45キログラム程度の超小型衛星をF-15E戦闘機に搭載して打ち上げる構想だった。しかし一液推進剤の開発に問題があったとして、2015年にDARPAは計画を終了している。

多岐にわたるボーイングの宇宙事業

XS-1の計画概要を改めて見直すと、2021年に計画通り空中発射スペースプレーンが飛行可能だとしても、民間に比べて小型衛星打ち上げをコスト、頻度の面で大きくリードできる可能性は小さいのではないかと思える。現在、SSOへの衛星投入ではRocket Labのエレクトロンが500万ドル以下の打ち上げを実現しており、相乗りならばスペースXのファルコン9も利用でき、高頻度の打ち上げを実現している。空中発射という射場にとらわれない方式を重視するならば、ヴァージン・オービットという選択肢もある。1360キログラムというXS-1の搭載能力にはまだ及ばないものの、2年後には民間の打ち上げサービス・プロバイダーから即応打ち上げが調達できるようになっているのではないだろうか。

現在、ボーイングのサイトに記載されている同社の宇宙事業は、「商用衛星」「GPS」「軍事通信システム」「国際宇宙ステーション」「Space Launch System」「月近傍ゲートウェイ」「ファントム・エクスプレス」「CST-100 スターライナー」「ULA」の9項目ある。やや抱えすぎの印象もあり、また計画遅延が目立つものもある。スターライナーは無人飛行試験を再実施する可能性があり、超大型ロケットSpace Launch System(SLS)は2020年内に初打ち上げの目標だが、2021年にずれ込むとの見通しが立っている。

Credit: Boeing
Credit: Boeing

XS-1計画は官民共同出資のプログラムとなっており、DARPAによる1億4600万ドルの出資のほか、ボーイング自身も開発費を投資することとなっていた。XS-1開発からの撤退にあたり、ボーイングは投資を他の海洋、航空、宇宙部門に振り分けると表明したという。

商用衛星で連続事故、宇宙船開発の遅れ、SLSの遅れなど宇宙部門で抱える問題を考えると、XS-1撤退だけでなく、今後もボーイングの宇宙事業では縮小があり得るのではないかと考えられる。