Yahoo!ニュース

スペースデブリを軌道上で網が捉えた驚きの映像。英小型衛星企業が実験成功

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
Surrey Nanosats SSC MissionDelivery Team

2018年9月19日、イギリスの小型衛星開発企業Surrey Satellite Technology(SSTL:サリー・サテライト・テクノロジー)は、衛星軌道上に存在するロケットや人工衛星の残骸“スペースデブリ”を軌道から取り除く世界初の実験衛星RemoveDEBRIS(リムーブデブリス)が網による超小型衛星の捕獲に成功したと発表した。

リムーブデブリス衛星は、欧州共同のスペースデブリ除去実験衛星。親機となる100キログラムほどの人工衛星に、捕獲実験用の2機のターゲット超小型衛星、網式捕獲装置、銛式捕獲装置、デブリ落下促進のための帆を搭載している。

開発中のRemoveDEBRIS衛星。Image Credit: SSTL/Max Alexander
開発中のRemoveDEBRIS衛星。Image Credit: SSTL/Max Alexander

衛星本体と実験用の捕獲ターゲット衛星および帆はSSTLが、投網式・銛式の除去装置はエアバスが、ターゲット衛星との距離を測るレーザー測距システムはスイスの民間研究技術組織CSEM/フランス国立情報学自動制御研究所/エアバスの3団体が開発している。

ISS日本実験棟「きぼう」から放出されるリムーブデブリス衛星。Image Credit NASA/Nanoracks
ISS日本実験棟「きぼう」から放出されるリムーブデブリス衛星。Image Credit NASA/Nanoracks

リムーブデブリス衛星は2018年4月にSpaceXのDragon輸送船で国際宇宙ステーション(ISS)まで運ばれ、5月に日本実験棟「きぼう」のエアロックから軌道上へ放出された。最初の網式捕獲装置の実験は9月16日に実施された。ターゲット超小型衛星DS-1は親衛星から放出され、バルーンを膨らませてターゲットサイズを拡大する。親衛星からDS-1が7メートル離れると網が放出され、展開しながらターゲット衛星を包む。網の端にはおもりが取り付けられており、モーター駆動のリールが作動し、網を閉じる。バルーンで大きくなったターゲット衛星はそのまま速度を落とし、地球に落下して大気圏で燃え尽きる。

一連の動作は親機に搭載されたカメラが撮影しており、公開されたのはその映像だ。膨らんだバルーンが光るターゲット衛星に向かって星型に展開した網がしっかりと巻き付き、回転しながら包み込む様子が捉えられている。

今後、リムーブデブリス衛星は2番目の実験としてターゲット超小型衛星DS-2を放出してLIDAR(レーザー測距装置)とカメラによるナビゲーション実証を行う予定だ。これは、将来スペースデブリに近づく際に精密に距離と状態を判断するための基礎技術となる。LIDAR技術は、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウとの距離を測り、小惑星の形状データを作成する際にも使われている技術だ。

リムーブでブリス衛星のミッション計画。Image Credit: University of Surrey
リムーブでブリス衛星のミッション計画。Image Credit: University of Surrey

続いて、親機からアームを展開し、銛を突き刺す実験を行う。一連の実験後は、親機から帆を展開して速度を落とし、リムーブデブリス衛星全体が大気圏に再突入して燃え尽きる予定だ。ISSへの打ち上げから最大で1年半ほどでミッション終了となる。

欧州がスペースデブリで協調する理由。日本も研究開発中

スペースデブリと呼ばれる宇宙活動の残骸は、NASAのレポートによると1辺が10センチ以上のものが2018年4月の時点で軌道上に1万8922個存在する。このサイズのデブリはレーダーなどによって観測、追跡可能であり、それぞれ番号が付けられてカタログ化されている。カタログ化されたデブリの周囲には、地上からの観測が難しい細かいデブリが付随していると考えられており、その数は数万個あると見られている。排出国はロシアを中心とする独立国家共同体(CIS)が6514個でトップ、続いてアメリカが6355個、中国が3892個、欧州(欧州宇宙機関とフランスの合計)が682個となっている。

スペースデブリは、地球低軌道(LEO)と呼ばれる高度700~1000キロメートル付近が最も多い。この高度は、地球を南北に周回し災害や環境の変化を観測する地球観測衛星が多く利用しており、活動中の人工衛星が衝突によって損傷する可能性もある。

欧州はスペースデブリの排出数は多くはないが、1986年にフランスのアリアンロケット上段が打ち上げから9ヶ月後に軌道上で爆発し、国際的なスペースデブリ問題に関する協議が始まったという経緯がある。その後、フランスはアメリカに次いで早くからデブリ低減のためのルール作りを進めていた。

現在、欧州はEU、ESA(欧州宇宙機関)などのイニシアチブの下で宇宙の環境を守るためのスペースデブリ低減技術確率を目指しており、今回のリムーブデブリス衛星実験はその初期段階になるものだ。今後はスペインが中心となる実験衛星や、ウクライナも参加する大学・企業共同によるロケットの残骸除去実験などが行われる予定だ。

日本も国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)参加国であり、スペースデブリ低減ガイドラインを遵守する立場にある。2013年に設立されたASTROSCALE(アストロスケール)社は微小デブリ観測衛星とデブリ除去実験衛星を計画している。また、川崎重工業とJAXA共同により、H-IIAなどのロケット第2段をターゲットとして軌道上から取り除く技術の研究開発を進めている。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

秋山文野の最近の記事