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子どもの権利や子どもアドボカシーの視点から「こども家庭庁」と「こども基本法」の意義を考える。

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
こども基本法が成立した日に子ども達と緊急記者会見を実施(提供:甲斐田 万智子氏)

今回は、認定NPO法人国際子ども権利センター(シーライツ)代表理事の甲斐田 万智子さんより、子どもの権利や子どもアドボカシーの視点から「こども家庭庁」と「こども基本法」の意義についてお話を伺います。

明智 では、まず自己紹介をお願いします。

甲斐田 認定NPO法人国際子ども権利センター(シーライツ)代表理事の甲斐田 万智子と申します。文京学院大学の教授で、広げよう!子どもの権利条約キャンペーン共同代表、子どもの権利条約総合研究所運営委員、子どもに対する暴力撤廃日本フォーラムメンバーなどを務めています。子どもの声が聴かれ、子どもへの暴力がない「子どもにやさしい社会」を目指し活動をしてきました。

明智 これまでに「こども家庭庁」や、「こども基本法」の成立に向けてどのような取り組みをされてきましたか?

甲斐田 まず、日本財団が事務局で開催した「こども基本法」の研究会メンバーとして子どもの権利を保障するためにどのような法律が必要か、情報収集したり議論してきました。特に子どもコミッショナーに関しては、スコットランドの子どもの声を聴きながら政策をつくるという実践をとおして学ぶことができたことは大きかったです。

そして、2019年からは、広げよう!子どもの権利条約キャンペーン(CRCキャンペーン)の共同代表として、また政策提言チームのメンバーとして子どもの権利実現を進めるこども基本法と、こども庁の設置を求めてきました。具体的には、子どもの声を聴きながら政策提言書をまとめたり、院内集会を開き子どもたちの思いを議員や省庁の関係者に聞いてもらいました。

2021年6月に、広げよう!子どもの権利条約キャンペーンが主催した院内集会で議員と子どもたちが対話している様子(提供:甲斐田 万智子氏)
2021年6月に、広げよう!子どもの権利条約キャンペーンが主催した院内集会で議員と子どもたちが対話している様子(提供:甲斐田 万智子氏)

明智 成立したこども家庭庁や、こども基本法の内容についてどのように評価していますか?

甲斐田 私たちはCRCキャンペーンの活動として、まずこども庁が子どもの権利に基づく施策をおこなう機関となることを目指してきました。そのため準備室が子どものときに虐待を受けた当事者の方々の意見を聞いていたにもかかわらず、「こども庁」ではなく「こども家庭庁」となったことにまず、非常に残念に思いました。家庭が地獄だった経験をもち、もっと子ども自身の権利を守るために対策をとっていく社会にするために政府や自治体が介入することを願う人にとっては、この名前は耐え難いものだったでしょう。

多くの議員に賛成してもらうためにはやむをえなかったということを関係者から聞きましたが、今から思うと特定の宗教団体からの影響もあったのではないかと懸念します。子育て家庭を支援することは大事ですが、こども家庭庁に少子化対策としての役割が盛り込まれたことで、子ども中心の子ども最優先の施策がなされるためには、引き続きアドボカシー活動が必要でしょう。

ただし、2021年につくられた内閣官房子ども庁検討チームが子どもの声を聴く機会を積極的にもったことや、議員さんたちも私達のはたらきかけに応え子どもの声を聴く機会をもち、その重要性を認識する変化が見られたので、それが活かされることが期待されます。そして、子どもの権利保障関連の活動にかかわり、子どもの声を聴くことの重要性を認識している実践者の方々が、現在こども家庭庁準備室にメンバーとして入っておられるので、子どもの権利に基づくこども大綱がつくられることも期待しています。

こども基本法においては、私達が求めていた「子どもを権利の主体とする」という文言が入らなかったことは非常に残念でしたが、「子どもの権利条約の精神にのっとり」という言葉が入りましたので、私達がこの文言に基づいて子どもが権利の主体として尊重される施策を求めていくことが可能になったといえます。

そして第11条では、こども施策に対して子ども等の意見を反映するという規定がされましたので、あらゆる場で子どもの意見を聴くだけでなく、その意見を反映することを求めることができます。

また、第15条では、子どもの権利の周知が盛り込まれましたので、学校や地域で子どもの権利教育や啓発活動を求めていくことができるようになりました。

こども家庭庁設置に向けたプロセスの中で、準備室が子ども向けのパンフレットを制作したことは評価される。(提供:甲斐田 万智子氏)
こども家庭庁設置に向けたプロセスの中で、準備室が子ども向けのパンフレットを制作したことは評価される。(提供:甲斐田 万智子氏)

明智 問題点や今後の課題などありましたらお願いします。

甲斐田 こども家庭庁に関して大きな問題の一つが、「他の省の所掌に属するものを除く」という除外規定により、文科省・法務省の職務が含まれない可能性があることです。つまり、学校内における教師による体罰、部活における不適切な行為、教員による性暴力、いじめなどの子どもの人権侵害に関して、こども家庭庁がきちんと関与していくようにしなければなりません。

こども基本法の第一の課題は、条約の「精神」に基づく規定は評価されますが、条約に掲げられたすべての「原則および規定」の考慮・実施がうたわれていないため、国連子どもの権利委員会から勧告された「子どもの権利に関する包括的な法律」とはなっていないことです。

第二に、子どもの権利条約第12条では、子どもに「影響を及ぼす」すべての事項についての意見表明権が保障されているのに対して、こども基本法では、意見表明の機会を確保するべき対象が「自己に直接関係する全ての事項」に限定されていることです。子どもに直接・間接に影響を及ぼすすべての事柄について意見を表明する機会が確保され、表明された意見が正当に重視されるようにしていいかなければなりません。

第三に、国がすべきことに子どもの権利教育など、子どもの権利条約の普及啓発が明記されなかったことです。これに関しては、教職課程で子どもの権利教育を必修科目としたり、子どもの権利についての教員研修を「こども大綱」に含め、予算が確保されるようにすることが必要です。そして、文部科学省の1994年5月20日の坂元文部事務次官の通知(子どもの権利条約より教育指導に従わせることが優先するという趣旨)を変えていく必要があります。

最後に今回、子どもの意見を聞きながら、子どもの権利が守られているかどうかを独立の立場から監視し、制度改善を勧告する子どもオンブズパーソン/コミッショナーなどの設置が見送られたことは、最大の課題として挙げられます。子どもコミッショナー制度の議論が進み、認知度が上がったことは評価される点ですが、引き続き市民側がその機能について共通認識を社会のなかで生み出し、求めていく必要があるでしょう。

今回のこども基本法とこども家庭庁の設置により、子どもの声を聴くというときに、ふだん発言する機会が与えられていない子どもも発言できるように大人のファシリテーション能力が求められます。ましてや、マイノリティの子どもはなおさら発言することに困難を感じるため、私達がいかに一人残さず多様な子どもの声を聴く機会をつくり、それらを施策に反映させるかが問われています。

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甲斐田 万智子(かいだ まちこ)さん

認定NPO法人国際子ども権利センター(シーライツ)代表理事。

大学卒業後、日本ユニセフ協会勤務。その後、ブータン、インドに滞在しストリートチルドレンや貧困少女たちにかかわる。1996年にシーライツに入職。国内外で子どもの権利普及活動に携わる。2004年からカンボジアで児童労働・人身売買防止事業に従事し、2010年に帰国。2019年より子どもの意見表明・子どもアドボカシーの重要性について政策提言活動に従事。2020年はLGBTQ+などコロナ禍におけるマイノリティ子どもの声を聴く事業を実施。2019年アーユスNGO大賞受賞。

編著『世界中の子どもの権利をまもる30の方法』(合同出版)、監修『世界の子どもの権利かるた』(合同出版)等。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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