都市の変化を見守る、防災から生まれたSynspectiveのStriX衛星 [SAR衛星市場 後編]

出典:S-NET 宇宙ビジネス情報ポータルサイト

100キログラム級、分解能1メートルのXバンド小型合成開口レーダ衛星を計画している国内ベンチャーには、Synspectiveがあります。「StriX」シリーズ1号機を2020年に打ち上げ予定の新井元行CEO、衛星技術を開発したImPACT計画のプログラムマネージャであり共同創業者の白坂成功教授に伺いました。

--Synspectiveが設立された2018年ごろから、世界で合成開口レーダ(SAR)衛星のコンステレーション構築を目指す企業がいくつも出てきていますね。Synspectiveはなぜ、SAR衛星によるコンステレーション構築というビジネスに乗り出したのでしょうか?

新井:光学衛星で観測すると、曇っていると観測できない、アジアでは雨の日が多い、などデータの欠損が多くなります。データサイエンスをビジネス化する場合、コンピュータは不器用なので、定点観測して差分を見ていくようなことをすると、データの欠損を差分だと思って迷ってしまうんです。データサイエンスの観点からすると、整備されたデータから差分を見つけるということがやりたいときに、SARはとても相性がいい。

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白坂:SAR衛星の商用利用拡大は、2016年に米政府がSARデータの商用利用を許可したことがきっかけとなっています。これは世界にインパクトがありましたし、フィンランドのICEYE、米国のCapella Spaceといった企業が出てきました。

新井:これまでの大型のSAR衛星は軍事の優先順位が高かったため、商用で使いたくても緊急事態には割り込みで観測が入ってしまうことがあるので、やはり定点観測が難しくなってしまいます。民間コンステレーションならば定点観測が可能になります。法律の面でも環境が整い、制約が外れたことでコツコツ積み重ねてきた技術を実現できるようになった一気に盛り上がってきたのだと思っています。

--新井CEOがそこに入ろうと思われたきっかけは?

新井:大学時代は工学系を学んでロケットエンジニアになりたかったんです。ただ、NASAも不景気で予算を縮小したりしていましたし、宇宙開発にも民間資金を使って持続的に成長できなければいけないと思いました。そこでコンサルティングファームに入ってビジネスを知りました。人間の経済活動で一番影響力があるのはエネルギーインフラだと思っていて、それが一番影響力を持つのが途上国です。バングラデシュ、サウジアラビアやタンザニアへ行きました。

途上国では、自分が知らなかったデータを使って記録を作ると生活がガラッと変わるんです。バングラデシュでは、親子の間で学校の普及度に世代間の差があって、商売をしている親よりも子供のほうが家計簿をつけられるのです。そうすると、子供のほうが「来年のこの時期はお金が必要になるから、これから準備をしよう」と親へ提案する。データを使ってマネジメントすると人は結果を出せて、その日暮らしから1ヶ月後、1年後へと考える時間軸が伸びるんです。意識していなかった広域のデータを使うと同じことができます。

新井:新しいデータセットがあれば人の生活が変わる。分析して解析すれば、意味のあるものにつながる。けれどもそれをどうやったらいいだろうと思っていたら、白坂先生を紹介してもらいました。広域のデータが取れて、データサイエンティストも衛星技術者もいる。途上国で有意なプロジェクトづくりができる。それで会社を立ち上げました。

白坂:ImPACTプログラムの側からは、宇宙ビジネスの現場で、ITのようなビジネスのスピード感を体現できる経営者を求めていたという部分があります。それに、衛星データの分野では法律が新しくできたばかりなので、解釈が変わる可能性があります。例えば、リモートセンシング法にはクラウドのことは明記されていませんが、今後どうなるでしょうか? そうしたギャップがあるときに、省庁とコミュニケーションができる人が必要と考えていました。色々な人にそういった社長候補を紹介していただく中で出会ったのが新井でした。

--それは出会いですね。そこから、Synspectiveが目指すものは?

新井:従来のSARデータは海洋監視などで使われてきたのですが、Synspectiveはそれとは少し違っていて、都市計画やインフラ開発、不動産管理や不動産取引、関連する金融分野などにビジネス領域を絞っています。レーダはものの形を把握できるので、開発など大型投資が有効に使われているかを確認できます。そうした情報を求めているユーザーはたくさんいるので、エビデンスになるデータとして使ってもらうのです。解析専門の企業にデータ提供するという従来のデータ販売もする予定です。

--すると、途上国の利用が多いのでしょうか?

新井:先進国での利用もありますね。地上のセンサーでデータを集めるスマートシティ構想や再生可能エネルギーをどう使っていくか、という部分にこれまでになかった、軌道上から広域を見る機能を入れたいです。手軽に光学衛星の画像を使えるGoogle Earthがありますが、画像の時系列が揃っていないデータのパッチワークです。光学衛星は雨の多いアジアではうまく機能しないという条件もありますね。街の変化を見られるセンシングデータは先進国でもまだありません。

もちろん、街の変化を捉えるにはSARだけではだめで、光学や熱赤外のデータなどいろんな組み合わせがあります。不動産業者なら、地価なども加えたデータがほしいでしょう。一方でエネルギー会社なら「このエリアの需要がどう変わるか?」を人口と紐付けた評価がほしい。SAR単独ではないソリューションを作りたいです。

白坂:世界的には光学衛星を中心とした地球観測衛星が競いあって市場を作っていますが、光学衛星のコンステレーションが増えることで、「光学衛星でうまくいかないこの部分をSARでできないか?」というニーズが生まれることがあります。光学衛星が地球観測の市場を耕してくれているところはありますね。

出典:S-NET 宇宙ビジネス情報ポータルサイト
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--そうなると、SARデータが貢献する割合はどの程度でしょうか?

新井:それはソリューションによって変わります。ものの形を見たい場合はSARの貢献度が大きくて、8~9割になるかもしれません。人の動きを見たい、といった場合にはSARは地図データの一部で、人の動きを把握するGPSやIoTセンサーが重要になってくるでしょう。最初はもちろん、SARの貢献が大きいビジネスを作っていきたいですが。

--Synspectiveは創業から短期間で109億円という大型の投資を集めたことが話題ですが、出資企業からの評価ポイントはそうした都市の開発監視の部分でしょうか?

新井:そうですね。森トラスト、清水建設など広域のデベロップメントを担う企業に評価してもらっています。金融につながってくる領域に興味があるのが三菱UFJ信託銀行。「都市計画の広域の情報に衛星データが使えるはず」というところを評価してもらっています。

--宇宙スタートアップ企業として世界最速、日本国内では最大規模という高速、高額の資金調達はどんなところに効いてきますか?

新井:通信衛星ですと、数千機単位のコンステレーションとなるので製造プロセスが決まっていて、2週間から1カ月で工場で量産できる段階に来ています。普通の衛星は小型化して開発をしているとはいっても開発リードタイムは、1年ほどかかります。毎年5機ずつという程度の生産台数だと、製造リードタイムは6カ月から頑張っても3カ月。そうすると、お金を持っていないと、早くどんどん作ってもらうということができないのです。

白坂:工場で高速に量産をするパートナーを探しているのは、衛星の中でもバス部分のことです。StriX衛星のミッション機器であるスロットアレイアンテナは、国内で開発することを考えています。東京工業大学の廣川 二郎教授らが中心となって開発した技術で、畳んで縮めると鏡面精度の維持が難しいパラボラアンテナよりコンパクトに畳めます。フェイズドアレイは重くなりやすいのですが、スロットアレイアンテナはこの問題を解決できます。ただし設計は難しいです。いったん設計してしまえば、製造しやすく、コンパクトにたたみやすいので搭載できるロケットのフェアリングに収まりやすいというメリットもあります。

新井:衛星のバス部分は通信衛星をバンバン作っているところや、小型の衛星をファクトリーで作っているところ、日本または欧州、で7~8社と並行して交渉し、品質、コスト、納期が合うところを探しています。同じことはロケットでもいえて、予約も早めにしないといけなません。財務基盤がおぼつかないと、余裕を持って契約できない。交渉力があると先んじて進められるということが大型資金調達の最大のメリットです。

--開発中のStriX衛星コンステレーションは25機で完成でしょうか?

新井:25機はマイルストーンのひとつですね。全世界には100万都市が292都市あって、これを1日1回観測することが完成形です。そうすると、25機が必要なのですがもっと増やしてもいいかなと思っています。

衛星打上げ前に、別の企業のSAR衛星の画像購入も利用してソリューションビジネスを先行して進めています。すでに何本か、実証が始まっていて収益性の高いコアソリューションを探してトライアルを繰り返しています。2020年には、トライアルで生まれたプロダクトを、プロダクト・サービスとして拡販するSaaSビジネスモデルに移行していきます。

2020年度にアリアンスペースで打上げ予定の初号機は解像度3メートル程度の実証機です。実証機を2機やって、量産機(4機の予定)に移行した後はスペックを1メートルに上げるか、ニーズを見て今後決定していきます。画像データの販売は2022年に商用機が打ち上がってからスタートです。

--StriX衛星は商用衛星ですが、技術の元になったImPACTプログラムには災害対応の形態として、固体ロケットによる即応型オンデマンド打ち上げの構想がありました。こちらも事業化していくのでしょうか?

新井:即応衛星は事業ではなくImPACTプログラムでの構想でした。ただ、即応打上げを事業としてやると、ロケット開発のことまで考えなくてはなりません。まずは衛星の事業者として何ができるか考えると、ベストはコンステレーション構築だと思います。災害があったときに都度打ち上げるよりは、コンステレーションを作って常時観測しているほうが、実際はうまくいくのではないかと。まずはコンステレーション構築に集中し、観測頻度を上げていく。ビジネスとして考えても、平時はさまざまな使い方をして収益を稼ぐ、災害が起きたときにも使える、という方が手堅いと思います。

新井:そのためには、かなりの数の衛星が必要です。発災から72時間以内の救命につなげるには、データを取って初期の情報処理に3時間以内でないといけない。かなり観測頻度が厳しい。25機では全世界1日1回なので、対応できたとしても局所的です。もっと数が増えたときに、本当に有意な対応ができるのだと思います。SAR衛星なら、台風やハリケーンが起きているときに雲の下が見えます。これまでにないスピード感で動けますし、そうなると後の回復に効いてきます。最終的にはそこまでいけると面白いですね。

QPS研究所とSynspective、同じ100キログラム級の小型SAR衛星を開発するとなれば、競合するのでは? と思いきや、まだ生まれたばかりの商用小型合成開口レーダ衛星の分野では、それぞれ異なる領域を攻める存在でした。QPS研究所は2019年内、Synspectiveは2020年に初の衛星を打上げ、新たな地球観測の市場拡大に挑みます。

※本記事は宇宙ビジネス情報ポータルサイト「S-NET『未来を創る 宇宙ビジネスの旗手たち SPECIAL/特集記事』」より、『急速に立ち上がるSAR衛星市場(後編) 都市の変化を見守る、防災から生まれたSynspectiveのStriX衛星』に掲載されたものです。