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「はや2先輩に追いつけ」NASA小惑星探査機OSIRIS-REx、小惑星ベンヌに接近

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
画像提供:NASA/Goddard/University of Arizona

2018年11月3日、NASAは小惑星探査機OSIRIS-REx(オサイリス・レックス)が小惑星Bennu(ベンヌ)に近づく様子を撮影した一連の画像を公開した。2018年6月27日に小惑星リュウグウに到着したJAXAの小惑星探査機はやぶさ2と同様に、OSIRIS-RExチームも目的地であるベンヌへの到着を12月3日に控え、日に日に大きくなる新しい世界の姿への興奮に湧いている。

2018年10月12日から29日まで撮影された小惑星ベンヌ接近画像。Image Credit: NASA/Goddard/University of Arizona
2018年10月12日から29日まで撮影された小惑星ベンヌ接近画像。Image Credit: NASA/Goddard/University of Arizona

小惑星探査機オサイリス・レックスは、NASA ゴダード宇宙飛行センターとアリゾナ大学による少惑星探査・サンプルリターン計画だ。2016年9月に打ち上げられ、2018年12月に地球から比較的近い小惑星ベンヌに到着。1年以上かけて表面を探査し、2020年7月に表面物質のサンプルを採取、2023年9月に地球に帰還してサンプルの入ったカプセルを地球に届ける。

NASAとアリゾナ大学共同の小惑星探査機OSIRIS-REx(オサイリス・レックス)。Image Credit: NASA Goddard Space Flight Center
NASAとアリゾナ大学共同の小惑星探査機OSIRIS-REx(オサイリス・レックス)。Image Credit: NASA Goddard Space Flight Center

JAXAの小惑星探査機はやぶさ2と計画内容が近く、はやぶさ2チームとは協力関係にあり、採取したサンプルを相互に提供して研究する協定を結んでいる。共に太陽系の小天体を探査する友人であり、オサイリス・レックスの方が少しだけ後輩。もちろん科学的成果を上げる目標を掲げたライバルでもある。

オサイリス・レックスのミッションスケジュール。Image Credit: University of Arizona
オサイリス・レックスのミッションスケジュール。Image Credit: University of Arizona

オサイリス・レックスは現在、到着目標であるベンヌから高度20キロメートルのところに向けて、エンジンを噴射して速度を落とす段階に入っている。10月1日から始まった減速のためのエンジン噴射は11月12日に最後の噴射を行う予定だ。

小惑星に接近しながら、オサイリス・レックスのPolyCamカメラが小惑星の撮影を行っている。光の点だった小惑星がだんだん大きくなり、そろばん珠のような形状や表面のゴツゴツした地形が見えてくるときの興奮は、はやぶさ2チームが今年6月に見せてくれたものと同じだ。

はやぶさ2とオサイリス・レックスはミッション内容が似ているだけでなく、目的地の小惑星にも共通点がある。リュウグウとベンヌは、共に炭素を含む物質が多くあるとされ、水や有機物などが存在する可能性がある。太陽系初期の物質を持っており、太陽系の進化の歴史の解明につながると期待されている。また、どちらの小惑星も丸く、中央(赤道付近)が膨らんだそろばん珠、あるいはコマ型と言われる形状をしている。小惑星のコマ型の形状は自転速度に関係があり、リュウグウは7.6時間で自転しているが、形状からするともっと自転周期が短くても不思議ではないと言われている。ベンヌの自転周期は4.3時間とこれより短く、両者の比較で小惑星の科学がより深くわかる。

はやぶさ2のミッションからオサイリス・レックスのチームが心配しているのは、小惑星表面の形状だという。リュウグウは、津田雄一プロジェクトマネージャーが「どこもかしこもデコボコ」と述べたように、ボルダー(岩塊)の多い、着陸には難しい地形だ。このためはやぶさ2の第1回の着陸が2018年10月後半から2019年1月以降に延期された。はやぶさ2の場合、サンプル採取装置は弾丸をぶつけて表面から砂を巻き上げるという仕組みであり、着陸ができれば相手が岩であっても採取可能なように設計されている。これに対し、オサイリス・レックスのサンプル採取装置は窒素ガスを噴射して舞い上がった砂を吸い込むという掃除機のような仕組みだ。着陸した場所に砂が存在する、ということが非常に大事になる。

10月29日に撮影された小惑星ベンヌ。Image Credit: NASA/Goddard/University of Arizona
10月29日に撮影された小惑星ベンヌ。Image Credit: NASA/Goddard/University of Arizona

10月28日にベンヌから770キロメートルで撮影された画像では、南半球側に大きな岩塊と見られるものも見つかっている。あと1ヶ月弱でオサイリス・レックスは、小惑星ベンヌという「小さな新しい世界」の姿を見せてくれる。

オサイリス・レックスが11月1日、2日に撮影された小惑星ベンヌの画像についてツイート。南半球(画像下側)には大きな岩塊があるようだ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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