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世界から『日本は拉致国家』と非難を浴びている、国際的な子の連れ去り問題について

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

みなさんは日本人による国際的な子の連れ去りが、日本と諸外国の間で国際問題となっていることをご存知でしょうか。

1970年には年間5,000件程度だった日本人と外国人の国際結婚は、1980年代の後半から急増し、2005年には年間4万件を超えました。これに伴い国際離婚も増加し、結婚生活が破綻した際、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子を自分の母国へ連れ出し、もう一方の親に面会させないといった「子の連れ去り」が問題視されているのです。

つい先日、イタリア政府などは一方の親が日本人である場合、日本へ行くと子どもが誘拐されるかもしれないと、渡航に関する注意喚起をしました。イタリアなどでは一方の親による子どもの連れ去りは犯罪行為ですが、日本国内では容認されてしまっていることが原因のようです。

日本における国際的な子の連れ去り

日本における国際的な子の連れ去り(以下、拉致とも)とは、もともとの居住地から日本への違法な拉致を指すものであり、ほとんどの場合は元居住国裁判所が発行した面会交流または共同親権命令に反し、子を日本に連れて行くことです。

例外的な状況を除いて、児童拉致の影響は一般的に子の福祉への有害性が指摘されているにもかかわらず拉致は行われ、被害親とその親族の生活にも壊滅的な影響を与えているのです。

もともと日本の家庭裁判所は民事訴訟における強制的執行を好まない傾向にあり、両親による和解を強く推奨して面会交流や育児支援にはほとんど介入してきませんでした。そして、外国人親が自力救済として日本に連れてこられた子を取り戻そうとすると、本来、日本にいる事が「拉致拘禁状況」に該当しているにもかかわらず、日本の警察によって逮捕され、刑事訴追される可能性があります。

また、外国の父親が子どもを自国に連れ帰ろうとすれば、「所在国外移送目的略取及び誘拐」(刑法第226条第1項)も追加され、2年以上の懲役刑が科される可能性すらあるのです。刑法第226条は元来、中国等へ未成年者が性的奴隷として誘拐される事を防止するための特別法でしたが、現在は外国人親による子の連れ戻しを防止するための有力な手段として使用されています。

「ハーグ条約」へ加盟した日本に集まる国際社会の非難

離婚などに伴う国境を越えた子どもの連れ去りを防止する「ハーグ条約」に日本は加盟していますが、条約の履行が不十分として国際社会から非難を集めています。

ハーグ条約では拉致された子どもたちは、拉致前に「本来居住していた家」に戻されることになっています。子どもの拉致を重罪と規定している国に対しては、監護親を拉致犯として通知することができ、拉致親は他国滞在中に逮捕される可能性もあります。条約は、当事国の家庭裁判所の判決を他の国が認めることを必要とせず、署名国が拉致された児童の所在を知覚した場合には、速やかに本来の居住地に戻すことを要求しています。

もともと日本の家族法はハーグ条約の各条項と整合性がなく、日本が署名するためには法律の抜本的な改正や新法導入が必要でした。日本の民法は、両親間の合意によって決定されない場合、子の最善の利益に基づいて問題を解決することが強調されていますが、家庭裁判所の判決に強い強制力はなく、遵守するかどうかは本質的に両親の自主性に任されていて、両親の合意がなければ判決を下すことも極めて困難なようです。

日本を拉致国家と呼ばせないためには

最大の障害となっているのは子どもの親権に対する法制度の変更です。日本の法曹関係者の多くは離婚後共同親権・共同監護の重要性を認識してきませんでした。日本はハーグ条約に先立ち「子どもの権利条約」に署名しており、同条約第9条に定められている通り、日本は非親権者の面会交流を子どもの権利として認めなければなりません。しかし、日本国最高裁判所は、非親権者は子どもと会う権利はなく、国家による面会交流の強制は、親や子どもの権利ではないと裁定しています。この裁定により、事実上、親権者の協力なしには、面会交流は不可能となっているのです。

フランスやアメリカなどの一部の国では、子どもがいる夫婦の離婚の場合、両親の共同養育が法律で定められていますが、日本の法律ではこのような取り決めはありません。離婚後の子どもの親権を両親それぞれが維持するという考え方は、日本人の文化や歴史にはないため、日本法にそのような思想はほぼ皆無なのです。日本では結婚が合法的に解消されると、一方の親にのみ親権が与えられ、分離された「非監護親」は肉親であるにもかかわらず子どもから完全に分離されます。

ハーグ条約批准国82か国の間でも、親権に関する取扱は国によって異なります。日本においては、戦後高度成長期に母親が通常単独または主たる監護権を得る形が一般的でしたが、その間に他の先進国では共同養育および共同親権に移行する機運が高まっていきました。日本も世界から拉致国家と呼ばせないために、離婚後共同親権に関する議論を進める時期にきています。

参考文献:外務省HP

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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